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魔神の下で勇者を目指してみた結果。  作者: 風遊ひばり
第一章 魔神のお膝元
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13 『宴』の後

フォリア達魔神が奥の部屋へと姿を消して二時間近く経っていた。


前世も合わせて四十八年間女の子とほとんど関わりがなく若干挙動不審なディエスと、そんなことは露とも知らず話しかけるロゼとの間を、レオが絶妙に執り成しつつ時間を過ごしたのだ。



「なぁ、あれって…」


「うん…言わなくても分かるよ…」



そう小声で話し合うのはガラムとエルマだ。


戦いの時とは打って変わり、ディエスに向ける表情が柔らかいロゼと、少し様子が可笑しいが楽し気に話すディエス、そして笑い話を交えつつチラチラとロゼの様子を伺うレオ。


傍から見れば親しい男女と、その男女仲に気付かず女の子の興味を引こうとする男に見える。


レオは諦めていないようだが、悲しきかな。戦わずして既に勝敗は見えていた。



しかしディエス本人は話すだけでいっぱいいっぱいなのか、全然気付く様子がないところが歯痒い。というか殴りたい。


ガラムとエルマの二人がいい加減やきもきしてきたところで漸く扉が開かれた。先頭を切って飛び出てきたのはフォリアだ。



「お待たせ。ディエス、仲良くしてた?」


「あ、母さ……エスフォリーナ様……」


「あ、何その変な呼び方」


「いえ、その、ロゼやガラムみたいに『様』付けで呼んだ方がいいのかなって……」


「「母さんでいいのに……」」



ジト目をディエスに向け、同時にそう言ったフォリアとロゼが顔を合わせる。そして何らかのシンパシーでも感じたかのようにクスリと笑いあった。


そう言えばロゼと話している間、ロゼは剣についてディエスにアドバイスをしつつ、ディエスが失敗すれば笑いながら手を取り、上手くいけば嬉しそうに撫でたりしていて、カップルというより姉弟のようだと、ディエス含め見ていた全員が思っていたのだ。



いや、だからと言って彼らが納得するわけもない。



ただでさえ同年代で仲のいい女の子がいない中、十歳ながら可憐さの中に美しさも垣間見せ、将来がかなり期待できるロゼと仲良さそうにしているのは、日々魔神の下で鍛錬に励む少年達にとって許しがたい所業であった。


もし、実はディエスが普段美人三姉妹に囲まれて鍛錬していると知られたら……


鍛えられた全てをもってディエスに敵対すること請け合いである。そしてそのことにディエスもフォリアも気付いていなかった。


いつの間にか手を取り合っているフォリアとロゼの繋がりは姉(っぽい者)同士……いや『ディエスを可愛がる者』同士といったところか。


ハーレ……頼れる男を目指しているディエスにとってはほどほどにしてほしいのだが。



「何手を握り合ってるんですか。もう会議も終わったのですか?」



無言で頷き合うフォリアとロゼをこちらの世界に引き戻しつつ無難に話を変えるディエス。



「ん?あっそうそう!まだ大切な約束残してるんだった!ごめんねロゼちゃん、行かなきゃいけないからそろそろお別れね。ゼクセクスに良く言ってくれると嬉しいわ」


「いえ、忙しいのなら邪魔するわけにもいかないので。ディエス君にもよろしくと言っておいてください」



俺ここにいるんだけど……



「ディエス君、国も違うからまた会えるかもわからないけど……またね?」



薄っすらと笑みを浮かべて別れの言葉を述べるロゼの表情には、悲しさや寂しさといった感情は微塵も現れていない。『会えるか分からない』と言ったが『二度と会えない』つもりは全く無いようだ。



「あぁ、またね」



ディエス自身もまた会えるつもりでいるのだ。特に言葉を並べる必要はない。



「「「…………」」」


「皆もまたね……?」



蚊帳の外にされて若干寂しそうにしていたガラム、エルマ、レオの三人にも同じ言葉をかけ、ゼクセクスの元へ向かうロゼ。


二カッと笑い男らしい返事を返すガラムはともかく、ほんのりと頬を赤く染めて嬉しそうにするエルマと、まるで愛する者と引き離されでもするかのように悲痛な表情をするレオは手遅れじゃないだろうか。



「さて挨拶も済んだことだし、行くわよ?」



徐にディエスの手を取って歩き出すフォリア。肩越しに振り返ると、ゼクセクスの隣でディエスと同じように振り返ったロゼと目が合い、小さく笑いあった。



          ♢♢♢♢



聖騎士団長ガイゼル・ウォードマンは優秀な男だ。


剣と魔導の両方において歴代最強の騎士との声明を受けつつ頭脳も明晰であり、士官学校の頃から先王ドライウス・エーデリットと親しい仲でもあった彼は、王直々の指名により王の護衛騎士兼秘書のような立場で身命を全うしてきた。


常に国を、民を背負い、あらゆる魔物に勇猛果敢に立ち向かい打ち破る彼の姿を『英雄』と謳うのは最早国民の総意とも言えるほどだ。



そんなガイゼルがこの数年間頭を抱えながら過ごしてきたことを知っているのは現国王セルティア・エーデリットのみなのだ。



ことの始まりはおよそ五年前。


当時、ドライウス国王はフェンネル王国の東南部とエーデリット王国の南部に接する商業国家アルトラの商業組合代表との重要な会談のため、国境付近に会場を設けそこに向かっていた。


