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魔神の下で勇者を目指してみた結果。  作者: 風遊ひばり
第二章 エーデリット騎士官学校
21/89

20 入学試験2

「すぐにくたばって俺の評価を下げる真似はするんじゃねえぞ?」



ローアンはよほど自身があるのか、自尊を隠しもせずにディエスを煽り、魔力を身に纏う。



「煽るのはいいけど、それで負けたら目も当てられないだろ?」


「くっ、誰に物を言っていると思っている!来い、ロックゴーレム!」



ローアンがそう叫ぶと同時に彼の目の前の地面が盛り上がり、3mほどの高さを持つ、岩で構築された厳ついゴーレムが出現した。



それを見た途端、ローアンの態度に嫌悪の目を向けていた他の受験者達も目を剥いて騒めきだした。この男、口先だけでは無かったのだ。


3mにも上る大質量の岩を操りゴーレムを作り出す魔力と、そのゴーレムを操るための付加をほぼ同時に行う技術。


試験官も感嘆の声を上げ、この場にいるほとんどの者が彼に対する評価を上方修正した。



魔力感知によりローアンの魔力の動きに注目していたので、彼の魔力が地面に移動、つまり土属性の魔導を使うことはすぐに分かった。



『土』を制するのは『風』である。


ローアンが魔導を発動し、巨大なロックゴーレムが現れたのを確認しつつ、ディエスは風の放出魔導を発動する。


ただし、ただ放つだけでなく螺旋状に回転力を与え貫通性を高めた攻撃系魔導だ。



襲い掛かるゴーレムを前に、ディエスは一歩も退かず、風の魔導のレーザーをゴーレムとぶつけた。


属性の相克によるものか魔力の差によるものか、風の魔導はゴーレムの岩の体をみるみる風化させて崩し去り、数秒と待たず貫通した。



「なっ!?」



驚愕の声をあげ、すぐさま身を守る体制に入った。このまま当てればダメージを与えられるのだろうが、一発ずつしか魔導を放っていないので評価は微妙かもしれない。



そこでディエスは次の攻撃へと繋げるために、風の指向性を解除し、ローアンの体ごと宙に巻き上げた。



「くっ、何を!」



ローアンはおそらく次の攻撃に対応するためであろう強化魔導による防御を発動するが、その間にディエスは二つの魔導陣を、ローアンを挟み込むように構築してのけた。



しかも、ローアンを巻き上げる風もそのままに。


この時点で周囲は静まり返り驚愕に目を見開いているのだが、目の前の戦いに集中しているディエスは気付いていなかった。


『風』を制するのは『火』である。風の魔導に火の魔導を放つと、火は風の魔力によって活性化され、さらに強力になるという相乗効果を生む。


風の魔導を発動したまま次の魔導を使おうとしたのもこのためで、当然ディエスが構築した魔導陣も火属性の魔導……


ではなく、ディエスはローアンが”『風と火の相乗効果を狙ってくるだろう』と考える”ことを読んでいた。ローアンは嫌味な奴ではあったが、彼を過小評価しているわけでは無いのだ。


風の魔導を発動したままにし、火の魔導を使うと見せかけてローアンに水の防御を使わせた。


そして彼を挟むように構築した魔導陣は一方が正に、もう一方が負に帯電した『雷の放出系魔導』なのである。


あとは魔導陣に溜め込まれた魔力を解放し、雷を放つだけである。タイミングは間違いなく必殺だった。



ガシャアァァァァァァァァァァン!!



上の魔導陣から下の魔導陣へとダムが決壊したかのように雷が解き放たれ、強烈な閃光と轟音、そして衝撃波が会場内を蹂躙する。


中には小さく悲鳴を上げ尻餅をつく者もいた。



音と光が止み、静まり返る会場。ようやく砂煙が晴れると焦った表情のディエスと倒れたローアンの姿があった。



「や、やりすぎたか…?」



ディエスは焦りながら、取りあえずローアンの安否を確認する。


幸い気絶しただけのようで、呼吸に合わせて胸が上下しているのが見えた。魔力はそこそこ抑えたのだが、初めて実戦で使用した『二重魔導陣』による放出系魔導がここまでの威力になるとは思っていなかったのだ。


