特任戦奴
命からがら海岸に戻ると副所長が待っていた。それだけではなく、警護の兵士達も装備を整え待機していた。
「大丈夫かお前たち!」
「なんとか無事です」
「そうか、ロベルトからの報告を受けて心配したぞ。
捜索隊は解散!ドラゴンがいるんじゃここは危険だ。ただちに撤収する」
船が島を離れ俺たちは帝都への帰路についていた。ヒーラーの治療を受け傷も癒えたので戦奴向けの部屋で休んでいた。10名程度の合格者を想定していたようでこの部屋は2人には広く感じた。
「先生、おめでとうございます。これで戦奴を飛び越して一般兵士の身分ですね」
「いやあ、20匹以上倒したから君も同じだろう?」
「私は結局1体も倒していませんから。それにドラゴンの姿に取り乱してしまい、成果をいただくような働きをしていませんので」
「だけど君が背中を守ってくれたから正面の敵に集中でできたんだから君の成果でもあるよ」
「・・・・ありがとうございます。でも多分帝都についたらお別れですね。もっとしっかり教えていただきたかったですけど・・・」
白井は悲しそうな表情を浮かべた。
「俺が習っていたものは流行っていない流派ばかりだけど帝国軍に配属になればほかの格闘技経験者がもっといるはずだよ。空手やボクシング、剣道だってそうさ」
「いえ、先生の武術を習いたいんです!ドラゴンとの闘いで見せた連打は見たことがありません!」
「あれは蔡李佛拳の掃拳と言って遠心力で拳または前腕を相手に叩き込むものだよ。
防御と攻撃が一体になっているから相手の打撃を払いながら別の腕で相手の首を刈るとかできる。そのダイナミックな動きと筋力よりも遠心力で威力ある攻撃ができるので女性にもできる欧米で人気の中国武術だ」
「なるほど!」
「短い間だけど君とはうまくやっていけそうだから同じ部隊に配属になれるといいとね」
「はい!そのときはよろしくお願いします!」
しばらくすると部屋に所長と副所長、ロベルト、グレンが入ってきた。俺たちは整列して敬礼した。
「楽にしてくれたまえ。これから君たちの評価と階級を通達する」
所長がそう告げるとほかの3名は複雑な表情を浮かべていた。
「残念だが本日の成果は評価に加えることができない。今日の成果が認められない理由は副所長から説明がある」
「ゴホン。君たちの申告によればゴブリン、オーク、スケルトン、グールなど合計22~25体倒したとのことだが、残念ながらそれを証明するものがない。ホットスポットの状況異常により彼らも戦闘せざるを得なくなり記録を取っていない。また、現場に確認に戻るにもドラゴンがいる以上危険が伴う。従って一般兵としての取り立てはない。残念だが」
あんな目にあってこのざまか。ロベルトとグレンを見ると手を合わせてすまなそうな顔をしていた。
「だが、それでは君たちも納得できないだろう。それは帝国への忠誠心に影響があるため一定の配慮をすることとした」
所長が話をつづけた。
「浅田 亨は戦奴の最上級階級 特任戦奴に任命する。そして魔導士を護衛する戦奴小隊を率いてもらう」
「白井 佳子は2番目の階級である一級戦奴に任命する。彼らから聞いているが浅田特任戦奴に弟子入りしているとういことを考慮して同じ小隊配属とする」
「君たちは帝都帰還後速やかに魔族領と隣接するダーウィン伯爵領駐屯地に赴き任務についてもらう。現地では君たちに合う武器も準備する予定である。以上だ」
白井が笑顔で喜んでいる。俺も正直うれしい。これからどんなことが待っているのだろ。ほかの小隊メンバーとうまくやっていけるだろうか?魔導士の護衛とはどんな任務なだろう?現地で俺たちも魔法を学べるのだろうか?期待と不安を胸にまずはそこそこの身分を手に入れたことに安堵した。




