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魔神の下で勇者を目指してみた結果。  作者: 風遊ひばり
第一章 魔神のお膝元
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12 宴の本番 ~for エスフォリーナ side~

円卓を囲むように九人の魔神達が席に着いた。先ほどまでの小さな勇者達の戦いを見て、これから宴の本番が始まろうとしていた。



そんな中、フォリア――魔神エスフォリーナ・エーデリット――は心の中でディエスに謝罪していた。


自分たちの『ゲーム』にディエスを利用しようとしていたこと。そしてそれはディエスの読んだ本にも書かれていたことだ。



そもそも魔神とは『理を超越し、ある種解き放たれた存在』と定義されている。最初の魔神――ゼクセクス・アギオ・フェンネル――が自らをそう位置づけることで定義したのだ。


ゼクセクスが元々人間であったように、魂の格を示す『魔神の器』を獲得すれば、種族に関係なく魔神となり得る。



女神――アイリーン・エクレシアス然り、サキュバス――エスフォリーナ・エーデリット然り。



ゼクセクスは、ある秘法により悪魔へと変異し魔神へと至った。アイリーンは最高神の血を引き、ゼクセクスに対立するために顕現した。エスフォリーナはゼクセクスへの憧れから同等の立場まで上り詰めた。



この三柱が最初期の魔神である。



その頃にゼクセクスが始めたのがこのゲームである。魔神自らが手を下さず、人間を利用し国を造り上げていく、地上を舞台にしたシミュレーションゲーム。


そこに魔神の息がかかった者(ゆうしゃ)を国の中枢に送り込むことで、人々は自由に国を発展させていくようで、その実魔神が間接的に国をコントロールしているのだ。



三柱が建国を初めて三百年が経とうという頃、さらに二柱の魔神が参加した。


一柱は地上で最強種とも言われる竜の王――魔神グリムガル・アントロス、もう一柱は秘法により悪魔ではなく神の領域に足を踏み込んだ人間――魔神ゴッドセレス・ノルトロメアだ。


この二柱は自分がある極地まで至ったがためにこの世でなすべきことが無くなり、それが見つかるまで自らが手を出すより人々を導くことに興味があると言っていた。


セレスとはそれから二千年近くの仲である。



ゼクセクスの真意は分からないが、『来るべきその日』に最も繁栄した国、及びその国の魔神が勝者となるとのこと。人間を使って大きな戦争を起こすとも取れるが……そうではないと思いたい。


今更だが、そんな戦いに我が子であるディエスを巻き込みたくないのだ。



それから千年もする頃には段々と魔神が増え、今の九柱になった。


どこでどう情報が湾曲したのか、『魔神達が裏で国を牛耳っている』『魔法を使いこなすことができれば魔神となれる』と、短期間で四柱も増えたのだ。


ゼクセクスが彼らのことを認めたわけでは無い。だが、ゼクセクスやアイリーンの治める国に習うように人々が自発的に国を作り始め、今では九つに増えている。


そしてその国々を治める魔神が居ない今、特に問題を起こさなければ彼らに与えてもいいだろうと判断したのだ。


ゼクセクスは仕方なく、既存の五柱の治める国とは別に人々が自ら造り上げていた国々を新参の魔神に与えた。



彼らはどうやら本当に国を牛耳る立場となったことに気分を良くし好き放題やっているようだが、フォリアからすれば小物もいいところだ。


他の国に戦争を仕掛けて領土を広げようという魂胆が見え見えである。


国を『大きくする』のが目的ではなく、国を勢力的に、技術的に『強くする』のがゼクセクの目的のはずだ。


そこを勘違いしているうえ、そもそも『魔法』とは何かを全く理解していない時点で小物なのだ。とは言え魔神は魔神。スペックは低くないので油断できない相手なのだが。



そしてこの会議では、それぞれ自分の国の方針を決めるのだ。


ただし、決めるのは『同盟を組む相手』と『敵対する相手』だけであるが。何の意味があるのかは不明だが、これもゼクセクスの決めたことなので素直に従っている。



最初に口を開いたのは第9席の魔神――ベルナード・アルトラだ。


「第6席のタナトス殿に支持を、第8席のルビリア殿に敵対を示します」


この男は、確か私より早く来ていた男か。貴族風の服に身を包み、品のある振る舞いをする。第5席以上を避けつつ上位に同盟を申し込み、一つ上の魔神を牽制するつもりかな。その表情も余裕綽々といったところか。表向きは、だけど。対する8席は……。



