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魔神の下で勇者を目指してみた結果。  作者: 風遊ひばり
第二章 エーデリット騎士官学校
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23 殺すための魔導

リーリエの風の魔導がイビルドラムの胴に直撃し、体を構成している岩すら打ち砕いて吹き飛ばした。魔力量もさることながら、魔導適性も大したものである。



「おお、思った以上の大威力だな。さすがは魔力量B」


「魔導ならディエスさんにも負けないです!これならイビルドラムも……」



サムズアップしながら元気よく答えるリーリエ。彼女もよくやってくれたと思うのだが、このタイミングでそう言うのはダメだ。そういうのをフラグというのだ。


まぁ核が破壊できていないので、倒し切れていないことは分かっているのだが。



「オォォォォ」



案の定、声とも似つかない声を上げイビルドラムが起き上がろうとする。


ディエスは土の魔導を使い、イビルドラムの手足と頭を地面に縛り付けた。


人間もそうだが、二足歩行の生物は特に頭が重く、体重移動ができないと起き上がることはできない。座った状態で額を指一本で押さえられるだけで立てなくなるのは良い例だ。



「そんな……まだ生きてるなんて!」


「いや、リーリエのおかげでほとんどチェックメイトの状態だよ。相手の核が何の属性を持ってるかわかるか?」


「核のですか?これは……水、ですか?」


「そう、正解だ」



そう。このイビルドラムという魔物は、体を覆っている岩、つまり土の属性だけでなく、核となる魔石に水の属性を持っていることで土の体を補完し強力な魔物となっていたのだ。



単純に一つの属性では攻め切れないというだけではなく、先ほどのリーリエの魔導を受けて生きているように属性の相互作用によって高い防御力と攻撃力を発揮していた。


これも一種の魔導共鳴である。



「つまりこの魔物を倒すには風の魔導だけじゃなく、雷の属性も必要だってことだ。という訳で、レヴァル、トドメは頼んだぞ?」


「え、俺がか?」


「そりゃもちろん。瞬間火力なら一番高いだろ?核を破壊するのにそれなりの威力が必要だからな」



そう言って二種類の魔導陣を展開し、レヴァルの戦槌に風と雷、二属性の付加を行う。見た目以上の魔力が込められ、バチバチと放電する戦槌。


もちろん持ち手に影響がないように、魔力が武器の中だけで循環するように工夫はしてある。一方レヴァルは何やら諦めたような表情だった。



「今更驚いても仕方ねえけどよぉ……二属性同時付加をこんな簡単に……。まぁお前がおかしいのは分かり切ったことだったか」


「おいそれは酷いだろうが」



ディエスのツッコみは虚しく宙に消え、その代わりに激しい破壊音と衝撃波が試験場を駆け抜けた。レヴァルがトドメの一撃をイビルドラムの核に振り下ろしのだ。



シンと静まり返る中、体を起こそうと持ち上げていたイビルドラムの腕や頭が音を立てて地面へと落ちた。


ディエスの魔力感知で見ても、イビルドラムが持っていた魔力は分散し空気中へ消えていくのが確認できている。



こちら側は掠り傷すらなく、完全勝利と言ってもいい結果にディエスも満足げに頷いた。


時間にして十秒程度の沈黙の後、我に返った他の受験者や試験官の間でざわめきが広がっていった。



「マジであの化け物を倒しちまったよ……」


「ディエスってやつが強いのは分かったが、他の二人もここまで強かったのか?」


「バカお前、あの魔物の拳を止めたのも最後の魔導の威力も見てただろ。全員とんでもねえよこいつら……俺ら入学できるのかよ……」



この場にいた受験者のほとんどは目の前で起きた事態に素直に感嘆し、口々に三人を持ち上げる。


しかし、ディエスの強化付加による能力の底上げによって魔物と拮抗できたことが分かっているリーリエとレヴァル、そしてそのことに気付いたほんの一握りの受験者と試験官達は、ある種の畏怖の念を込めてディエスを見つめていた。


注目されるのに慣れていないディエスは居た堪れない気分で試験官へと話を振った。



「試験官、これで試験は終わりですか?」


「あ、あぁそうだな。これですべての試験は終了した。明日には合格者を決定し発表することができる。それまでに変な問題を起こして合格取り消しになったりしないようにな。ご苦労だった」



代表の試験官が終わりの宣言をし、沈黙したイビルドラムを片付けようと数人の魔導士達が動き出す。



「しかしまだ入学もしていない少年たちがイビルドラムを討伐してのけるとは……本来ならイビルドラムはB+ランクの魔物、三人で挑むのなら全員Bランク以上の冒険者でなければ話にならない相手なのだがな」


