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魔神の下で勇者を目指してみた結果。  作者: 風遊ひばり
第二章 エーデリット騎士官学校
19/89

18 入学試験に向けて

【 お元気ですか?私はいつも通りガイゼルを連れまわしています。私がディエス君と出会って既に五年が経ちました。早いものですね。あなたがガイゼルとの試合を約束してからというもの、ガイゼルは益々鍛錬に精を出していました。


しかし、時々王都の街中に連れ出して頂いて、私はディエス君の成長を目にしています。歴代最強とも言われる騎士団長ガイゼルに勝てずとも、今のディエス君ならいい勝負ができるのではないでしょうか。


さて、こんな話をするのも、いよいよディエス君が騎士管学校に入学する日が近づいてきたからです。毎年、入学式には国王が顔を見せ祝辞を述べるのですが、今年は私やモレーナお姉様も参列します。人前はやはり緊張するので祝辞はお兄様に任せますが……。


最後になりますが、新しい環境でのディエス君のより一層のご活躍を期待しています。では、入学式の場でまた会いましょう。


          セレーネ・エーデリットより】



「随分律儀だなセレーネは」



今朝、鳩のような鳥の魔物によって届けられたセレーネからの手紙を読み終わり、一息付くディエス。今は十五歳となり、手紙の通り騎士管学校への入学を間近に控えていた。


王都での寮生活になるが、『異次元倉庫』で大体の荷物は運べるので手荷物は少なくて済む。しかしこれから一人で暮らすことになるので、使える物はそれなりに準備しておきたい。


『異次元倉庫』というのは、その名の通り別の次元空間を、物を保存する倉庫のように使う魔導のことだ。


異次元の入り口を開くのにも物を中に保存しておくのにも魔力を消費するため、扱える者はそれほどいない。



扱える者はそれなりの魔力を持っているということでもあり、魔力量はそのまま実力に直結する。


異次元倉庫の中では時間に縛られないのか、生ものは鮮度を保ったままである。


そのため、容量が大きい異次元倉庫を扱える者はそれだけで商人や冒険者のパーティーの間で引手数多となる。



心配性なカミーリアが多少の家具を用意してくれたのだが、大きいものほど魔力を消費する異次元倉庫を使うのには残りの魔力が心配なので、学校の寮についた後で『召喚』することにした。



「今のあなたならどこに行っても大丈夫でしょう。胸張って行ってきなさい」


「さ、寂しくなんてないけど……たまには帰ってきなさいよね」


「エイリア姉は素直じゃないなぁ……。帰ったらまた私と遊ぼうね!」



フォリアとエイリア、そしてフレシアが口々にそう言ってディエスを送り出す。この場にカミーリアが居ないのには訳があるのだが、それはまた別のお話だ。



「あはは、帰ったらね……」



フレシアの言葉に苦笑いして曖昧に返すディエスの脳裏には、あの『宴』から五年間の彼女達との訓練の様子がよみがえっていた。詳しくは思い出したくない。



ただ言えることは、彼女達は普段魔導によって人間の姿を模しているだけであって、本当に悪魔なのだと身をもって実感したのだ。


背筋をブルッと震わせたディエスは、正直怖がっていた。



そんな彼女たちに見送られ、いよいよディエの乗る馬車が出発した。グリフォンに乗れば数時間の道のりも、馬車で行けば五日間程かかる。


それでも馬車で移動するのは、ディエスがこの周辺を見ながら王都に向かいたかったからである。



時々フォリアの城の近くまで訪れるという商人を雇い、王都まで送ってもらうよう頼んだ。


商人はフォリア達を悪魔だと認識しておらず、辺境に領地を持つ貴族と思っているらしい。まあ変に悪魔だという噂が流れるよりはマシである。



時々現れた魔物との戦闘はあったものの、ここ数年でさらに鍛えられたディエスにとっては他愛もない相手であり、襲ってきた魔物は全て商人の商品となり平和で充実した五日間の旅を楽しんだ。



