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魔神の下で勇者を目指してみた結果。  作者: 風遊ひばり
第一章 魔神のお膝元
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8 魔神の宴


「ディエス君が改めて決意してくれたのはいいけど、『宴』の準備はいいのかしら、フォリアお姉様?言い出すタイミングを計っていたのでしょう?」



カミーリアが突然そんなことを言い出した。フォリアの動きが止まり、徐々に焦燥の色が現れる。



「忘れてたわ……そういえばディエスも十歳になったものね……。カミーリア、手紙を書くから、ゼクセクスとアイリーン、あとセレスとドライウス……じゃなかった、今はセルティアね。この四人に送ってちょうだい」



フォリアがそう言うや否や、机の上で四本の羽ペンが独りでにそれぞれ別々の紙の上を走りだす。その横でカミーリアは召喚魔導の魔導陣を展開し、鳩のような鳥を呼び出していた。


それらの魔導を横目に、先ほどのフォリアの言葉を思い出していた。



(ゼクセクスに手紙?ついさっき倒す決心をしたばっかりだってのに、そいつは敵って訳じゃないのか?


それにアイリーン、セレス、セルティア……この人達も魔神?だとしたら、そいつらもフォリアもゼクセクスと親密な関係が?『勇者』と呼ばれる者がいるぐらいだから、相応の敵もいるはずだが……。


フォリアを見る限り『魔神』は敵に見えない。なら、『勇者』は何を経て『勇者』となったんだ?)



それぞれ手紙を脚に括り付けた四羽の鳩が窓から飛び出していった。その姿が空に紛れて見えなくなるまで眺めながらぼんやりと答えを探していたのだが、勇者になることを漠然と、だが強く決意したディエスは最も重要な疑問を抱いていなかった。


――何故魔神が勇者を育てるのか――



          ♢♢♢♢



数日後の朝、カミーリアの鳩が返ってきた。そのうちの二羽には返事の手紙が括り付けられていた。


フォリアに聞いたところ、元々ゼクセクスとアイリーンに送った手紙には『宴』とやらに参加する旨を伝えただけで返事は期待しておらず、セレスとセルティアに関しては友好な関係であるため律儀に返事の手紙を出してくれたらしい。


同年代の友達がいないディエスが、手紙のやり取りをする相手のいるフォリアを地味に『羨ましい』と思ったのは秘密だ。



いや、前世は多少ラインする相手ぐらいいたし。主にハゲの課長とか。……悲しくなってきたな、止めよう。



その後、フォリアの『さ、今から行くわよ!』の一言で俺は連れ出され、現在は行先も聞かされずフォリアと二人でグリフォンのような有翼魔獣の背中に乗って空を飛んでいる。



空から見下ろす魔神の領地は、およそ魔族が住んでいるとは思えないほど自然に溢れており、尚且つ人間が住めるとは思えないほど鬱葱と生い茂った森の中だった。


生まれた時からここに住んでいる俺は素直に綺麗だと思うだけであったが。



「ところでどこに向かってるんですか?あ、できれば具体的な場所で……」



さすがに未だに行先を知らされていないのもあれなので、いいかげんこれは聞いておかないといけない気がする。ついでにフォリアなら『ゼクセクスのところ』と適当に答えそうなので、最初から釘を刺しておいた。



「ゼクセクスの……って、具体的な場所ね。フェンネル王国とエーデリット王国、あとエクレシアス聖国の三国が接してる国境の辺りかしら?」


「え……?」



どうやら国を超えるギリギリのところまで移動するらしい。ディエスが住んでいたのはエーデリット王国の中央から北へ半分ほど進んだ、『マイズ大樹林』の入り口付近らしい。


かなり国土が広いのでフェンネルとの国境に向かうにしても数百kmはありそうなのだが……そこはさすが魔獣クオリティといったところか。


グリフォンは飛行機並のスピードで空を駆け抜けるうえ、風属性の魔導なのか、温度が適度に保たれ風圧もそよ風程度だ。もちろん酸素濃度も保たれている。


実はディエスの乗っているグリフォンのように魔導を扱える魔物というのはそれだけで脅威とみなされ、最低でもB+、場合によってはAランクを超える個体も存在する。


Aランクの魔物は普通の規模の町でも単独で破壊してしまう程の力を持った魔物なのだ。討伐するには同じくAランクの、つまり歴史に名を残すような大冒険者でもなければ対抗などできるはずもない。Bランクの冒険者では何人いても物の数ではないのだ。



