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魔神の下で勇者を目指してみた結果。  作者: 風遊ひばり
第一章 魔神のお膝元
1/89

0 プロローグ

私の二作目、最も好きな分野である「異世界転生もの」にしてみました。一作目とは分野が大きく変わりますが、お楽しみいただけたらと思います。

ついでに、一作目「私どもにお任せください、ご主人様!」もよろしくお願いします。

「ハァ……本当に死ぬかもしれねぇな」



ほとんど人のいない終電に揺られ、片岡奏馬は呟いた。


さっさと内定をもらって中の下ぐらいの理系大学を出た俺はそのまま一般的な企業に就いた訳だが、どうやらブラックだったようで、今夜も職場でボランティアをして帰ってきたところだ。


こんな生活が十年以上、気付けば独身どころか童貞のまま三十八歳まで来てしまった。もはや期待もしていない。


駅まで徒歩十五分の道のりをふらふらとした足取りで歩く。


奏馬が帰宅する時間には当然(と言うのもおかしいが)近所のスーパーやなんかは閉店しており、開いている店と言えば居酒屋かラーメン屋、またはコンビニぐらいである。


この時間に帰宅するという生活が続くと趣味のゲームや漫画に費やす時間もなく、偶の休日ですら睡眠と休息でなくなってしまう。


家で料理を作るなど論外であった。幸か不幸かコンビニは近くにあるので、いざという時の食料は何とかなるのだ。


どうせ明日も早いのだ、コンビニで朝食ぐらい買っていこう。近道である民家の合間の狭い道を抜け道路に出た。


 ――瞬間―― 耳をつんざく鋭いブレーキ音と強烈な光に包まれ、直後にものすごい衝撃が体を弾き飛ばした。


突然のことに理解は追いついていないが、体を襲う浮遊感と何かが抜け落ちていくような感覚に直感した。



(あ、事故……これ俺、死……)



視界は白い光のみで何も見えず、不思議と痛みもない。と思えば今までの人生が頭の中に高速でフラッシュバックする。



(電車の中での呟きでフラグが立ってたか……。これが走馬灯ってやつか?まぁ道具のように使われて良い事が何もなかった人生だし、終われるのならこれはこれで


……よくねぇよ!何この走馬灯!?俺と同じぐらいハゲの部長が出てくるんだが!?第一、ほとんど女性と関わりがないまま終わってたまるか!)



今までの人生に無性に腹が立つ。と同時にこの期に及んで腹を立てている余裕があるなど、我ながら精神力は強いなと思ったのだが……



(ま、これで生きてたらの話だけどな……)



          ♢♢♢♢



気が付けば俺は真っ白な空間にいた。本当にただただ真っ白な世界が広がっており、見える物と言えば自分の体ぐらいである。


あれだけの事故であったにも関わらず、手足にも全く怪我は無く、痛みもない。


屈伸してみたりと体を動かしてみるが、どこにも違和感はなく五体満足の状態だ。ただ、なぜか服を着ておらず全裸の状態なのだが。


それにこの風景も異様だ。死後の世界はてっきり三途の川を渡っていくものだと思っていた。


奏馬はあまりオカルトを信じないタイプだが、死後の世界かどうかは置いておいて、事故にあったと思ったらこんな空間に一人立たされている状況に置かれては、オカルトチックな何かを信じるほかに無い。



俺はどうなったんだ?死んだにしては意識もはっきりしてるぞ?



