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魔神の下で勇者を目指してみた結果。  作者: 風遊ひばり
第二章 エーデリット騎士官学校
20/89

19 入学試験1

昼頃に更新すると言ったな、あれは嘘だ。

待ちに待った入学試験当日、ディエスは学校の有する広い訓練場に向かった。


国を代表する学校だけあって、数千人近くの志願者が集まっているようだ。も


ちろん王都に住む者だけでなく、ディエスのように辺境の村から王都に出た者もいるだろう。



ほとんどの者はディエスと同年齢か少し上ぐらいなのだが、中にはディエスより小さい子も混じっている。


それに対し学校の校舎はそれほど大きくなく、ディエスが前世で通っていた高校よりも小さいように見えるので、入学はかなり狭き門だと思われた。



当然自信のある者達が集まる訳で。


『宴』から五年間、カミーリア、エイリア、フレシアの三姉妹との特訓を熟してきたが、その間『勝利』の経験が皆無であり、ここでも自身無さげのディエスであった。



ディエスの最初の試験は筆記試験であった。


試験は筆記と実技二種があり、人数が多いため先に筆記試験を行うグループと実技試験を行うグループに分かれて行われる。


ディエスは最初に筆記試験を行うグループに割り当てられていたようだ。



筆記試験はそれほど難しくなかった。


主に国の歴史や状勢、また魔導に関する問題と計算が少々。


冒険者になるにも騎士になるにも読み書き計算は必要だということだろうけど、ほとんど小学生レベルだったのでディエスにとっては楽勝である。



魔導に関しては主に属性相互関係や魔導陣に関してだが、これもカミーリアに知識と経験を叩き込まれたので、迷いなく正答をかけたと思う。


問題なく筆記試験を乗り越えたディエスは、次の実技試験の為訓練場に向かった。



ディエスが向かったのはドーム状の建物の中にある室内闘技場だ。


ディエスと同じグループは全部で三十九人、試験官を務める聖騎士団員の前に整列した。



実技試験の流れは、まず訓練場の真ん中に設置された高さ2mほどの六角柱のクリスタルに触れ、自身の最大魔力量と『聖』と『魔』と含めた各属性への適性を見る。


その後、適性を見てマッチングを決め、一対一の模擬戦を行う。


この時、受験申請の際に予め申告していた、『騎士』と『魔導士』のどちらを志望するかによって、模擬戦では騎士同士、魔導士同士で行うようにマッチングされる。



実技試験の二種類目は集団戦闘だ。


これも適性を見ながら『騎士』と『魔導士』の混合でバランスよくチーム分けし、魔物との戦闘を行う試験だ。


最初の適性検査が始まり順調に進んでいく中、突然俄かに会場が騒めいた。



「ほう、全ての属性の適性値が高い。その上魔力量も騎士団の魔導士に引けを取らない程か。期待の新人が現れたものだな」


「あ、ありがとうございますですっ!」



見ると、フードを深く被り、ふんわりカールの桃髪の女の子が可愛らしい声を上げていた。彼女を見た瞬間、ディエスの脳裏に『宴』の光景がフラッシュバックする。



(っ……なんで今この記憶が蘇る?)



