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魔神の下で勇者を目指してみた結果。  作者: 風遊ひばり
第二章 エーデリット騎士官学校
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24 本領発揮

本来平面のはずの試験場にはおよそ170cmの高さの堤防が大きく円を描いて築かれており、ディエスがその上に登ってなお遥か見上げるほど巨体の魔物――イビルドラム――がその中心にいた。


イビルドラムが地下水脈から水を召喚することによって引き起こした地面の液状化が堤防にまで達しようという頃、ディエスの魔導陣が完成した。



―火属性 放出系 クラス4、風属性 強化付加系 クラス4 二重魔導陣―


「ヴァルカヌドグマ」



受験者はほとんど避難し妙な静寂が閉ざした試験場にトリガーとなる一言が響いた。


その直後、ディエスの乗る堤防いっぱいに眩暈がしそうなほど複雑な、真紅に輝く巨大な魔導陣が現れ、同時に魔導陣の中心に佇んで液状化を広げていくイビルドラムの姿がグニャリと歪んだ。



ディエスの見立てでは、復活したイビルドラムは地中の金属成分を使って体を再生しており、有効であった風属性どころか火属性でも相当な火力が必要になる。


そこでディエスが選択したのは、魔力を燃料に炎を生み出すただの火の魔導ではなく、分子運動の活性化、つまり純粋な『熱』を発生させる魔導である。


それもクラス4の魔導で二重魔導陣を構築して。これも『分子』という概念を持つディエスならではの魔導であった。



一見一つの魔導陣しか見えないが、熱の魔導陣と重なるように風の魔導陣が描かれている。


この風の魔導陣によって外側に空気の層が出現し、熱が外に逃げないように調整されているのだ。


単純に風の魔導による火属性の強化だけでなく、熱を逃がさず常に内側の放射する機能との属性の相乗効果により消費する魔力は少なくて済み、内部は想像を絶する温度となる。


消費が少ないと言っても、そもそもがクラス4規模の魔導に必要な魔力は膨大なのだが。



液状化していた地面はみるみる内に干上がり、元の砂へと戻っていった。さらにイビルドラムの体表も徐々に赤熱していき、温度差による蜃気楼で外からは酷く歪んで見えている。


それでも魔導陣の外側に熱は漏れていないので、傍から見ている試験官には何が起こっているか分からず困惑するのみである。



「これは一体……君は何者なんだ?」



そう聞かずにはいられない。疑問が自然と口から漏れるほど信じ難い現象が目の前で起こっているのだから。


巨大な魔導陣が真紅に輝いたと思えば、形成されつつあった沼は見る間に干上がっていき、あの凶悪な化け物も苦しそうに呻き声を上げ始めた。


おそらく火属性のクラス4相当の魔導だと思われるのだが……



クラス4の魔導とは、膨大な魔力量と天賜とも言える魔導適性があってようやく発動できる魔導である。


王国を守護する最強の部隊である聖騎士団でも一握りの上位者しか扱えないはずのクラス4の魔導を、まだ入学すらしていない少年が完璧に発動して見せたのだ。これが信じられるはずがない。



「この魔物の倒し方は分かりますから、ここは任せてください」



火の魔導陣が複雑な模様を残したまま徐々に輝きを失い、代わりに青白く静かに煌めく複雑な魔導陣が上空に現れた。


この世界で唯一ディエスのみが使える氷の魔導である。当然クラス4の二重魔導陣だ。金属の物を破壊するためには金属疲労が一番手っ取り早いからな。



―氷属性 放出系 クラス4、風属性 放出系 クラス4 二重魔導陣―


「シルバーアウト」



その言葉をきっかけに魔導陣の輝きが増し、活性化していた分子運動が急速に減衰していく。地面や赤熱していたイビルドラムの体表にも霜が降り始め、魔導陣の内部は色が失われたように白く塗り潰されていった。


