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魔神の下で勇者を目指してみた結果。  作者: 風遊ひばり
第二章 エーデリット騎士官学校
22/89

21 入学試験3

なぜかディエスを呼ぶときに微妙にテンションを上げる試験官。


この試験は早く終わらせてやろうという配慮なのか単純にディエスの能力が気になるのか、ディエスを最初に持ってきたようだ。


あの表情を見るに後者だが。もう少し休ませてほしいと思いつつ、ディエスは会場の中央へと向かった。



「ディエスって呼んでいいよな。いやー、さっきの魔導物凄かったな」



中央で向かい合うと、ディエスより二つか三つ年上に見える、がっしりとした体格の男、レヴァルが声をかけてきた。


胸の高さほどまである金属の棒のようなものを杖の代わりにして体重をかけており、その金属の棒の先、地面についている部分はハンマーのようになっている。


物を壊すのではなく、人を殺すために振るわれる戦槌だ。



「本当は騎士志望なんだけどね。あれはマグレだよ」


「おいおい、その言い方は他の魔導士のやつらに喧嘩売ってるだろ……まぁいいか。俺はこういう戦いなら自身あるからよ、楽しみにしてるぜ?」


「ああ、手は抜かないからよろしくな?」



そう言って試験用にファブロから借りた剣を抜く。うん、重さや長さもいつもの宝剣とあまり変わらない。これならいつも通りの動きができるだろう。



「始め!」


試験官の合図でディエスは真っ先に動いた。と同時に身体強化と剣の強化を行う。


相手の戦槌はリーチが長く威力も高いが、小回りは効かないため懐に入ってしまえばかなり有利となる。真っ先に間合いを詰めるのは定石だ。



相手の間合いに入った瞬間、悪寒と共に戦槌がディエスの頭の上から襲い掛かった。


予想していた攻撃であったが、スピードが予想以上だ。だが反応できない程ではない。


咄嗟に体を捻ってよけると、戦槌は小さなクレーターを作って地面に突き刺さった。



身体強化をしてあるとは言え、これをまともに受けたら無事では済まないだろう。


初撃を避けられたことに多少なりとも安堵したのだが、その直後、地面に叩きつけられた戦槌が跳ね上がり下から斜め上に突き上げるように振るわれた。



「うおっ!?」



二撃目がここまで早く出ると思っていなかったディエスは、余分に距離を取って避け、再び開始時の状態へと戻った。



「なるほど、そういうやり方もある訳か」



剣を構え直すディエスの視線の先に、蹴り上げた脚を戻すレヴァルの姿があった。


おそらく、振り下ろした戦槌を蹴り上げることによって瞬時に次手に移ることを可能にしたのだろう。



言葉にすれば簡単だが、戦槌の重量を考えれば身体強化はなかなかのレベルである。だが、エイリアやフレシアほどの脅威は感じない。



いや、あんな人外と比べるのはどうかと思うけど。



「初見で今のを避けるとはなかなかじゃないか?大抵のやつは今のでやられるんだけどな」



ヒュンッとハンマーが空を切ってレヴァルの肩に担がれる。獰猛な笑みを浮かべハンマーを構える姿がやたら絵になっている。



「避けるだけでもギリギリだったけどな……お前も面白い戦い方するんだな?」


「まだまだ余裕っぽいな。ふふ、これだから強い奴と戦うのは面白れぇ!」



レヴァルは身体強化を行った足で一気に踏み込み、まるで槍投げのようなモーションでディエスに襲い掛かった。


先ほどとは異なり片手で、しかも柄の先端付近を握っているため、初撃よりリーチがかなり伸びている。


咄嗟に体を沈めて猛スピードで迫る戦槌を避け、体を沈めた反動で一気に剣の間合いへと詰めようとする。


が、その瞬間にディエスの目が捉えたのは、振り抜いて帰ってきた戦槌の柄を掌底で叩き、既に二撃目のモーションに入っているレヴァルの姿であった。



「っ……!」



戦槌に対して斜めに剣を構え巧みに軌道を逸らせるディエスであるが、衝撃を殺しきれずビリビリと腕がしびれる。


二度の接近に失敗したディエスは再び距離を取りつつ、冷静に思考する。



(仕方ない……あれもやるか)