          ♢♢♢♢



王都に着いたのは昼頃、商人と別れディエスは一先ず寮を目指した。



国の名前を冠するエーデリット聖騎士官学校は国内で最も歴史と格式のある学園であり、ディエスのように遠くから一人で訪れる子達も多い。


そのためその主旨を伝えれば入学前から志願者用の部屋が貸し出されるのだ。相部屋も多いのだが、ディエスは一人部屋を何とか勝ち取った。


とは言え狭い部屋なので、早く入学試験に合格して学校敷地内にある正式な寮に移りたいところだ。



部屋に入ったディエスは適当に荷物を置き、腹ごしらえのために街へ繰り出した。


学園のある場所は王都の中心に近く、王宮からも見える場所に位置する。


そのためこの辺りはセレーネと共に何度か歩いたことがあり、美味しい料理の店も知っていた。



馬車の旅で疲れの溜まっていたディエスは比較的安く、美味しい店のサンドイッチとお茶で軽く済まし、とある場所に向かった。



「おう、坊主か。そろそろ来る頃だと思ってたぜ」


「お久しぶりです、元気そうですねファブロさん」


「ガハハ、元気も元気よ!しかしお前さんも随分立派になったもんだ。子供っつうのは成長が早いもんだな」



王都で知り合った鍛冶師のファブロが大口を開けて豪快に笑いながらディエスの頭をポンポンと叩く。


ディエスも身長は170cmぐらいはあるのだが、ファブロと比べればまだまだ小さい。


未だに子ども扱いされるのはあれだが、自分の成長を喜んでくれる人がいるというのは嬉しいことだ。



「明日はいよいよ入学試験だな。まあ五年前の時点であれほどの魔導を扱えたお前さんが落ちるとは思えねえが、準備はしっかりしておけよ。


それと、騎士の道ってのは鍛冶と違って、鍛錬を続けても目に見えて結果が現れるわけじゃねえ。でもいざという時にものを言うのはそれまでの努力だ。


合格したからって慢心するなよ。……っと説教臭くなっちまったが、お前さんが成績を残して騎士団に入ってくれればこの街も安全って訳だ。ガハハハ!」



バシッと背中を叩くファブロ。本人は軽くのつもりだろうが、結構痛かった。


だが、父親のいないディエスにとっては、ディエスが王都に来るたびに気にかけてくれるファブロは父親の代わりとも言える人物であった。



その後、ファブロと幾つか話をした。入学試験のこと、試験が近いためファブロの剣の売り上げが伸びたこと、新しい武器の試作品のことなど。


剣の手入れの話題となった時、せっかくだからディエスの剣も見てくれるとのことでディエスが下げていた剣を抜いたところ、その剣を見たファブロの目が見開かれた。



「おいおい、なかなかの業物だと思ってはいたがこいつはとんでもねぇな。ミスリルどころじゃねえ。ダマスカス鋼とアダマンタイトと、ヒヒイロカネか?どれも伝説級の素材じゃねえか。


それに俺でも正体が分からない素材も使われていて、それが完璧ともいえる技術で融合している。しかもおそらく相当前に作られたものだが、傷一つなく輝きも失ってない。これが神話に出てくる神剣と言われても信じるぞ」


「えっと、それはエーデ……エーデルリッター家に伝わる宝剣です。家主から賜ったものです」



この国の王族である『エーデリット』を名乗るのはまずいと、ディエスは普段から『エーデルリッター』と名乗ることにしている。



「家宝ってことか、納得だな。素人じゃパッと見ではこいつの凄さは分からないと思うが、見せびらかすのは止めろよ?厄介なことに巻き込まれるぞ。そう言う俺もこいつを調べたくてうずうずしてるからな」


剣の柄をディエスに向けて返すファブロ。その眼は鍛冶師の眼そのものだった。


それにしても、ファブロは剣を見ただけで使われている素材もその割合も見抜いて見せた。職人としてはかなり実力があることに他ならない。


こういう人の造る武器なら信用できるというものだ。



「そうですか……。ならもう一本程新しい剣を用意した方がいいですかね?」


「それはいい考えだな。なら、その剣は俺に作らせてくれ。なに、金を取ろうなんざ思っちゃいねえよ。あの時の礼と、今いい物見せてもらった礼だ」


「え、あの……非常に嬉しいのですが、いいのですか?」


「おう!ちゃんと重さや長さ、柄の握りもお前さんに合わせて作るからよ。絶対気に入ると思うぜ!」



ビシッと親指を立てていい笑顔を見せるファブロ。


あれから五年の間に何度かファブロの鍛冶屋を訪れて分かったのだが、ファブロは王都どころか国内でも屈指の名工で、彼の打つ剣を持つことは冒険者や騎士の間で一種のステータスになっているほどだ。



そんな彼に自分専用の剣を打ってもらえるというのなら是非もない。ディエスはファブロの好意に甘えることにした。



と言ってもすぐにできる訳でもなく明日の入学試験には間に合わないので、とりあえず試験用に既にできている一振りを貸してもらい、後日受け取る約束をし、鍛冶屋を後にした。

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