今のディエスでは分子運動の完全停止とはいかないまでも、ドライアイスが生成される温度ぐらいまでは下げることができる。



ほとんどの生物が生きていられない温度であるのだが、それでも魔導から逃れようとするこの魔物はどれほど生命力が高いのだろうか。


…それとも、それでも死なない程強化されたのか。



ディエスが可能な限界まで魔導陣内の温度が下がると、徐々に魔導陣の輝きが失われていく。イビルドラムの関節部からはギギギと古びた機械のような音を響かせ、パラパラと体の一部が剥がれ落ちている。


正直なところ、これでも生きていることが驚きだ。



カミーリアに教わった魔導を全力で使っていたディエスには、この魔導でこれ以上の威力を出すことは出来なかった。


可能なのは、せいぜい時間を延ばすことぐらいだ。これで倒れないのなら、トドメとなる何かが必要だということだ。



「まぁ、一応もう一発ずつやっとくか。ヴァルカヌドグマ」



そして再び真紅の輝きを放つ魔導陣。表面を覆っていた霜は一瞬のうちに消え去り、圧倒的な熱が魔導陣の内部を蹂躙した。


これ以上の威力は出ないとは言ったが、一回しか使えないとは言っていないのだ。



逆に言えばクラス4の魔導を何度も撃たなければ討伐できないほど理不尽な強さを持っているということなのだが。



その光景を見ている試験官の一人は、目の前の出来事を信じることができなかった。


王国の辺境の村で大きな被害を出した凶悪な魔物を生け捕りにすると、そのままエーデリット王国の誇る聖騎士官学校の試験官として派遣された。



今までにも数回試験官を任されたことはあるのでそこまでは良い。


だが、我々聖騎士団が決死の思いでようやく生け捕りにした魔物を、入学もしていない三人の少年少女が危なげなく討伐してしまった。


それだけならまだ現実だと認められなくもないが、討伐したイビルドラムが五年前のあの日、ドライウス陛下の乗る馬車を襲ったオーガと同じような魔力を放つ化け物となって復活し、当時の惨劇を思い出してしまった。



平静を装ってはいたが内心は恐慌と混乱が渦巻いていた。そこに現れたのが先の一戦でこの魔物を討伐した受験者の一人だったのだが……。


それから先は夢でも見ているような光景だった。


何しろ自分たち聖騎士にトラウマを植え付けた化け物をその少年が一人で相手取っているのだ。いや相手取るというのは間違いかもしれない。


相手にならない程圧倒的な、一方的な蹂躙だった。



「シルバーアウト」



二度目の氷の魔導が放たれた。


超高温から低温まで一気に熱を奪われたイビルドラムの体は、温度変化に耐えきれずヒビが広がり始める。


こうなってしまえば後は強力な攻撃を加えるだけで一気に崩れるので楽になる。展開していた二つの魔導陣を消し異次元倉庫から一本の剣を取り出した。



フォリアから受け取り、最も自分に馴染んでいる宝剣だ。


試験用に使っている剣では耐えられない程の魔力を流し込んでもこの宝剣はビクともしない。ディエスは魔力を雷の属性に変換し、迷わずありったけの量を付加した。



付加した魔力の量は先にレヴァルのハンマーに施したものとは比較にならない程多く、例えるなら爆発寸前のダイナマイトだ。ちょっとしたきっかけで爆発を起こす。


白銀の刀身に淡黄のスパークを纏った宝剣を無造作に構え、完全に凍り付いて動かないイビルドラムに向けて歩を進めた。



ドッ!


ディエスが腕をついて前のめりになっているイビルドラムの胸に切っ先を突き立てると、逃げ場がなく剣の内部に充満していた雷の魔力が一気に弾け、空間を震わすほどの衝撃波を伴ってイビルドラムを貫いた。



金属疲労でボロボロになっていた体は耐えられるはずもなく粉々に砕け散り、内部から既に壊れていた(・・・・・・・)核が零れ落ちた。


それを見たディエスはやはりと確信する。



「やっぱりこいつの核は壊れてたか。元々の水の魔力を感じなかったからな。ということは俺達三人で確実に倒せてはいたけど、それを強化して生き返らせた奴がいるってことか?でもそれじゃまるで……」



魔法のようだ―――

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