戦斧vs新陰流①
「それでは戦斧担当バノン教官と異世界剣術担当浅田新任教官の模擬戦を始める。
それぞれ訓練用甲冑を身に着け、刃引き(刃を潰して斬れなくしたもの)した武器を使用するものとする。
訓練用甲冑はダメージを受けた部位が動かなくなる仕掛けがあるので戦闘不能になった方を負けとする。
質問は?
なし。
双方前へ」
俺は慣れない甲冑を着こんだことで猛烈に後悔している。日本の甲冑を身に着けこともないのにいきなり西洋甲冑はないだろう。動きにくいし、視野が狭い。
俺の焦りを感じ取ったのかバノンが不敵な笑みでこちらを見ている。
「それでははじめ!」
俺は甲冑に慣れが必要なのと戦斧との戦い方を組み立てるため待ちを選択した。もっとも修練途中の柳生新陰流自体が後の先、つまり待ちの剣だから待ちしか選択肢がないのだ。
「どうした異世界人。もうびびったか。さっさと抜け!」
「・・・」
俺はまだ抜刀せず鯉口を切った状態(抜刀しやすいように鞘から少しだけ抜いた状態)で様子をうかがった。
「来ないならこっちから行くぜ!」
バノンは一気に踏み込み斧を振り下ろした。
斧の軌道を見切り体をかわし柄でバノンの手首を叩き顔に柄当てをお見舞いした。茜戦と違い手加減なしだ。ダメージは期待していない。甲冑を着てどれだけ動けるかの確認だ。
バノンは後ろにのけぞりよろめきながら体制を立て直した。
「効かんなあ」
そう言うと再び上段から振り下した。
同じようにかわすがバノンはかわした俺を戦斧の側面でではたいた。
こいつ虚実(最初の攻撃はフェイントで次の攻撃が本命)を使うのか。ダメージはないが戦斧の戦い方の一面を体感した。
俺はまったく反応できなかった。
「異世界人は虫のように叩き潰してやるよ」
幸いにもお互いに術を修めているためかムキになったど突き合いにならいのがせめてもの救いだ。ど突き合いになったら元の世界のアーマーバトルのように技もへったくれもなくなってしまう。もっとも甲冑同士の戦いだと斬れないのでどうしてもああなるのだろうが。こんなことなら江古田のドイツ剣術を体験しておくべきだった。
出来れば抜刀せずにやりこめてバノンの心を折ってやりたかったが戦斧の戦いの底が見えないので俺はゆっくりと剣を抜き雷刀(剣を上段に垂直に立てた構え)に構えた。