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魔神の下で勇者を目指してみた結果。  作者: 風遊ひばり
第四章 エクレシアス聖国編
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81 召喚術の真髄

一夜明け、宿の食堂で朝食を済ませた八人は、『エクレシアス聖神学院』に向かっていた。まだ、授業が始まる前の時間帯だ。


グラシエルによると、先方の都合により解呪を行うのは数日後になるらしい。そのため、一先ず聖神学院で研修を進めるとのことだ。



「『聖神学院』は騎士や魔導士のコースのほかに、召喚士のコースが用意されているほど、召喚術が盛んに行われている。かく言う僕も、一年生の時にここに短期留学に来て『聖霊召喚』を覚えたんだよね」


「そうだったんですね」



クロムの説明にディエスが頷きを返す。クロムがここまでの強さを得た訓練だというのなら、期待も膨らむというものだ。



しばらく歩いて聖神学院の正門前に着くと、そこには二人の人物が立っていた。一人は恰幅の良い初老の男性、もう一人は細身で気の弱そうな若い男性である。



「ようこそ御越しくださいました。聖神学院の学院長を務めますミース・ホーリストと申します」


「私は召喚士コース担当教員、マルフィ・アルデロイトと申します。短い間ですがよろしくお願いします」


「どうも、僕がエーデリット騎士官学校の学校長、グラシエル・グレイスノーツです。……しかし、ミースも歳をとったものだね」


「お主が変わっとらんだけじゃ、グラシエルよ」



どうやら、二人は知り合いだったようだ。隣に立っているマルフィさんも驚いた表情をしている。



「ふむ、そちらの生徒さん達が、今期の……なるほど、確かに基礎力が総じて高いの」


「そうだろう?僕が手塩にかけた自慢の生徒達さ」



それからミースとグラシエルは二、三、世間話をし、8人は応接室へと案内された。ミースが席を外し、マルフィから説明を受ける。



「みなさんは『召喚術』の勉強をしたいということで、今回は召喚士コースで研修を行っていただきます。短期になりますので、学年問わずこちらの三年生の教室で勉強をしていただきますね」


「ロゼは騎士官学校生じゃないけどいいのですか?」


「特例ですが。本来ならお断りさせていただくところですが、リブズカードによって身元もはっきりしていますし、グラシエル校長自らの推薦もありましたので承認しました」



それはありがたい。ロゼ一人だけフェンネル王国出身だったため心配だったが杞憂だったようだ。



「名門エーデリット騎士官学校でも優秀な生徒達だとお見受けしますので、双方にとってよい刺激になるのではないかと。よければこちらの生徒にも色々と教えてやってください」


「もちろん、お互いに研鑽し合いましょう」



クロムとマルフィが握手を交わし説明は終了。早速教室へと案内された。授業の時間まであと数分あるというのに、教室は非常に静かであった。


マルフィにドアの外で待機を指示され、七人は教室の外で待ちながら呼ばれるのを待つ。既にグラシエルは別行動しているようだ。



「皆さん、おはようございます。本日はエーデリット騎士官学校から七人の生徒が来校し、しばらくこの教室で皆さんと一緒に召喚術の勉強を行います。それでは紹介しましょう。皆さん、入ってください」



マルフィの指示を受け、クロムを先頭に教室へと足を踏み入れる。と、その瞬間。ザワッと俄かに教室が騒がしくなった。



クロム先輩もイケメンだし、アリゼやロゼもかなりレベルの高い美人だから仕方ないのかもしれない。



「エーデリット騎士官学校から来ました、クロム・コルネフォロスです。短い間ですが、よろしくお願いします」


「……同じく、アラン・カスパールだ」

「エーデリット騎士官学校一年のディエス・エーデルリッターです。よろしくお願いします」

「騎士官学校一年生のアリゼ・ユーセスティアよ。よろしく」

「リーリエ・フランカートなのです。よろしくお願いしますですっ!」

「レヴァルだ。あー……魔導は全般苦手だから、手加減してくれると助かる」

「えっと……ロゼ、ロゼと言います。よろしくお願いします」


「ありがとうございました。彼らは『召喚術』を覚えるために来ていますので、皆さんからも色々と教えてあげてください。では、皆さんは後ろの空いている席へ」



マルフィに促され、七人は席に着く。周りからチラチラ見られたり、小声で話しかけられながらも、今日の最初の授業が始まった。



          ♢♢♢♢



午前の授業が終わり昼食をとった七人は、マルフィの案内で闘技場を訪れていた。騎士官学校と同様に午後は実践型の授業が展開されており、召喚術を使う生徒達で随分と賑わっている。


様々な召喚獣が姿を見せる中、一際目立つ存在があった。



「やれ!サラマンダー!」

「グオォォォォォッ!」


「ぐあっ!」



炎を纏う、体長5mはありそうな四足歩行の竜と、その竜を扱う男。そして炎を防ぎきれずに吹き飛ばされる一人の生徒。受けた生徒の召喚獣は魔力不足で送還され、既に戦える状態ではない。


が、そこにさらに追撃が加えられようとしていた。



「待てっ!試合は終わりだ!」


「……ちっ、止めんじゃねぇよ」



他の生徒の介入に興が削がれたのか、その男は対戦していた生徒をつまらなそうに睥睨し唾を吐き捨てた。



「これはお恥ずかしいところを……彼はアスター。実力はあるのですが素行が良くなく、良い意味でも悪い意味でも目立つ生徒です」



心底申し訳なさそうにするマルフィにディエス達の視線が集まる。唯一クロムだけが、彼の召喚獣であるサラマンダーを見ていた。



「なまじ実力があるからなかなか周りも注意しにくいんだね。でもなんだか可哀そうだ」



クロムは一言そういうと、闘技場に脚を踏み入れ、真っ直ぐにアスターの下に向かっていった。



「あ?何だてめぇ」


「やぁ、僕はクロム。エーデリット騎士官学校から研修に来ていてね、たまたま君の戦いを見させてもらったよ」


「ほぉ、俺の召喚術に惚れでもしたか?」


「いや……悪いけど君は根本的に間違ってるよ」


「何だと!?」


「君のやり方では、召喚したサラマンダーを無理矢理従えてるだけだ。サラマンダー自身の意思を完全に無視している。それではサラマンダーも本来の実力が発揮できないよ。それが可哀そうでね、我慢できなかったんだ」