フードの奥の顔を見ても、全く見覚えのない顔である。それなのに、魔神達が集まったあの光景が頭を過る。


考えても仕方がないと、引っ掛かりを残しながらも、彼女の触れたクリスタルに目を移す。そこには、彼女の適性を表す数値が表れていた。



魔力量 B

『聖』 65 / 『魔』 90

『火』 92

『風』 90

『土』 58

『水』 63

『雷』 82



魔力量はAを頂点としてEまであり、Cの判定なら冒険者や騎士に十分なれるほどだ。


先の試験管が言ったようにBなら国を守る王国聖騎士団の魔導士並、Aにもなれば歴史に名を残す英雄クラスである。



彼女は今の時点で既に聖騎士団並であり、将来は決まったようなものだ。



適性は0から100までの数字で表され、100に近いほどその属性の魔導が得意であることを表す。


80もあればかなり強力で、戦闘においては主力として活用できる程だ。



ここでいう『得意』とは、魔導の発動の速さだったり魔力量に対する効果量だったり、最大威力の高さだったりする。



また、『聖』は防御、『魔』は攻撃系の魔導に関する為、彼女の場合は『火の攻撃系魔導が最も得意』ということになる。


『火』以外にも『風』と『雷』の適性が80を超えており、その他を見ても特に欠点が無いのも試験官を唸らせたポイントであった。


『土』が低いようにも見えるが、それでも平均を僅かに超えている。生粋の魔導士タイプということらしい。



そんな風に他人の適性を見ながら順番を待っていると、いよいよディエスの番となった。クリスタルの歩み寄り、軽く触れる程度に右手を当てる。そして現れた数字を見ると……



「ん、おお?」



変な声が出た。その一方で周りは静まり帰っている。



魔力量 C

『聖』 100 / 『魔』 0

『火』 100

『風』 100

『土』 100

『水』 100

『雷』 100


「ど、どういうことだ…なんだこの数値は…?」



沈黙を破ったのは試験官の声であった。


それはこっちが聞きたい。


確かにディエスはカミーリアとの訓練でどの属性の魔導も不自由なく扱えてはいたが、この場で見た限り平均はどの属性も60~70といったところだ。



実際のところ、この場ではどれか一つでも100が出た者は一人もいない。


桃髪の女の子の92が最大である。魔力量がC判定ではあるものの、それを補えるほどのポテンシャルを『適性100』は持っているのだ。



だがそれ以上に、ディエスは納得のいかない数値を渋い顔で見ていた。


乱立する『100』の中で異彩を放つ『魔』の『0』だ。



そもそも『0』とは何なのか。


クリスタルで感知できない程『魔』の魔力が少なかったのか、それともディエスの『魔』に対する才能の無さを表しているのか。


しかし、今までの訓練でディエスは攻撃系魔導を苦手だと感じたことは一度もない。それどころか、どちらかと言えば得意な方である。



「ま、まさかこれ程の者がいるとは……。ディエス・エーデルリッター、君は騎士を志望していたかね?素晴らしい、いや凄まじいな。こんな数値は私が知る限り、過去を振り返っても一人もいない。ガイゼル団長すら超えられるかもしれないな」


「え?そんなまさか」



試験官のその言葉に騒然となる会場。『クリスタルが壊れたんじゃないか?』との声も聞こえてきた。ガイゼルと比べれば、技術も経験も及ばないだろう。


だが、『聖』の魔力は防御系魔導の他に『身体強化』にも使用できるのだ。むしろ騎士にとってはそちらが主となる。



ガイゼルも当然高いレベルで身体強化を扱うが、ディエスの適性は『100』、その差すら埋めてしまう可能性を持っている。


ともすれば、この試験管の放った言葉はあながち嘘ではないのだ。しかしながら魔力量『C』に少しがっかりしたのだった。



          ♢♢♢♢



「っ……フレイムアロー!」


「ふふ、まだまだ僕の防壁は破れないよ!」



ポニーテールの女の子が放った火の矢が、優男の召喚した水の壁に阻まれて消失した。


今、幾組目かの『魔導士』同士の模擬戦が行われていた。


模擬戦の勝敗は試験の合否に影響は少ないと言っていたので、おそらく実戦でどれだけ動けるかを見ているのだろう。



という観点で見るのなら、このポニーテールの娘は人に向けて魔導を放つのに躊躇いがあるように見える。それを察してか、優男の方は防御に徹していた。


だが勝利に拘る者もいる訳で、めちゃくちゃに魔導を放った奴もいた。


当然安全に配慮された状況での模擬戦なので怪我人は出ていない。


ちなみに、めちゃくちゃした奴は、適性検査で試験官に褒められていた桃髪ローブの娘だったりする。



(しかしまぁ……こんなものなのか)



ディエスの目から見て、他の受験者の魔導は正直に言ってしまえば『この程度』であった。


外の者と関わりがなかったディエスの基準がフォリアやカミーリアに準じているので当たり前と言えば当たり前なのだが。



「最後はローアン・リーカラントと……いや魔導士は一巡したな。この班は魔導士が奇数だったか。どうするか」



試験官はそう言いながら受験者達を見渡す。


ディエスが試験官と目が合うと、その試験官はニヤッと口元を歪めた。


その表情は玩具を見つけたというか、良からぬ企みを思いついたというか、とにかくその顔を向けられた者に良い思いをさせるものではない。まさか……



「そういえば適性検査ですごいのが居たな。ディエス・エーデルリッター、君は騎士志望だが魔導の方も見せて欲しい。なに、『魔』が『0』だったからと言って、攻撃系魔導が全く使えないわけでは無いのだろう?それに、評価がプラスに働くことはあってもマイナスになる事はない。どうだ?」



こう来ることは分かっていた。別に戦うことが嫌なわけでは無い。むしろマイナスになることはなく良ければ加点対象になるのであるなら、願ったり叶ったりであった。



「はっ!適性100だか何だか知らねえが所詮騎士なんだろ?魔導の模擬戦で俺の相手になるのかよ?」



見栄を張っているのか素なのか、貴族風の高そうな服に身を包んだ金髪の男が試験官に突っかかっていく。



(まぁ一人ぐらい居ると思ったよこういうやつ……)



ディエスは心底面倒くさそうにローアンに目を向けると、その視線に気づいたローアンはフッと小さく息を吐き嘲笑の表情を浮かべた。


さすがのディエスもイラッときたが、そこまで言うなら相当魔導に自信があるのだろう。


ならば存分に胸を借りるとしよう。



嘲笑に笑顔で返してやると、ローアンは舌打ちをして会場の中央へと向かっていった。


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