「第7席のアーヴィーさんに支持を、第6席のベルナードさんに敵対を示すわ」



明らかに示された敵意を気にする様子もなく、さらりと受けて立つと言った美人――第8席ルビリア・ウェルブラート。いかにも魔法使いな感じのとんがり帽子と黒ローブを纏った出で立ちで、種族は分からないが人間かエルフあたりだろう。


ちなみに、お互いに敵対を示してもいきなりドンパチやることは無い。あくまでも『お前が何かするなら私が相手になってやる』というスタンスだ。



それより彼女は確か男と一緒に来てなかったかしら?そういう関係かしら?



フォリアがルビリアと反対の席に座る一人の男性に目を向けた


次に宣言したのは第7席の男、ルビリアに支持され、フォリアが目を向けていたアーヴィー・ビュティオスだ。



「第8席のルビリアを支持、第9席のベルナードに敵対するよ」



なんだかチャラそうな男なんだけど、もしかしてルビリアちゃんとできてる?『彼女に手出すなら容赦しない』ってこと?お姉さんそういうの好きよ。


……っといけない、今は重要な会議中、チラッと見えた恋バナを気にしている場合じゃない。しかしまぁ、見事に二つの派閥に分かれたわね。



お互いが支持し合った場合、この場で同盟が締結されることとなる。また一方からの場合は支持した方が後日、相手の元を訪れて改めて同盟を申し込むことができるのだ。


もし同盟を組んだ国のどちらかが戦争を仕掛けられた場合、もう片方の国は同盟国へ無条件に救援を送ることができる。


相互不干渉を基本とする魔神の中で、二柱以上の魔神が手を組むということはかなりの牽制力を持つことができる。


ただしそれは魔神達の間で決めたことであって、そこに住む人間が同盟を組む方針を執るかは別である。



魔神の意図しないところで別の国と国交を結ぶこともあれば、戦争を仕掛けることもある。そのため、魔神達はなるべく自分の存在を隠したまま人間と意識の共有を図る。


また、敵対をはっきりとさせておくのもこのためだ。どこかの国が軍事的な行動を起こすのなら、その国に敵対の意思を明らかにしていた国は介入することができる。


もし複数の魔神から敵対を表明されている国が動くというのなら、その国々だけではなくさらにその同盟国とも敵対する覚悟をしなければならない。


本来ならこのように様々な抑止力を持って一柱の魔神が統一するのを防ぎ、人間の繁栄を促しているのだ。



しかし、これも人間との意識を共有していなければ機能しないし、人間が馬鹿な軍事行動に出るというのならそれはもう魔神の管轄外である。


そのためアイリーンは神の化身として、セレスは人間として人々との間に関わりを持っている。またそれはフォリアも例外ではない。


とにかく、古参の魔神は上手く人間の社会に取り入り、逆に魔神の意見を浸透させることで上手く国を回しているのだ。



不意に第6席の厳つい中年、タナトス・ガドルヒルゼンの視線がフォリアを射抜く。



「第9席のベルナードに支持を……。そして第3席のエスフォリーナに敵対を示す」



んん?5、4飛ばしていきなり私?しかしあの目はどう見ても宣戦布告よね。ベルナードと同盟が成立してるし、実質魔神二人からの敵対ね。目的は何かしら……国の、というより自分の地位を狙ってる……?


それについては若干の心当たりのあるフォリア。


フォリアの扱う魔法はサキュバス特有の性質が進化したものであり、非常に強力だが派手ではないので他に伝わりにくい。そのうえ本人が意図的に隠しているため、上位魔神の中ではゼクセクスに次いで実力が不明な一柱であった。



(私の力を探りつつ、可能なら領土や地位を奪いとるつもりかしら。それなら私の取るべき行動は……)



一人思考を重ねるフォリア。しかしその中心にディエスの存在があった。ならば、戦争を避けるようにこちらも体勢を整える必要がある。やはり、持つべきは友なのだ。



「じゃあ3席のフォリアを支持、6席のタナトスさんに敵対するねっ」



軽い口調でそう宣言したのは第5席、ゴッドセレス・ノルトロメアだ。見た目は十五歳ぐらいの貴族の娘といった感じなのだが、6席と5席以上にはある種の壁がある。国の歴史、魔神の実力、格の違いというやつだ。


