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魔神の下で勇者を目指してみた結果。  作者: 風遊ひばり
第四章 エクレシアス聖国編
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84 この世界の真理へ

「人の子達よ、初めまして。私がアイリーンです」



まるで鈴が鳴るかのような澄んだ声が響き、ディエス達はハッと我に返った。

すると、クロム達は慌てた様子で膝をつき、教会で祈りをささげる時と同様に頭を垂れた。


それも仕方がない。

この世界で最も広く浸透している宗教と言えば、アイリーンを神として崇める『女神教』である。宗教が根強く浸透しているこの世界では、老若男女問わず信心深い者が多く、クロムやアランも同様である。



そんな彼らの前に、神と崇めるアイリーン本人が現れたのだ。

実在することは言い伝えられているが、もちろん見るのは初めて。


信者にとっては、まさに天変地異。

頭を垂れるほかに無い。



そうしなかったのは、魔神の子であるディエスとロゼの二人だけであった。

アイリーンはそんなディエスとロゼに構うことも無く、アイリーンは口を開いた。



「顔を上げてください。デルマニエルから話は聞いております。解呪が必要なのでしょう?」

「そうですね。お久しぶりです、アイリーン様」

「お久しぶりですね、グラシエル。貴方からも言ってください。このままでは話も出来ません」


「……だって、みんな。アイリーン様がそう言うんだから顔を上げな?」



グラシエルの言葉を聞き、クロム達もようやく姿勢を正し始めた。しかし緊張からか、その表情はぎこちない。



「では皆さん、改めまして。私がアイリーン・エクレシアスです。デルマニエルから話は聞いていますので、まずは解呪をしてしまいましょう」

「は、はい。お願いします……」



アイリーンの指示に従い、ディエス達は袖を捲り上げて痣を出す。

その痣を見て、アイリーンはほんの少しだけ眉間に眉を寄せた。



「やはり魔王アルテマ……強力な呪いですね。しかし」



ディエスの腕を取るアイリーンの手に光が集まり、黒い痣が空中に浮き始めた。

幻想的な光景に、思わず目が奪われる。


すると、浮いた黒い痣が端から徐々に崩壊していき、消えていく。



「こんな簡単に……」

「私の魔力は『犠牲(サクリファイス)』の特性を持っています。他人のダメージや怪我、今回のような呪いを肩代わりすることができるのです。そして、魔力を相殺すれば解呪の完了です」



そう説明を受けている間に、ディエスの腕にべっとりと滲んでいた黒い痣が綺麗さっぱり無くなった。

隣で見ていたグラシエルも『流石は師匠……』と感嘆の声を漏らしている。


それから五分もする頃には全員の解呪が完了した。

全員の解呪を終えたアイリーンは、改めてクロム達を正眼に据えて口を開いた。



「クロムさんとアランさんと言いましたね。あなた方も、もはや無関係とは言えません。私からはっきりと説明しておきましょう」



真剣な表情のアイリーンに、クロムとアランは背筋を伸ばした。

普段のアランからは想像できないほど従順な様子である。



「まず最初に、魔王と呼ばれるものは自然には発生しません。例外なく、ある人物が魔法によって産み出した魔物です」



クロムとアランの反応はない。

アイリーンの言っていることが理解できないといった表情だ。


それも仕方ないだろう。

魔神を知っているディエスやロゼはともかく、魔法など存在しないというのが常識なのだ。

二人の反応がむしろ普通である。



「今存在が分かっているのは、『審判ザ・ジャッジメント』アルテマ、『正義ザ・ジャスディス』ディアール、『女教皇ザ・ハイプリーステス』マリーグレア、そして『魔術師ザ・マジシャン』キロネスタ……あっていますか?」



