表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔神の下で勇者を目指してみた結果。  作者: 風遊ひばり
第二章 エーデリット騎士官学校
23/89

22 入学試験4

魔導陣から現れた『イビルドラム』という魔物は、下半身に対して上半身が異常に大きく、腕はディエス二人分もありそうな太さである。


今は鎖で手足を繋がれており動けないようになっている。



「イビルドラムははっきり言ってかなりランクの高い魔物ではあるが、我々は最低限のサポートしかしないことにする。ではこちらで決めたチームで順番に挑んでもらうぞ」



騒めく受験者をよそに、試験官は四人の名前を読み上げた。


まだ騎士や冒険者のタマゴにもなっていない受験者達に少し厳しい気もするが、まぁ立ち向かえるかどうかも評価されるのだろう。



若干怯える者や威勢のいい者、また余裕そうな者と色々いる中、選ばれた四人が中央へと集まった。


前衛となる騎士二人と後衛となる魔導士二人でバランスがよくなるように選ばれている。



「準備はいいか?では始めるぞ」


「オォォォォ」



合図と同時に鎖が壊れ、解き放たれたイビルドラムが地響きを轟かして一歩踏み出た。



「ひっ」


「っ……お、お前ら!やるぞ!」


「おおっ!」



小さく悲鳴を上げる魔導士の女の子と、恐怖を振り払うように声を上げて剣を構える前衛の二人。


その二人が飛び出し、イビルドラムに斬り掛かった。



イビルドラムは動きが遅いうえ、前衛の二人の剣筋は悪くない。が、岩で体が覆われているイビルドラムに対して普通の剣では分が悪すぎる。


どちらの剣も表面の岩を削っただけで止められ、腕を横薙ぎに振られただけで体ごと吹き飛ばされた。



「あんた達、そのままちょっと離れていなさい!」


「いきます!逆巻く幾陣もの風よ、向かう敵を吹き飛ばせ!」



恐怖で集中力が散漫な代わりに詠唱を行った少女の風の魔導と、もう一人の少女の火の魔導が威力を高め合い同時にイビルドラムへと襲い掛かった。


相手の大きさを考えるなら少し威力が足りなさそうだが、クラス2にしては十分高い威力だ。



「おう、お前ら……なかなかやるな」



復活した前衛の二人が戻ってきたようだ。特に怪我はしていない様だが、どうも恐怖が克服しきれていないように見える。



「あんた達が不甲斐ないからでしょ」


「これで少しぐらいダメージを受けてくれればいいのですが……」


「オォォォォォォォオッ!!」



炎風に包まれたイビルドラムに四人が目を向けたその時、雄叫びと共に炎が吹き飛ばされ無傷のイビルドラムが現れた。



「マジかよっ」


「嘘でしょ、ダメージ無し!?」



魔導士二人の全力の魔導を受けてなおダメージがほとんどないイビルドラムを前に絶望の色が濃くなる。


相手を怖がってしまうと、もうこの四人には無理かもしれないな。


そんな四人の心境も魔物には関係なく、地面を揺らして歩を進め始めた。動きが遅いのが逆に恐怖心を煽り四人の心を抉っていく。



「こ、こんなのどうやって……」


「っ……うおお!」



一人が再び自分を奮い立たせて立ち向う。が、振りあげられた腕に恐れをなしたのか脚が竦んでしまった。



「ちょっ、止まるんじゃないわよ!」



イビルドラムの拳が当たる直前に風の付加が施され、小さな竜巻が男の体を包むことで直撃を避けたが、それでも威力は十分だったのか男の体は簡単に数m弾き飛ばされた。


それだけでは止まらず、イビルドラムの両手の平に魔力が集まる。これは多分土の魔導か。



「くっ……魔導まで使うなんて!」



ディエスと同じく相手の技に気付いた後衛の一人が咄嗟に風の強化を全員にかけた。そしてイビルドラムの魔導が叩き込まれる。


