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魔神の下で勇者を目指してみた結果。  作者: 風遊ひばり
第一章 魔神のお膝元
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2 予習と復習

解説回となります。

およそ一年。毎日のように本を読み聞かせてもらっていたディエは、自分で文字を読むのに苦労しない程にはなっていた。


文法が地球のもの……というより日本語と大きく変わらなかったのも大きいだろう。


そして、すでに二足歩行という移動手段を手に入れていた俺の好奇心を止められる者はいない。


かといって今の体で歩ける距離などたかが知れているし、寝る前の日課にしている魔法の練習にも体力を残しておきたい。



そう、ディエスはカミーリアが目の前で魔法を使い、本を出現させた光景を目にして以来、この家……というより城の者の目を盗んで毎日のように魔法を練習していたのだ。


やはり定番の火の魔法をイメージし頑張ってみたのだが、指先にロウソクの灯くらいの火が出る程度ですぐ消える。その上、数回火を出しただけで眩暈がし始め、体がだるくなることがよくあった。


おそらく魔力切れというやつだろう。乗り物酔いの酷い状態に似ている。



やりすぎた時にはそのまま意識が遠のいて、いつの間にか寝ていることもあった。


まぁ日を重ねるにつれ火の大きさや出せる回数も大きくなっているので、これは練習次第で何とかなるだろう。


魔力を限界まで消費して回復させるというのを繰り返す行為が練習としてあっているかは疑問だが、他に方法を知らないのでこうするしかない。


本当は回復次第消費して魔力を高めていきたいところなのだが、昼間から眩暈に襲われて気絶とか怖すぎる……。


というより、そんな状態をフォリアやカミーリアに見られでもしたら、きっと泣く程心配させてしまうだろう。



それは何というか、とても嫌だ。


と言う訳で、昼間は本を読んだりしてこの世界のことについて調べたり、姉たちに構ってもらう程度にしておいて、魔力を使い切るのはベッドに入って眠る直前だけにしていた。



この世界について自分なりに色々調べ、前世との違いをまとめてみた。やはり一番大きなのは『技術の発展』だろうか。


地球の科学技術は言わずもがな、それと比べればこっちの世界がどれだけ不便か。地球での中世ぐらいか。


一番技術的なのは銃ぐらいのものである。あの時俺が思い浮かべた世界がここまで忠実に再現されているとは、調べてみて改めて驚いた。


次はやはり魔法の存在だ。科学が発展していないのは魔法の存在によるものかも知れないが、まぁこれについては詳しいことは今日調べるのだ。



そして俺は今、この世界について徹底的に調べるためにエスフォリーナに頼んで書庫に連れてきてもらっていた。何しろ頭の中はアラフォーなのだ。本の内容の理解が早ければ喋りだすのも早い。


そんな俺を特別優秀な子だと、何の疑問も持たないエスフォリーナは純粋に嬉しそうであった。



さて、最初に手にしたのは歴史の本。


と言っても伝記のようなもので、創世期にまで遡るものなので信憑性は疑わしいが、魔法の存在で科学が発展していない世界では過去のことを知るにはディエスのように本を読むか言い伝えを調べるかぐらいだ。


地球のように放射性炭素なんたらみたいな方法で遺跡などの年代をしらべることができればいいのだが、残念ながらそんな技術は無い。なので、本を読む以外に方法は無いと、最初から信じるつもりで読み進めた。