ディエスの使う二重魔導陣は、何も放出系だけのものではない。


ディエスは『自分に施した強化魔導』に強化魔導をかけた。強化魔導に強化魔導をかけると、単純に自分に二つの強化をかけるより少しだけ効果が大きくなるのだ。


これは所謂いわゆる『魔導共鳴』という現象で、ある波長の合った術同士で効果を高め合う現象を指す。先にディエスが使った雷の二重魔導陣もこれに当てはまる。



ただし失敗すれば魔導は相殺し消えてしまうので、使いこなすのが難しい高等テクニックである。


それをディエスが表情一つ変えずに発動してのけたことに気付いた者はこの場に何人いるのか。



「ん、なんか変わったか?」



レヴァルは目を細めて油断なく戦槌を構える。



「ああ、かなり変わったぜ!」


「っ!」



再び剣を構えて間合いを詰める。しかし、そのスピードは最初の倍近く速い。


一瞬反応の遅れたレヴァルが横薙ぎに戦槌を振るうが、柄の中ほどではあまり力が伝わらないうえ、ディエスの力も倍近くまで高まっている。


迫る戦槌を、左腕を畳んで肩口でしっかりと受け止め、レヴァルの喉を狙って剣を突き出す。当然殺す気のない攻撃だが。



「ちょっ、いきなり強くなりすぎだろ!?」



レヴァルはそう愚痴を飛ばしながら体の向きをスイッチしてディエスの突きを躱し、さらに戦槌の柄の中央部分を掴んで裏拳の要領で柄による攻撃を繰り出した。


しかし当然、今のディエスには当たらない。


一瞬だけ姿勢を低くして柄の下を潜り、次に来るであろう本命に備えた。


そして予想通りに迫る、たっぷりと遠心力の乗った戦槌の一撃。これを絶妙な角度で剣の腹で受け流して頭の上を通過させ、そのまま剣を手放してさらに肉薄した。



「なっ……うぐっ!」



ディエスが剣を手放したことに驚くより早く、レヴァルの鳩尾に肘を叩き込む。


さらに腕と襟を掴み、脚をかけてレヴァルの体を背負い、背中から地面に叩きつけた。背負い投げによる見事な一本である。



「ここまでだな」



受け身を取ったがダメージを隠し切れず仰向けに倒れるレヴァルの首にディエスが剣を拾って突きつける。誰が見ても勝敗は明らかだった。



強化付加の二重魔導陣は見た目より難しいな……。放出系のようにただ魔力を撃ち出すのと違い繊細なコントロールが要求されるので難易度は大きく上がるのだ。


でももし二重強化が出来なかったとしたら、負けるとは言わずともかなりつらい戦いになったのではないだろうか。他の生徒もこれぐらいの実力だとしたらやばいな……。



「おいおい、あのレヴァルって確かすでにランクBぐらいの冒険者だろ?」


「ならディエスってやつはAランクとか?ありえないだろ」


「魔導もすごかったが剣もこのレベルか?正直とんでもねえな」



ディエスの認識に反して高評価となっているが、そんな周りの様子を無視してレヴァルが起き上がる。



「はぁ、負けちまったか。普段なら勝ち負けにも拘るところなんだが、ここまで完敗するとそんな気も起きねえな。俺もそこそこ自信あったんだが……最後の急に強くなったやつ、あれは何なんだ?」


「あれも二重魔導陣だよ。強化付加系の」


「マジか。二重魔導陣はそんな簡単にできるもんじゃねぇと思うんだが……」


「お前ら、そろそろ次の試合に移るから空けてくれ!」


「あ、すみません」



試験官に急かされて観戦に戻る。


その後十試合ほどを見ていたが、ディエスのように二重魔導陣を使うどころか、複数同時に魔導を使う受験者は少なかった。



しかも見た感じディエスの相手だったレヴァルの実力が他の受験者より頭一つ抜けていたことを考えると、少しやりすぎたかもしれない。一通り模擬戦が終わってもなんかひそひそ聞こえるし……。



「さて、最後は集団戦闘を行ってもらうが、まずはこれを見てくれ」



そういうと、聖騎士団の魔導士五人が直径20mはありそうな魔導陣を組み上げる。これは多分召喚系だな。


と思っていると、赤黒い光と共に禍々しい魔力が魔導陣の中心から漏れ出した。受験者の中からは小さく悲鳴が聞こえ、ディエスも眉間に皺が寄る。



「こいつは先聖日騎士団が生け捕りにした『イビルドラム』という魔物だ。王国の辺境の村に現れ、百人以上の犠牲者を出した。はっきり言って強い相手ではあるが、お前たちにはこいつを相手にチームを組んで挑んでもらう」



そして魔導陣から現れたのは、全身を強固な岩で覆った、体高10mはありそうな巨大なゴーレムの魔物だった。


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