土の放出魔導クラス2『ロックグレイヴ』。岩を相手の足元から突き上げる簡単な技ではあるのだが、イビルドラムの持つ元々の魔力量が大きいためなかなかの威力となる。



「ぐあっ!」


「きゃあっ!」



風の強化を纏ったとしても、人の大きさ程度では踏ん張ることも出来ず最初の男のように弾き飛ばされた。



「ここまでだな」



試験官がそう言うと、五人の魔導士が詠唱を行い鎖でイビルドラムを縛り上げた。



これで一組目が終わりかな。四人とも実力は弱くなかったが相手の表面の岩を削る程度に終わってしまった。風が有効なのは当然なのだが、それだけじゃないな。


俺だったらどう奴を倒す?いや、倒すだけならいけるか。けど『集団戦闘』だからな、他のメンバーにも動いてもらうには……。


ディエスが色々考えている内に次の四人が呼ばれ戦闘が始まった。


この組も数人腰が引けているように、最初の戦闘の様子に恐れをなした受験者が大半なので正直まともに戦える組はなさそうだ。うん、これも評価対象だな、きっと。



二組目以降の受験者も最初にイビルドラムの圧倒的な戦闘力を目の当たりにして腰が引け、まともな戦闘が出来ないでいた。


目に見えて最も大きなダメージは、四人で連携して片足を破壊したぐらいである。そしてそれも次の戦いの時には、岩を再構築して回復してしまっていた。



「最後の一組なんだが、人数の関係でこの組はレヴァル、リーリエ・フランカート、ディエス・エーデリットの三人で行ってもらう。一人少ないが個々の実力を考えれば大事にはならないだろう」


「お、今度はディエスとチームか。強敵と書いて『とも』と読むってやつか?」


「一回戦っただけだろ。やりにくかったらごめんな?」



互いに軽く言葉を交わしながら中央へ向かう。ちょうど最後の一人、リーリエ・フランカートも受験者達の中から出てきた。


魔導適性検査でこの受験者の班の中で唯一魔力量Bの判定を出し、試験官を脅かせた桃色の髪の少女だ。


リーリエはフードを取ると、髪と同じ色の澄んだ瞳をディエスへと向けた。近くで見ても、やはり顔に見覚えはない。なぜ『宴』のことを思いだしたのか……。


深い思考に陥ろうとした時、ディエスはリーリエの耳の先が尖っていることに気が付いた。



「リーリエ、君は、もしかして『エルフ』なのか」


「は、はい。エルフのリーリエ・フランカートなのです!」



これにはディエスも驚いた。カミーリアから聞いたのだが、エルフは非常に数が少なく、大陸の北部に広がる広大な樹海のどこかに住んでいて滅多に他の種族と関わることが無い種族である。


そして、『まさに異世界』と言わんばかりのエルフの美少女の登場に、ディエスは少なくない興奮を覚えたのだった。



「さっさとやるぞ。倒す気で行くんだろ?どんな作戦で行くんだ?」


「え、俺が指示するのか?」


「はいです。私より魔導適性が高い騎士なんて認めたくなかったですが、魔導士の模擬戦ディエスさんの戦いを見ていたら納得したです……リーダーを決めるならディエスさんで異論はないです!」


「ええ、リーリエもか……」


「そろそろ準備はいいな、始めろ!」


試験官の合図とともにイビルドラムを縛る鎖が粉々に砕け散った。リーダーなどやりたくはないが、こうなってしまってはリーダーを辞退することも出来ない。



「分かった。相手は動きが遅いが硬い。本命はリーリエの魔導として、俺とレヴァルでまずはやつを削るぞ?」


「了解だ」



ディエスは目算で適当な強化付加を全員に施す。


レヴァルとリーリエにそれぞれ合うように魔力を調質してから強化付加を行ったため、比較的簡単に『魔導共鳴』起こせるはずである。



「お?これディエスの魔導か?」


「すごいです……こんなに濃密なのに波長の合う魔力なんて」


「ああ、二人に合わせて魔力を調質したんだ。さて、レヴァル、これでいけるよな?リーリエは相手の魔力を調べながら強力な魔導を準備しておいてくれ。合図したら撃ってほしい」