少女の携える一本の剣。神話にも登場する神剣である。もし魔法を使わず、彼女と剣のみで戦えば、第3席であるフォリアでは相手にすらならず、第1席ゼクセクスでさえ戦うことを避けるのだ。そんな彼女が支持してくれている。こちらと目が合うと笑顔でウィンクしてきた。可愛い。



(守りたいこの笑顔……と、そういえば先の戦いでもう一人守りたい笑顔の子がいたわね。それなら……)



この時点でフォリアの方針も、それを可能にする手札も決まりかけていたのだが、第4席、魔神グリムガル・アントロスの宣言により場は更に不穏な空気を孕むこととなった。



「ワシは支持と敵対の両方をゼクセクスに向けよう」



還暦をとうに過ぎた老人の穏やかな表情で、しかしフォリアをしてつい身構えてしまう程の覇気を纏ってそう言い放った。


支持と敵対を両方?ゼクセクスが攻撃を受けるなら協力するけど、仕掛けるなら立ち塞がる……?それに何の意味が?



「面白くなりそうだが、俺にそのつもりはないぞ」



そう応えたのはゼクセクスである。フードで表情は伺えないが、グリムガルの覇気を受けても口調は変わらない様子である。



「ガハハハハハ!偶には若い連中を立ててやるのも面白かろう!」



豪快な笑い声とともに返すグリムガル。彼にも何らかの目的があり、ゼクセクスは見抜いているようだが私には分からなかった。そしてとうとう第3席の私の番が回ってきた!



「とりあえずゼクセクス、あなたに支持するわね。そして、7席のアーヴィーさんに敵対するわ」



おそらくこれが最適だ。第9席と第6席、第8席と第7席に分かりやすく派閥が出来上がった。


私に宣戦布告してきた6席と9席には、私に同盟を申し込んでくれるセレスが牽制しているので、私はもう片方の第7、8同盟を牽制すればいい。


そして私からの支持については、ゼクセクスに恩を売っておきたい。どうせ次の人がゼクセクスに敵対するし……というのが建前で、ディエスとロゼちゃんを近づけたいってのもあるんだけどね。


ついゼクセクスに向かって微笑みかけるフォリア。


他の者ならばフォリアに笑顔を向けられただけで彼女に心酔してしまう程妖艶なものなのだが、しかし相手はゼクセクス。支持も含め、どうせいつものアプローチなのだろうと一瞥するのみであった。



続く第2席、アイリーン・エクレシアス。



「第5席、ゴッドセレスに支持を、第1席、ゼクセクスに敵対を示します。」



知ってた。アイリーンの種族は女神、天使より格上だが似たようなものだ。


一方でゼクセクスは悪魔、天使と悪魔の対立は最早暗黙の了解である。だが流石に女神が国民の命を脅かす行動を起こせるはずもなく、ずっと無言の圧力をかけているのだ。


自分も悪魔なのに……と思うフォリアであったが、自分より上の女神に目をつけられるのはお断りなので黙っておく。



さて、問題のゼクセクスなのだが……



「第3席、エスフォリーナに支持、第4席、グリムガルに敵対を示す」



あれ?なんか私との同盟成立しちゃった。せっかく手札も用意しておいたのに、まあ切らずに同盟を組めるのならそれに越したことはない。


それより、グリムガルの喧嘩を買ったことの方が気になる。意外に馬が合うのか、当時は男が二人だけだったからか、初期からこの二人はよく組んでいた。


本人同士はともかく、国同士という規模ならお互いの国が相手国のことを友好的であるという認識が浸透している程度には親交があるのだ。



しかし今回、比較的手の出やすいグリムガルと、刃向かう者に容赦しないゼクセクスが対立を明言している。明らかに大戦の前兆だろう。


そしてゼクセクスと同盟がほぼ成立したフォリアも間違いなく巻き込まれることになる。これは先にゼクセクスに対して支持を示したことで嵌められたかもしれない。



(けどま、惚れた方の負けってことかしら……)



そう思うことにし、肩を竦めて目を閉じる。地味に巻き込まれた親友のセレスが、涙目になって無言で訴えて来ていることに気付かぬまま宴の本番は幕を閉じたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] どことどこが、敵対し、同盟になったのか、さらっと読んだだけで、私には理解できないし、面倒だね。
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