妙に納得がいく内容だった。要約するとこうだ。


かつて天界には最高神及び、最高神が生み出したとされる『聖』の魔力のみを持つ男神と女神の二人が住んでいた。


そこは何の苦悩もない空間。二人は永遠ともいえる時間をただ平和に過ごしていた。


ある日、最高神から決して食べてはならないと言われていた木の実に二人は手を出してしまう。


その直後、今までに無かった感情が芽生え始めた。最高神はこれに激怒し、二人を地上に落とし、天界の入り口を閉ざしてしまう。


地上に落ちた二人に芽生えた初めての感情……怒りや不安、猜疑などの感情は次第に大きくなっていった。


これによって二人は、正と負、両方の感情を手に入れ、地上という縛られた世界で人間となった。



一方、彼らの負の感情から生まれた『魔』は世界中の全てに溶け込み、その力、『魔力』によって様々な物質や生物を生み出した。


これによって元々何もなかった地上には植物が、昆虫が、動物が、そして人間が繁栄し始めることとなる。これが世界の始まりとされている。



なるほど。魔力ってのは『聖』と『魔』の二種類が存在し、聖の魔力は優しさや愛情といった正の感情、魔の魔力は怒りや憎しみといった負の感情によるものであるらしい。


そして、この二種類の魔力は人間や魔族だけでなく動物や植物、果てはその辺の石ころや空気にまで存在しているという。



ちなみに魔族とは、『魔』から生まれた生物のうち、人間のように高い知能を持つ種を言うらしい。


獣人やエルフ、ドワーフなどがそうだ。決してフォリア達のような悪魔だけを『魔族』と呼ぶわけでは無い。


『魔族』という括りではあるが、邪悪な種族という意味ではなく、『魔』から生まれ、『魔』の魔力を持った種族といった意味だ。


人間や獣人といった『ヒト』は基本的に『聖』と『魔』のバランスがとれており、感情の変化などで微妙にバランスも変化する。


中にはフォリア達のように、ディエスが想像する通りの『魔族』も少数ながら存在しており、そういう種族は魔力が『魔』に大きく偏っているらしい。



また、動物のように知性は高くなく、かつ『魔』に偏った魔力を持ち人間や獣人などの『ヒト』に害を及ぼす生物は『魔物』とされる。


よくある『冒険者ギルドでの討伐依頼』なんかで討伐対象になるのがそうだ。普通の動物なんかも魔力は持っているが大きくなく、聖と魔のバランスは保たれている。


とは言え理性を持たぬ魔物が暴れ、人や家畜に被害を出すという事件も多くあり、『魔物は邪悪な存在』との認識が強いらしい。



そういう事件によって獣人もその見た目から魔物側だという風潮が一時期広まったことがあったようだ。


各国の柔軟な対応により今では獣人を卑下する国があまりないのが救いだが、個人単位では未だに獣人を嫌う者もいるのだとか。獣耳とか可愛いと思うのだが。


話がそれたので少し戻そう。その後繁栄していった人間は、ほとんどが宗教として最高神及び男神、女神を崇拝し纏まりつつあったのだが、そこに反神的ともいうべき存在が現れた。



それが魔神。彼らは一様に強力な魔法を操り、大戦の歴史を刻んでいった。


だが、ある時を境に人間と魔神との大戦は一切途絶えた。人間の住む大陸を明確に三つに分け、三つの国が起ち上がった時代と重なっている。


当時何があったかは書かれていないが、それからおよそ二千年経つ現在まで、時々国同士の小競り合いがあるだけで魔神は歴史から姿を消していた。本には現在の地図が描かれていた。


大陸の中央に最も大きな王国フェンネルが位置している。さらにエーデリット王国とエクレシアス聖国が三国で接するように構えており、この三国は国土も大きく歴史も長いらしい。最初の国々だったのだろう。


さらにその三国を囲むようにアントロス、ビュティオス、アルトラ、ウェルブラート、ガドルヒルゼン、ノルトロメアという国々が接している。



大陸の北側は巨大な樹海で覆われ、さらにその向こうは富士山以上の標高を持つ山々が連なる山脈が続いている。


しかし国の名前は分かっても、今自分がいる国はどこなのか分からなかった。


現在は最高神を崇拝する宗教も数を減らしており、実際に人間界に顕現し、人々に祝福をもたらしたとされる女神や、民を守り勇気のある者に力を与えるとされている武神などが奉られるなど国によっては様々な物がある。


そして一部の暴走した教徒による、宗教戦争というのも度々起きているようだ。



……建国でさえ何らかの狙いがあってのものだろう。でなければ後にできた国々がこんなに不自然に領土が等分され、三国を囲むようにできないはずだ。


しかし首を突っ込んでいいのだろうか。今俺の目の前には魔神と呼ばれた存在がいる。もし本物だとしたら、二千年前の建国の日以降、当時の魔神たちは死んだのではなく手を出していないだけであると言える。


その日以降の歴史から消えた魔神が目の前に。この世界の闇に触れそうで怖かった。


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