「うぅ、自分がどんなことをしているのか気付いていないのですね……なんか叫びたい気分ですが了解です」



リーリエが何やら小声で呟いているが、心当たりがないので目の前の敵に集中する。相変わらず重鈍な動きでイビルドラムが迫ってきていた。



剣と戦槌をそれぞれ構えて同時に走り出すディエスとレヴァル、そして空中に緑色に輝く魔導陣を描き始めるリーリエ。


とても初めてとは思えないほど息ピッタリの連携であった。



「ッラァ!」



虫を追い払うが如く横薙ぎに振り払われたイビルドラムの拳に対し、レヴァルはその場で一回転し遠心力をたっぷりと乗せた戦槌を正面から叩きつけた。


イビルドラムは拳だけでもレヴァルの身体とそう変わらない大きさであり、正面からぶつかりに行くのは無謀である。


しかしレヴァルは、ディエスが施した強化魔導と自身の強化魔導で『二重魔導』を発動し、足で地面を削りながらも勢いを弱めることに成功した。



「っ……おぉっ!」



戦槌の柄を両手でしっかりと掴み、腰を落としてイビルドラムの拳を止めるレヴァル。


イビルドラムが動きを止めてから腕を引くまで凡そ二秒弱、ディエスはその腕を足場に駆け上がり初撃より更に強化を重ねた剣で肩を深く切り裂いた。



ディエス本人の技術というものが大きいが、岩を鉄の塊で叩いた時の耳を劈く嫌な音はほとんど無く、キンッと済んだ音を響かせて切っ先がイビルドラムの肩を通り抜けた。


切り落とすには刃渡りが足りないが、暫く使えなくするのには十分である。


イビルドラムはもう片方の腕でディエスを振り落しにかかるが、イビルドラムの鈍重な動きでディエスを捉えられるはずもない。


ディエスは迫る腕を足場にさらに踏み込むと、風の強化付加を施した剣をイビルドラムの目に突き立てた。



「オォォォォォォォォオッ!」



怒りに染まった慟哭が闘技場全体を駆け抜ける。


その時、イビルドラムの身体が大きく傾き、落ちそうになったディエスは仕方なく地面へと飛び降りた。



見ると、ダメージによって力が弱まったイビルドラムの腕をレヴァルが押し切り、振りぬいた膂力をそのままにイビルドラムの片膝を打ち砕いていた。


レヴァルの攻撃力が上がっているように見える。



「こっからが本番だぜ!」


―聖属性 強化付加系 クラス3 『乱打ビートダウン』―



レヴァルの魔力の特性である『乱打ビートダウン』は、その魔力を継続して付加しながら戦うことによって攻撃が当たるたびに少しずつ威力を増す、という攻撃特化の魔力である。


ディエスのように攻撃が当たらない相手には無力だが、イビルドラムのように、身体が大きく動きが緩慢な相手に真価を発揮する。


序盤からのラッシュによって強化が乗ったレヴァルは勢いを殺さぬようその場で回転しつつ、片足を破壊され体を支えているイビルドラムの手首を打ち砕いた。


間接の部分を狙ったとは言え、この体格差で一撃破壊である。



「っらぁっ!!」



支えを失ってゆっくりと落下してくるイビルドラムの上半身に対し、レヴァルは回転の向きを上に変え、下からイビルドラムの顎を打ち上げて弾き返した。



「レヴァルはそのまま下がって!リーリエは魔導の用意!」


「はいです!」



背後から元気のいい声が聞こえると同時に大きな魔力が吹き荒れた。強烈な風の魔導をいつでも撃てるということだ。


頼もしい限りだが、変に焦って仲間を巻き込まないように気を付けてほしい。俺がもう少し削る必要があるからな。


距離を取るレヴァルを横目に、破壊された腕で何とか体を起こそうとするイビルドラムの懐に潜りこみ剣を振るう。


分厚い胸板は寧ろ腕より斬りにくいのだが、目的は削るだけ。淡蒼の光を纏った灰色の剣身が踊り、岩に覆われた魔物の体に乱雑に斬傷を刻んでいった。



「リーリエ、今だ!」


「いきます!うりゃあっ!」



ディエスがバックステップで距離を取った直後。可愛らしい掛け声とともに、全く可愛らしくない威力の暴風の塊が砂を巻き上げながら発射された。


元々が重鈍なうえ片足が破壊された状態のイビルドラムにはこの一撃を避ける術はない。



ドンッ!と重低音を響かせ、暴風の塊がイビルドラムの胸部に着弾した。


ディエスの目にも、規模としては小さいものの威力に関してはクラス4と比べても遜色無く映るほどの一撃だ。


全身を岩で覆った超重量のイビルドラムの巨体でさえ数m弾き飛ばし、そしてディエスが削っていた岩の装甲を粉々に打ち砕いて地面に叩きつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