戦奴候補たち
「これだけか!これしかいないのか?」
副所長は不満げに言い放った。
戦奴志願者は俺のほかに3名いた。女子高生と思われるショートとロングの女の子が2人、50~60くらいと思われる初老の男性が一人。
「おまえら、ガント語で話せよ。日本語で話すのは禁止な。これからお前たちは武器を受け取り森に入ってもらう。先ほどのゴブリンやオークのほかにもこの森には魔物がうじゃうじゃ生息している。今回はあのようなことがあったので遺憾ながら志願者が少ない。よって、この4人で協力することを許す。全員で4体仕留めれば合格とする」
「あのー、もし3匹以下しか倒せなかった場合はどうなるのでしょうか?」
ロングヘアの女の子が質問した。
「その場合はこちらで不合格者を選び奴隷組に合流してもらうことになるな。見込みのないものを戦場に出すわけにはいかないからな」
「では、例えば一人で10匹倒したら?」
今度は俺が質問した。
副所長はニヤリとして
「そうなれば戦奴はなしにして下士官として1部隊を任せよう」
「なるほど、じゃあ張り切らないとな」
「お、いい覚悟だ。では準備ができ次第森に入ってもらう。準備してくれ」
副所長が陣幕に下がると初老の男が自己紹介を始めた。
「さて皆さん、せっかくですので自己紹介でもしましょうか。私は渡辺といいます。58歳です。元の世界に認知症のばあさんを残しているので一刻も早く帰りたいです。老体ではありますが可能性を信じてこちらを選びました。足をひっぱらないように心がけますののでひとつよろしくお願いします」
渡辺さん動機が重いな。
「浅田です。27歳です。元の世界ではサラリーマンをやっていました。
趣味で剣術と中国武術をやっていました。ブランクはあるけどどうせならこれらを活かしてのし上がれればと思っております。よろしく」
女の子2人は一緒に自己紹介を始めた。
ショートの子は
「私は白井 佳子 17歳です。高校で剣道をやっていてインターハイにでました。
モンスターなんかさっさと倒して元の世界に帰りたいです」
「こっちの子は吉川 紀子で同じ高校で1年後輩です」
続けてロングの子が
「吉川です。私は運動が苦手で部活はやっていません。役に立たないかもしれませんが奴隷は嫌です。佳ちゃん助けてね」
佳ちゃんと呼ばれたショートの子は任せろという表情で胸を叩いた。
「男前だな」
おれはなんとはなしにつぶやいた。
俺たちは並べられた武器を品定めしていた。
さすがは西洋ファンタジー世界だ。諸刃の剣や盾、鎧が並んでいた。
だが、俺が求めているのはもちろん日本刀だ。俺の身長が175cmだから2尺4寸5分の刀があるとありがたい。刀の山からそれらしい刀を見つけた。脇差(日本刀)ではないが片刃で反りがあり日本刀の代用として使えそうだ。これは脇差を知っているものが似せて作ったもののように思えた。俺はここれ以外にもロングソードとショートソードを持つことにした。防具は動きに影響の少ない軽装な皮の胸当てと具足をチョイスした。ワイシャツの上に胸当てを付けその上からジャケットを羽織った。帯がないのでベルトに脇差帯刀して背中にロングソード、小刀の代わりにショートソードを帯刀した。
女子高生たちはセーラー服に甲冑を身に着けヘルムとガントレットも付けていた。コスプレというかなんというかなんとも珍妙な姿に見えた。人のことは言えないが。
そう言えば、剣道経験者のショートの子は竹刀と刀の扱いの違いをわかっているのだろうか?
竹刀で「打つ」と刀で「引き斬る」の違いをわかっているのだろうか?
剣道の負けは次があるが剣術の負けは次がない。負けは死を意味するからだ。だから試合であり死合である。
異世界転生もので剣道のインターハイに出た経歴のある主人公が日本刀で無双する漫画があるが現実にはあり得ない。それだけ刀の扱いは難しいのだ。
たが俺も人の面倒を見るほど余裕はない。ブランクが長いからだ。俺は学んだ居合と新陰流の基本を復習することにした。