「部外者が偉そうにっ……だったらてめぇは俺よりも強いってのかよ?」


「もちろん」


「っ!!」



顔を真っ赤にしてプルプルと震えるアスター。周囲で見ていた生徒も何だ何だと集まってきた。多くの生徒に囲まれる中、アスターがクロムを睨みつけて声を上げる。



「だったら今ここで俺と戦ってみやがれっ!」


「良いだろう。召喚術というものを教えてあげるよ」



なんかクロム先輩、ちょっとだけ怒ってるな。倒れた相手にさらに攻撃を加えようとしていたし、それが我慢出来なかったんだろう。


騒めく生徒達に囲まれつつ、アスターとクロムが距離を空けて対峙する。アスターは既にサラマンダーを召喚している状態なので、クロムが召喚を行うのを待っているのだろう。



「折角だし、今日の授業の復習だよ、ディエス。まず召喚に必要なのは、混じりけのない純粋な魔力。これはどの属性においても一緒さ」



十二の星が輝くロングソードを抜き放ち天に掲げると、上空に白く輝く魔導陣が現れる。それを見て、聖神学院の生徒達の間でざわめきが大きくなった。



「次に魔導陣と呼びかけ。自分がどんな人間なのか、何のために呼び出すのか。そういった心をしっかりと召喚される者に伝える必要がある……『満天に嘶く星々よ、我が聖剣に集え!』」



クロムの呼びかけに応じて魔導陣が一層強い輝きを放ち、一条の光が降り立った。



「そして、召喚された者と心を通わせること。さぁやるよ、『エルナト』」



光は次第に人の形に変わっていき、両手斧を構える巨躯の騎士、『牡牛座』のエルナトとなった。その姿を見て、周囲の生徒達の目が驚愕に見開かれる。


毎日のように召喚魔導の訓練をしている聖神学院の生徒達でさえ見惚れてしまう程、クロムの召喚魔導は洗練され美しいものであった。



「はん、大層な召喚魔導だと思ったら、出てきたのはそんな奴か。やれ!サラマンダー!」

「グオォォォォォォッ!」



アスターの呼びかけによって、巨大なサラマンダーが襲い掛かる。そんな相手を前に、クロムの余裕は変わらない。



「ここまでが基礎。そしてここからが応用だよ。まずは……」



喋る途中のクロムに、サラマンダーの腕が容赦なく振り降ろされた。あまりの威力に、砂が舞い上がり視界を遮る。


流石に今のでクロム先輩がやられるわけ……


ディエスがそう考えていると、案の定クロムは無事であった。それどころか、巨躯のサラマンダーの腕を片手で受け止めている。



「一応君にも言っているんだから最後まで聞きなよ、アスター君。これが、『憑依』。召喚した者の魔力を借りて、その力を身に宿す『召喚術』だ。普段アランがやっているのと同じだね」



ディエスがアランに目を向けると、アランは何も言わずに肩を竦めた。確かに『魔弾』は悪魔であるザミエルに貰ったもののようだし、召喚獣そのものを戦わせなくても魔力を借りるという方法もあるのか。



「なんだよそれっ、なんで受け止められる!」


「エルナトのパワーを舐めちゃいけないよ。そして、最後の応用が『同化』だ」



クロムがサラマンダーを押し返すと、『牡牛座』のエルナトが突然白い霧のような状態になり、クロムの身体に纏わりつく。すると、クロムがエルナトと同じような厳つい鎧姿となり、手には両手斧が現れた。


そして、纏う魔力も只事ではない。物理的な圧力も感じるほどに濃密な魔力に、対峙しているアスターはたじろいだ。



「聖霊や悪魔はもともと実態を持っていないから、身体に宿すことによって魔力だけでなく身体能力そのものを一時的に借りることができる。君のサラマンダーも元々は火の聖霊だし、出来るんじゃないか?」


「し、知らねぇっ、出来ねえよそんなのっ」


「それは君がサラマンダーと心を通わせていない証拠だ。君がこれを見て、少しでもサラマンダーと向き合ってくれることを願うよ」



クロムはそれだけ言うと、斧に魔力を集めだした。凄まじい量の魔力が渦を巻き、ゴゴゴッと地面が揺れているように感じる。



「待っ……!」


「聖斧技――エストレラ・フォルス!」



瞬間、闘技場内が光に包まれ、同時に物凄い轟音が響いた。あまりの威力に、誰しもが数秒間、声を上げることすらできないでいる。



光が収まって数秒したところでようやく観戦していた生徒が正気に戻り、自身の無事を確認してほっとしている。


そして戦いの中心には、『同化』を解除してエルナトを送還するクロムの前にクレーターのように大きく陥没した地面があり、その向こう側でアスターが気絶していた。

どうやらクロムは地面に向けて技を放ったようだ。



脅しにしてはやりすぎな気もするが、これだけやればいい薬にはなるだろう。

こうして、クロムとアスターの試合は幕を閉じた。


そして、聖霊の召喚に加え『憑依』や『同化』まで使いこなして見せたクロムに、教えを乞う聖神学院生が殺到したのは言うまでもない。




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