魔力の消費量はクラス2二回分なのだが、今の威力はクラス3にも劣らないだろう。


もしこれを三重、四重と増やしたら、あるいはクラス3以上で使ったら……考えただけでもゾッとする。そして同時に、この会場に施された防御システムの性能に驚かされた。



何でも、今年から就任した新人の魔導士の教師が非常に優秀らしく、ここの防御システムを施したのもその人物らしい。


そしてそのシステムというのが『一定威力以上の魔導が感知されたとき、それを向けられた者に防御が作動する』というものと後に聞いた。



そのおかげで、ディエスの使った二重魔導陣ですら多少の傷をつける程度に留まり、気絶はしているもののほとんど威力が相殺されている。


しかしこのままにしておくのも躊躇われるので、一応の治癒魔導をかけておき多少の火傷も治療しておいた。



二人の姿が見えるようになると、再び場が騒然となりだした。



「おいおい、なんだよ今の威力……あいつ魔が0じゃなかったか?」


「いやその前でしょ。見たでしょ?魔導陣を二つ同時に出したの」


「それもそうだが、普通二属性の魔導をあの威力で同時に使えるのか?」



あれ?なんか変な雰囲気だぞ……?



「お、おい、エーデルリッター。一つ聞いていいか?」



試験官が、まさに信じられないものを見た!といった表情で恐々としながら近づいてきた。



「あ、はい、いいですが……何でしょう?」



聞きたいことは何となく分かるんだけどね……



「今のは、一体何をした?」


「えっと……まず相手が土のゴーレムを出したのでそれを風の魔導で壊して、次に相手は水の防御魔導を使うと読んでいたので雷の二重魔導陣で……」


「「「二重魔導陣!?」」」



見事に揃う他の受験者達の声。あれ?まさか二重魔導陣もあまり浸透してない感じ?



「そ、そうか……いやはや『適性100』がこれ程とは。君はやはり魔導士を目指さないか?それほどの実力なら将来は……いや今すぐにでも騎士団でトップになれるだろう」



正直そこまでとは思わなかった。カミーリアは二重どころか三重、四重と使っていたし、ディエス自身も二重以上は使えるのである。


確かに受験者にしてはオーバーだったかもしれないが、二重なら目を剥いて驚かれるほどのものではないと思ったから使ったのだ。まさかこんな反応が返ってくるとは……。



「志望の話は後にして、とりあえず次の試験行きましょう?時間も無くなりますし」


チラッと辺りを見渡し、何とか話を逸らそうとする。


魔導士志望の受験者だけでなく、騎士志望の者までディエスをチラ見しながらひそひそと話していて、どうにも居た堪れない。



「あ、あぁ、そうだな。仕事だしな……よし、続いて騎士志望の者達の試験を行う!」



適当に誤魔化して次の試験に移ってもらった。


騎士志望のディエスも当然この試験を受けるので、何もしなくても注目されるんだろうなと思いながら説明を待った。



「試験を始める前に幾つか注意点がある。まずは防御システムについてだ。魔導士の模擬戦で活躍した防御システムだが、騎士同士、というより魔導で直接攻撃しない戦いでは作動しないからな。危なかったら我々が止めるが、各自十分気を付けるように!」



噂の新人魔導教師の防御システムもそこまで万能ではなかったか。まあ仕方ないな。


魔導による攻撃とは違い、剣撃では当たる場所によって命への影響は大きく変わるので一定の基準で防御が作動するようにするのは無理だろう。


その代わり治癒魔導が使える魔導士達がスタンバイしているようだった。



「そして次に、この試験においては強化・付加魔導のみを使用することだ。我々が評価するのは騎士としての戦いだからな、魔導に自信があっても攻撃系魔導は使わないように!」



なぜ試験官は俺の顔を見ながら言うんだ……大丈夫だって。さすがに試験をぶち壊すようなことはしないって。



「最後に、この試験で各自、剣だけでなく自分が最も得意とする武器を使うこと。入学後は授業の一環として最低剣術は覚えてもらうが、それ以外の武器を使うなとは言えないからな。むしろ得意な武器で実力を発揮してもらいたい。

そのため、この試験はなるべく全力で取り組むように!では最初の組を発表する!適性を鑑みると……一組目はレヴァルとディエス・エーデルリッター、お前だ!」


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