「そうだったのですか?」



ディエスの睨んだ通りこの魔物は討伐できないことが前提で、どれだけ連携し、また恐怖を克服して臨めるか、という試験だったらしい。



人数の関係で最後の組が三人となるため、先の模擬戦を鑑みて実力者を最後に持ってきたことが良い方向に働いたということだ。


ディエスが先に討伐してしまったら以降の試験を行えなくなるという意味で。



あわよくばこのまま高ランクの冒険者に……と未来を馳せていると、ふと終了後も油断なく張り巡らせていた魔力感知に、僅かに魔力が動くのを感じた。


試験官として派遣されていた魔導士の中には気付いたものもいるのか、脚を止めて目を細めている。戦いの直後だからかろうじて分かるという程度の小さい魔力だ。


いや、『小さく見せている』のだと直感した。


出所は不明。だが、その魔力は次第に大きくなり、一か所に集まっていった。イビルドラムの死体の中へと。



「っ!緊急事態だ!総員すぐにそいつから離れ……」


「オオォォォォォォォォォォオッ!!」



一人の魔導士の号令を掻き消し、怨念の籠った慟哭が試験場内の空気を震わせた。


ディエスがそのままにしていた土の拘束を難なく破壊し、砕かれてほとんど崩れかかっていた岩の肉体は周りの砂を吸収しみるみる修復されていく。



それだけに留まらない。修復が終わると更なる岩と金属成分が全身を覆っていき、ついには元の倍はありそうな巨体となった。


そしてそれ以上に、その巨体から感じられる魔力が只事ではない。今のイビルドラムと比べれば、ディエス達が討伐したのは赤ん坊のようなものだ。



「おい、すぐにガイゼル団長に連絡しろ!こいつはおそらく『あの時のオーガ』と同じだ!手の空いた者は受験者達を非難させろ、我々がそれぐらいの時間は稼いでみせる!」



この場の責任者だと思われる、ディエスと話していた試験官が矢継ぎ早に指示を飛ばし、騎士を中心に報告と避難の補助を行わせた。


剣が効かない相手であるので、騎士に避難の補助をさせるのは賢明な判断だ。



一方の受験者達は、自分たちでは歯が立たなかった魔物が復活した絶望か、膨れ上がった巨大な魔力に当てられてか、動けない者や腰を抜かす者が半分以上であった。


残りの半分も我先にと逃げ出す者のみ。



魔導士達が取り囲む中、イビルドラムはおもむろに両手を地面に突くと試験場中の地面全域に魔力を流し込んだ。



「な、なんだ!?」


「うわっ!くそっ!」



使用したのは水と土の二重魔導。イビルドラムを中心に地面が徐々に液状化していき、魔導士達を足元から呑み込み始めた。


さすがにこれは看過できない。ディエスは咄嗟に風の魔導を使って魔導士達の体を巻き上げ、半ば強引に脱出させた。



「っ、君は……まだ避難していなかったのか。あの魔物は危険だ。今すぐ非難を……」


「いえ、俺は大丈夫です。リーリエ、土で堤防を……」


「ひっ……ぅ……」



ディエスがリーリエに目を向けると、恐怖でその場に蹲るリーリエの姿があった。そんな状態の彼女に魔導を使えと言う方が酷である。



「レヴァル、リーリエを無理矢理でも連れて避難してくれ。俺がこいつの相手しとくから」


「……ああ、こいつは連れていく。けど悪いが協力は出来ねえぞ。というか俺が居たところで変わらなさそうだからな」



レヴァルはリーリエを脇に抱えると、振り向きもせずに会場の外に向かった。


さて、試験場の内周をグルッと囲むためにはそれなりの魔力が必要だが、相手の能力が未知数のためなるべく魔力を温存しておきたい。どうするか……


不意にディエスの目の前の地面にスパークが生じ、厚さ数十cmの土壁が目線の高さまで盛り上がってきた。そしてそれは、地面の液状化を抑え込むように円を成している。



「おい、これでいいんだな!?」


「え……って、あんたはローアンか!ありがとう、助かった」



ローアンはそれ以上何も言わずキッと鋭い視線をディエスに向けると、そのまま外へ避難していった。


いやはや、意外といえば意外だった。


先の模擬戦でローアンは横柄な態度であったが、この魔物を前に取り乱さない胆力、効果的な堤防を造り上げる判断力と集中力、そして実力が及ばないと迷わず撤退を選択する決断力。


十分士官の素質を持っていそうである。そんなことを考えながら堤防の上に登り中心の魔物を見据える。



さて、今回は以前までのように食料にするために狩るのでもなければ、模擬戦のように勝敗を決めるために戦う訳でもない。



初めてだ。本気で、ただ殺すための魔導を生物に向かって放つというのは。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「初めてだ。本気で、ただ殺すための魔導を生物に向かって放つというのは。」 ゴーレムも生物なんかな?
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