ふいにアイリーンの視線がロゼを射抜く。

ロゼはビクッと肩を震わせた後、ぎこちなく頷いた。


アイリーンは当然、ロゼがゼクセクス側の人間であることは知っている。

今ここで戦闘にならないのは、アイリーンがロゼを敵と見ていないのか、それともいざとなっても勝てるという自信の現れなのか。


どちらにせよ、アイリーンの実力は計り知れない。



「そんな魔王を産み出した張本人こそ、魔神ゼクセクスなのです」

「魔神……ですか……?」

「えぇ、信じられませんか?」

「それは……そうですね。いくら女神様の口からなされた説明でも、これはあまりにも……」



クロムの口から漏れた言葉に、『それはもっともだ』と言うようにアイリーンは頷いた。



「これに関しては、信じてくださいと言う他にありません。紛れもない事実なのですから」



アイリーンの言葉にクロムは閉口しながら頷く。



「つまり、そのゼクセクスを倒さなければ、また今回のような魔王に関する事件が収まらないということです」

「そんな……なんとかなりませんか?」

「魔王を倒すのには『勇者』の力が不可欠です。今回、アルテマを倒した時のように……」



アイリーンの口から、『勇者』についての説明がなされた。

相応しい者には『勇者の器』なるものが備わり、相応の行動によって徐々に力が解放されていくらしい。



「私の見る限り、最も『真なる勇者』に近いのはロゼさん、次にクロムさんのようですね」

「っ!では……!」

「いえ、それでもまだクロムさんでは魔王にも届きません。まだまだかつて存在した『真なる勇者』と比べれば、まだまだ程遠いです」

「っ……そうですか……」

「気を落とすことはありませんよ。女神の私から見てクロムさんはそのうち、皆に『勇者』と呼ばれる傑物になるでしょう。……ですが、そうですね……」



何かを悩むような表情のアイリーンに、クロム達の視線が集まる。



「私の知り合いに、『ビュトス』に師事していた剣士がいます。その方に、クロムさんを鍛えるように頼んでみましょうか」


「えっと、すみません……ビュトスというのは……」

「ビュトス・ソフィアー。二千年前、ゼクセクスに挑んだ唯一の『真なる勇者』です。貴方がたの間では、伝説でその名は残っているのでは?」

「やはりそのビュトスなのですね……実在したとは……」

「そのあたりの詳しい話はまたいつかにしましょう。……それで、どうでしょうか。私としても、ゼクセクスに対抗できる人材は多いほど助かります。それが勇者ともなれば尚更です」

「私は構いませんが……その人物というのは?」

「武装国家ノルトロメアの守り神、ゴッドセレス・ノルトロメアです」

「え、あの人が?」

「ディエスは知っているのか?」



思わず声を出すディエス。

ディエスにとって、セレスはフォリアとガールズトークしていたイメージしかないので、『守り神』と言われてもピンと来ない。



「あの人そんなに強いんだ……」

「そうですね……今の貴方がたが本気で戦っても、斬られたことに気付く前に首を落とされて終わりでしょうね」

「そ、それほどですか……」

「えぇ。ですが朗らかで表裏の無い性格ですので、訳を話せば快く引き受けてくれるでしょう」

「それじゃ、クロムくんはエクレシアス聖国に引き続き、次はノルトロメアに研修に行くかい?」

「良いんですか?」

「もちろん。クロムくんの思うようにしてくれればいいさ」



アイリーンの提案にグラシエが乗っかり、クロムは【武装国家ノルトロメア】に行くことが決定した。

グラシエルはよほどクロムのことを信用しているようだ。



「じゃ、話も纏まったことだし今日はお開きとしようかな。師匠、突然お呼びして申し訳ありませんでした」



パンッと手を叩き、グラシエルが無理矢理話を締めた。

それに対し、アイリーンは少しだけ顰め面になる。



「……私はもう少し話したいことがあるのですが……」

「いやー、師匠の語りと説教は長いですからね。ほどほどにしておかないと僕の生徒も疲れますよ」

「あなたという人はまったく……ですが、ロゼさんとディエスさん。貴方達二人は残って頂けませんか?」



ディエスとロゼという組み合わせに、ディエスは離しの内容を何となく察した。

魔神に育てられた二人のみ残すということは、それに関係のあることなのだろう。それも、他の人達には聞かせられないような重要なことを。



「僕は構いません。ロゼは?」

「えぇ……私も残ります」



アイリーンとある意味敵対関係にあるロゼは、少し緊張気味になりながらも了承した。

部屋を出ていくクロム達を見送り、ディエスとロゼ、そしてアイリーンが向かい合って座る。


アイリーンは二人の目を見つめ、いきなり本題を切り出した。



「貴方達二人は、この世界がどこか歪だと感じたことはありませんか?」




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