ちなみに、フォリアの庇護下で魔力が強化されたこのグリフォンは、既にA+相当の評価であり、グリフォンでありながら最上位種であるドラゴンに次ぐ強力な魔物であった。


そんな強力な魔物にスピードが遅いはずもなく、眼下の景色は次々と後ろへ流れていき、代わりに大きな町が近づいてきた。



自分が住んでいたところとは雰囲気が違うので、なんとなく国境なんだなと直感する。


国境付近の町に入る少し前の地点で着陸し、そこからは歩いていく。さすがに魔獣に乗って町に入るのは騒ぎになるし、不法侵入にもなる。


もしバレたら……ディエスなら犯罪者として連行されるだけで済むかもしれないが、フォリアは魔族だから大変なことになる。


一応フォリアは角や尻尾も隠して人間にしか見えない姿ではあるのだが、人外レベルの美貌は全く隠せていないので、これはこれで騒ぎになりそうである。主に男たちが。


フォリアはそんなことを気にも留めず、綺麗な金色の髪を靡かせて颯爽と街に検問所へと向かう。


町の入り口に立つ衛兵二人にフォリアは名刺ぐらいの大きさのカードを見せると、門番がフォリアの姿を見て数秒固まっただけで大した問題も起きず、検問を難なく通過した。



「今のは?」


「あ、これ?これは『リブズカード』と言って、身分証明みたいなものね。人間としての私の身元をこれで保証してるの。あなたのカードは私が持ってるわ」



なるほど、それがあれば町の出入りにも一々止められなくていいわけか。詳しく聞いてみると、いくつかの付加魔導がかけられており、破れないし燃えない。


その上カードの面積以上の個人に関する情報を記録しておくことができるらしい。



もちろん虚偽の記録はできず、代わりに見せたくない情報については隠しておける。どの国においてもかなりの信頼性を誇り、この世界においてはオーパーツとも言えるほどハイテクだった。


そのまま観光することもなく一軒の古びた教会のような建物に足を運んだ。


どうにも使われてなさそうにも見え、手入れもされていないのか建物の壁には所々ヒビが入っており、教壇や数々の装飾品も埃をかぶっていた。



他に誰もいない教会の中を構わず突き進むフォリアについていく。一番奥の一番端、最も人目につかない場所でフォリアが立ち止まる。目の前には翼を翻す天使の像、その胸元にはた小さな魔導陣が刻まれていた。


魔導陣の大きさはディエスの手のひらサイズなのだが、恐ろしく複雑で精巧な作りは、この魔導陣を刻んだ者の技術と実力の高さが垣間見える。と言うかおそらくカミーリア以上の者、つまり人外の仕業である。


フォリアがその魔導陣に手を翳すと、魔導陣はほのかに輝き始める。その直後、一瞬だけ強烈な光に包まれ、体の周りで魔力が波打つのを感じた。



カミーリアに教わった、召喚魔導の応用である『転移魔導』と似た感覚だ。


視界が回復し目を開けると左右の石壁から突き出た燭台のロウソクによって薄暗く照らされた廊下に立っており、その先には厳かに聳える高さ4mはありそうな扉が見えた。



「さ、この先の部屋でついに他の魔神達とご対面よ。まぁまだ揃ってないと思うけど、変に緊張しなくていいからね?」



フォリアがそう断りを入れ扉に手を置く。巨大な扉は重さを感じさせず、尚且つゆっくりと、雰囲気を醸し出しながら開いた。さて、他の魔神勢がどんなものかじっくり見せてもらうとしようか。


部屋の内装を見て最初の感想が『裁判所』だ。入ってきた扉は言うなれば被告人側。そこより高い位置に半円状に台があり、魔神達はそこに座るのだろう。扉からちょうど正面上に見える位置に座る一人の男性。



黒いローブで身を包み、フードを深く被っていて顔は見えない。しかし魔力は隠す気もないのか、さほど大きくない体から滲み出るそれは恐ろしいほどに強大で、どこまでも黒く深かった。


フォリアと似たようで本質の全く違う魔力を持つ男を一目見てディエスは直感した。この男がゼクセクスであると。


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