緊急招集
装備屋の前に来た。剣と盾あしらった紋章が彫られた重厚な扉の前に警備兵が2人並んでいた。いかにも軍の関連施設という感じで町の中では異彩を放っていた。
「あー、こんにちは。新人の特任戦奴です。」
俺は軽く挨拶をし、身分証明書を見せた。
兵士は敬礼すると
「特任戦奴どの、どうぞお入りください」
と扉を開け中に入れてくれた。俺も礼儀として敬礼して中に入っていった。
中は少しの見本が置いてあるだけでガランとしており戦奴と思われる兵士数名が商品を眺めていた。正直この世界の衣服や装備の良し悪しがわからん。店員に見繕ってもらったほうがいいかもしれないな。
「こんにちは、2日後に任地に赴くのだが装備を整えたい。適当に見繕ってはもらえないだろうか?」
俺はカンターにいた若い女性店員に声をかけた。名前のプレートには「アンナ」と書かれている。ここは軍御用達の店だからか帝国市民が運営しているのだろうか。
「いらっしゃいませ。初めて見る方ですね。どちらに行かれるのですが?」
「ダーウィン伯爵領というところらしいがなにぶん招待所を出たばかりでね。そこがどういうところかもわからないのです」
「あっ・・・。それは大変ですね。最前線ですよそこは」
「えっそうなの?そんなところに行かされるの俺?」
「その通り!待っていたよ、浅田君!」
大きな声で名前を呼ばれたので振り返ると細身でちょびひげを蓄えた軍人がツカツカと近づいてきた。手に持った杖の柄で俺の胸を軽くたたくと
「残念ながらショッピングは終わりだ。すぐにダーウィンに飛んでもらう」
「あなたは・・・」
「ビックス大尉だ。お前の上官である!」
俺は遅ればせながら敬礼をした。
「10分で買い物を済ませろ。表で待つ!」
そう言うと店から出て行ってしまった。
「・・・。なんなんだ一体。いきなり有無を言わせないで」
困惑する俺の姿を見て
「あら、よかったですね。ビッグス大尉の下で」
「有名人なのか?」
「指揮官としてとても有能な方との評判よ。その方がわざわ迎えにきたのだからあなたは相当期待されているのね。仲良くしたいわ」
アンナはそっと俺の手を握ってきたが俺はやんわりとすり抜け
「ん、時間がないからとりえず適当に見繕ってくれ」
とごまかした。
時間ギリギリになったが最低限必要なものをそろえて俺は店を出た。官給品がいまいちなのは自衛隊だけではないようだ。値は張ったがアンナは高い装備でそろえてくれた。自衛隊でいうと8千円の靴下とか2万円の合羽というところだろうか。
「あっ先生!先生も呼びされましたか」
「白井、君もか?」
「そろったな。ではさっさと行くぞ!」
俺たちは馬車に乗せられ「空港」に向かった。
上官と一緒なので白井と雑談をする雰囲気ではなかった。彼女もまた空気を読んでかおとなしくしていた。
「ビックス大尉、状況を説明いただけないでしょうか?いきなりで状況が呑み込めていません」
俺がそう言うと白井もうんうんと頷いた。
「わが駐屯地であるダーウィン領と魔族領の国境で大規模戦闘が始まった。現在魔導士の増援が向かっているが護衛する戦奴が圧倒的に足りない。君たちもすでに知っての通り魔導士はいわば大砲だ。だが呪文の詠唱に時間がかかる。その詠唱中の魔導士を守るのが君たちの任務だ」
「いや、そこまで詳しい説明はされなかったのですが」
「今した!だからすぐに使える戦奴を各地から急ぎ集めているところだ」
正に急展開だな。しかし空港って、飛行機はないだろうから飛行船か?まさか!
馬車の窓から外を見ると多くの飛龍が待機してた。
「まじか!あれに乗るのか?」
「着いたようだな。さあ!我らの搭乗機は飛龍707だ」
そう言うと4匹の飛龍が囲んでいる707と書かれたゴンドラを指さした。ゴンドラの四隅から飛龍の首に太い縄がつながれていた。
「まさか!あれで飛ぶのか!?」
すでに何人もの兵士が乗り込んでいる様子だ。そこには一般兵も戦奴の区別がなかった。