ドラゴン
俺たちは地上に戻ったが状況が一変していた。地上は焼け野原になっており、あちらこちらに魔物の焼けた死体が散乱していた。その中で巨大なドラゴンが歩き回っていた。
なんだあれは!あんなのと戦えないぞ。俺は恐怖に飲まれ立ちすくんでしまった。
白井が悲鳴を上げている。だがそれを気に掛ける余裕はもはやなかった。
ドラゴンがこっちらに振り返りノシノシと迫ってきた。
俺は震えながらも刀をドラゴンに向けた。白井は座り込んで放心状態だ。
「ふん、暇だから地上に出てみれば無礼な魔族どもばかりだったので軽く「掃除」してみたがまだ人間がいたとはな」
恐怖に飲まれつつもドラゴンの言葉に希望を見出した。
まだ、ということはあの2人を見ているな。
「に、人間が二人いたはずだ。殺したのか?」
俺は気力を振り絞りドラゴンに尋ねた。
「人間なら我の姿を見てさっさと逃げてしまったわ」
よかった。なら援軍が来る可能性はゼロではない。
「我はまだ暴れたりない。貧弱な人間よ。我と戦え!」
暇?暴れたりない?殺戮が目的でないならうまく交渉すれば条件がつけられるかもしれない。
「お、おまえは退屈しているのだろう?なら戦ってやる。但し条件がある。俺の刀はいまにも折れそうだ。巨大なお前に立ち向かうことはできない。だから人間サイズになってくれ。それが条件だ!」
「面白いことを言う人間だ。いいだろう。乗せられてやる」
そういうと巨大なドラゴンはまばゆい光を放ち人間サイズに変身した。そこには見たことがあるあの人の姿があった。
ブルース・李!!
「人間。お前の心を読ませえもらった。ドラゴンとゆかりのある人物の姿を再現した。お前たちの世界ではこの男がドラゴンなのだな」
「さあ、行くぞ!」
くそ、よりによってブルース・李か。だがあれは本物じゃあない。ちくしょう!やってやる!俺は状況に飲まれてしまい剣ではなく拳で戦うことを選択してしまった。牽制で左人差し指を立てる洪家拳の構えをとった。
変身したドラゴンは大きく振りかぶったパンチを放ってきた。このようないわゆるテレフォンパンチに当たるほど衰えてはいない。なんなくかわした。見かけがブルース・李なだけで実際の動きはまったくの素人だ。これなら戦えそうだ。
俺はドラゴンの動きをさばきながら打撃を入れていった。だが何十発当てようといっこうにダメージを与えられない。それどころか皮膚が人間よりも固いのでこちらの拳が痛くなってきた。
「どうした?我はまだピンピンしているぞ。それにお前の攻撃は見慣れてきたぞ」
実際いくつかの技はかわされ始めている。くそ、どうする?酔拳を混ぜるか?
酔拳は流派として知られているが闘い方の一つの手法でもある。相手のタイミングをずらすために通常技に酔拳の要素を混ぜると効果的である。師父は蔡李佛拳の技を酔拳風にアレンジして技を見切られた相手のタイミングをずらすことに使っていた。要は緩急つけるということだ。
だが技が当たってもダメージを与えらえないとなると・・・。関節技か。関節技は小中学生のときに合気道しかやったことないな。
俺の中で合気道の評価は低い。申し合わせの中であれば使えるがそれがない場合は使えないと思っている。蔡李佛拳の師父に合気道の三教をかけて帰り打ちにあったからだ。剣術の経験があると合気道は小刀を持った相手の対処法であることがわかる。コンビネーションを使った打撃系の技にはついていけないと感じている。だから罠を張るしかない。
「今度はそっちから来いよ。俺の腹を打ってこい!」
さて乗ってくるか?正面打ちや横面打ちは誘うには不自然だ。だからこれしかない。
「なにか策を弄しているな。いいだろう、乗せられてやる!」
ドラゴンは俺の腹めがけえ右パンチを放った。俺は半身にかわし相手の手を取り小手返しを仕掛けた。ドラゴンはこちらの目論見通り投げられ、すかさず体を入れ替え組み伏せ三教を決めた。
だが、ドラゴンは痛がる様子がない。俺は焦り限界まで締め上げた。ドラゴンの右腕はあらぬ方向に曲がっていた。
「どうした?これが全力か?」
俺はドラゴンの言葉に恐怖しさらに締め上げた。
「つまらん」
そう言うと力ずくで腕をもとに戻しはじめ俺の頭をつかみ投げ飛ばした。
俺は数十メートル投げ飛ばされた。
ドラゴンがゆっくりとこちらに向かってくる。人のサイズではあるが全身に鱗が浮き上がりブルース・李の姿から変化していた。
俺が後ずさると手に剣が当たった。ドラゴンブレスで当たり一面焼け野原で黒くすすけているので見えなかった。奴にも見えていないことを期待し最後の賭けにでた。
ドラゴンが間合いに入るやいなや虚として下からの斬り上げを行い、実として左肩からの袈裟斬りを放った。斬り上げはかわされたが袈裟斬りは左肩深く斬りこんだ。だが右わき腹から抜けることはなく仕留めらなかった。
ドラゴンが剣を抜くと
「たいしたものだ。これだから人間は侮れない。」
ドラゴンは抜いた剣を振りかざし俺を一太刀に仕留めようとしている。
もうだめだ・・・。
そうあきらめたときに2頭の馬が現れ一瞬のスキをつき俺たちを救い出してくれた。
「遅れてすまない。しかしよく生きていたな」
ロベルトがそう言うと俺は安堵し
「命の危険があるまで手を出さない、だろ?」
と答えた。