陛下が直々に訪れるのは……とも思うガイゼルであったが、士官学校時代のドライウスの豪胆な性格を知っている彼は、仕方なく彼が目をかけている騎士、魔導使い達で編成する小隊が同行するという条件を無理矢理ドライウスに認めさせ、ようやく商業国家アルトラへと向かった。



ごつごつした岩の間から多少の草木が生える物寂しい風景の中、慰め程度に敷かれた石畳の道を、ドライウス国王を乗せた馬車を中心に、先頭にガイゼルの乗る馬車、両脇と斜め後方を囲むように騎士や魔導使いを乗せた四台の馬車の計五台で囲むように進んでいた。



いざ国境を越え、遠方に小さく会場のある町が見えようとした時、その化け物は現れたのだ。


一人の魔導使いが周囲30mほどに張り巡らせた魔力感知にかかったと思った途端、その距離を一気に駆け抜け、絶大な膂力を持った体当たりでガイゼルの乗る馬車を薙ぎ倒し国王の乗る馬車へと迫った。


馬車が倒された時には既に馬車を捨て受け身を取って地面を転がるガイゼルは、その化け物が国王の馬車を破壊せんと振り被った腕をクラス2の火の魔導『ファイアーアロー』を複数同時に発動することで逸らし、その隙に馬車との間に体を滑り込ませて化け物と対峙した。



赤黒く、筋骨隆々とした肉体に二本の角。ガイゼルの知る『オーガ』の特徴と一致するのだが、オーガの体長が2m半ばに対しこの化け物は5mを超えているようだった。


この時ガイゼルは既に化け物の打倒は考えておらず、なるべく負傷者を出さず、そして何としてでも国王を無事に逃がすことだけを考えていたのは流石の判断だと言うべきか。



しかしそんなガイゼルの判断を嘲笑うかのように、化け物は手元の馬車を掴み持ち上げる。


明らかに常軌を逸した腕力に内心舌打ちしながら強化付加を完了した剣で化け物の腕を狙って斬り掛かるが、それでも止めることは叶わず力で押し切られ、国王の乗る馬車に叩きつけられた。



そしてそこに横薙ぎに迫りくるもう一台の馬車の荷台。


二台は粉々に吹き飛ばされ、魔導使い達の咄嗟の簡易結界おかげで一命は取り止めたものの幾つもの切傷と骨折、そして折れた木材が脇腹を貫く重症を負った。



この時、化け物が迫ってきた時から魔導使い達に構築させていた『大規模転移魔導陣』がようやく完成し、エーデリット国内の予め転移魔導陣を設置しておいた中で最も近い町に全員で転移することに成功した。



ガイゼルの慧眼により死者は出なかったものの、化け物が他の騎士たちに目もくれずまっすぐ国王を狙ってきたこともあり、十人ほどの騎士達に加え国王本人も数か所骨折するなどの重傷を負っていた。



同行した魔導使いに町の数人いた回復魔導使い達が加わり、全力で国王とガイゼル達の治療にあたるが、狙ったかのようなタイミングで、国内で蔓延していた流行り病が発症したのだ。


怪我と病という外と内からの攻撃に、普段から心身ともに鍛えているガイゼル達騎士団員はともかく、室内での仕事の多い国王は耐えられず……。



その後、突然のドライウス国王の死と国王の交代に混乱する国民を宥めつつ、例の化け物の対策と流行り病への対策と、現国王セルティアのサポートをしながら奔走し全てを鎮静化させるのに五年の時間を要した。



今でもあの化け物の正体は掴めないどころか、目撃情報すら無い。



一部では『アルトラがドライウス国王を殺すために作り上げた魔物』という噂が流れているが、ガイゼルはそうは思わない。


魔物も含め生物を造り出すこと自体が不可能なのだ。


召喚魔導はあくまでも『別の場所にいる生物や物を呼び寄せる』のであって、たとえ歴史に名を残すような大魔導士でも『新たに生み出すこと』は出来ないはずである。



だが……


ガイゼルは手に持つ一通の手紙に目を落とす。


そこに書かれている『エスフォリーナ・エーデリット』の名を頭の中で反芻し、あるいは可能なのかもしれないとの考えが頭の片隅に浮かぶ。



先王ドライウス時代に一度、ガイゼルはドライウスと共にこの名の主と会っている。



と同時にその者の力の一端をこの身に受けたのだ。見た目こそ誰もが見惚れる傾国の美女だが、その力は理不尽としか思えないものだった。


世の理不尽を具現化した化け物だと今でも考えることがある。そしてこの手紙が来たということは……。



ひとまずセルティア陛下に幾つか話さなければならない。『エスフォリーナ・エーデリット』がどんな人物なのか。


自分がかつて受けた力の一端がどれほどのものだったのか。如何に理不尽な存在なのかを。


セルティア陛下は頭が良いがまだ若く、他人の評価を信用しない節がある。


なんとしてでも失礼の無い対応を陛下に心がけさせ、その名の主を迎える準備をしなければならない。


『英雄』ガイゼルは誰にも知られることなく独り頭を抱えていた。


本日、一作目の『私どもにお任せください、ご主人様!』も更新しています。


私どもにお任せください、ご主人様!→https://ncode.syosetu.com/n0008gb/


よければこちらも読んでみてください!

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