困惑していると何処からともなく声が聞こえた。



「ほう、人間がこんなところにまで辿り着くとは。稀に見る魂の器だ」



ビクッと肩を震わせ辺りを見回すが、その男性とも女性とも聴き取れる声の主の姿は見えず、真っ白な空間がどこまでも続いているだけだ。


だだっ広い空間に妙に響くように聞こえるその声はさらに続いた。



「少し話に付き合ってくれるか?後でお礼もしよう」


「それはいいけど、あなたは何者なんだ?どこにいる?」


「私か……ふむ、私は姿を持たなければ指し示す固有名詞も無い。しかし姿があった方が会話し易いか。これならばどうだ?」



そう声が響くと、靄のようなものが目の前に集まりだし、人の姿を象っていく。そうして現れたのは、一枚の布を肩から斜めに掛けただけの人物だ。


180cmはありそうな細身の長身で、腰まであるサラリとした金髪を降ろしている。しかしその眼には瞳はなく白目だけであるうえ、顔も身体も男性とも女性ともつかない。



「……神様かな」



その姿を見た素直な感想がそれだった。もちろん神様の存在など信じていない。いや、信じていなかった。


しかしこうも非現実的なことが立て続けに起きては、信じる信じない以前に考えることを放棄したのだ。


ただ、目の前に現れた存在を神様と思うことにしただけである。



「ふむ、今までここに来た者たちは皆そう言う」


「なら本当に神様なのか?」


「正解とも不正解ともいえるな。私はただ無数にある世界のすべてを記録する者」


「無数にある世界ね……地球だけじゃないのか」


「そうだ。だがそれらは決して交わることは無い。ある一点を除いて」


「それがここ……だな?」


「分かっているではないか。ここには本来、誰も辿り着くことはできない。だが君のように死してなお生を望むほど強靭な精神力と、砂浜から一粒の砂を見つけるような限りなく0に近い確率でここへの道を開く者が極稀にいる」



つまりなんだ、この白い世界は別に死後の世界という訳では無く、幾つもある世界が交わる特異点であるということか。


そして死んでからここに来るということは極稀にあるらしい。


それって死後の世界と同じなんじゃね?という疑問は心にしまっておく。それより気になる事を言ってたな。



「死して尚生を望むって?俺そんな心当たり無いんだけど?」


「君からは生を望む強い意志を確かに感じた」



ちょっとあの時のことを思い出してみよう。確か事故にあった後、視界が真っ白になって走馬灯っぽいのを見て、ああ、確かハゲの課長の顔ばっか出てきたんだっけ。


それでなんで課長ばっか出てきて女性が居ないんだって腹が立って……



「もしかしてそれか?」


「ああ、そうだ」



神様が、さも当然のように奏馬の心を読んで答えた。


いやまさか彼女が欲しいという思いが強すぎてこんなところまで辿り着くことになろうとは。


他人なら笑い話だが、自分のこととなると顔から火が出そうである。この場には他に誰もいないとはいえ。



「ゴホン……それは良いとして、俺はやっぱり死んでいたか」


「うむ、人間の定義で死は確認された。が、今会話が出来ているように君の精神は死んでいない」



んん?またよく分からない言葉が出てきたな。体は死んだけど精神は生きてるって?



「よく分からなかったんだが、俺は結局生きてるのか?死んでるのか?」


「死んでいるな。だが精神……魂だけは現世に残り、未だ活動している。君達人間の言葉を借りるなら幽霊といったところか」


「幽霊か、そうかそうか……マジか。え、幽霊ってもっとこう……怨念?みたいのを持って死んだ人がなるものだと思ってたけど、俺みたいに適当な感じでなれるもんなのか?」


「現にこうなっているのだから仕方あるまい。現実を認めたらどうだ?」



おい、なんか目の前の非現実的な存在から現実を認めろと言われたぞ。


別に怒るとかそういう気持ちは無いが、なんというか納得いかないものがある。しかしそれを言っても埒が明かないので今はスルー。



「俺はこれからどうなる?死んでも魂だけは残ったんだ。何か意味があっての事じゃないのか?」


「それは君次第だ。君の行動は私がどうこうできるものでもなく、他のものがどうこう言ったところで最終的に行動するのは君なのだからな。だが、何らかの意味があってここに辿り着いたというのも可能性としてはあり得る」



うん、物凄く正論で返されたが聞きたかったことはそうではない。しかし……意味があるかもしれないのか。


何者かにここに連れてこられた可能性も……っていうのは考えすぎか?


まぁこの神様っぽい人が0に近い確率で極稀に来るって言ってたから、そこに他人の意図を挟めるとは思わないが。



「……言い方を変えよう。他にここに来た人達も少しはいるんだろ、その人達はどうしたんだ?」


「再び生を受け、それぞれ世界へと帰った」


「世界へ帰った、ね。なるほど」



少しの間無言となり、思考を巡らせる。俺は地球で交通事故に遭い死んでしまったが、彼女が欲しい思いが強くて魂だけは現世に残ったようだ。


なんというか、我ながら根性出すところがおかしいな。でもとにかく疑問を解消していかなければ。



「ここは無数の世界が交わる場所って言ったよな。俺また元の世界に帰ってもろくでもない人生しか待ってないんだ。それとは別の世界で新たに生を受けることはできるか?」


「無論可能だ」


「その場合何か制約があるもんなのか?記憶が無くなったり別の肉体になったり……」


「それはこちらの調整次第で何とでもなる。君に明確な希望があれば尚更だ」


「OK、分かった。俺の希望をある程度反映してくれるのならよく考えておくことにするよ。取りあえず俺の質問は終わりだ。あなたの話ってのは?」


「私にはあらゆる世界の知識がある。しかし、人間の感情というものを理解していないのだ」


「ん?どういうこと?」


「私はあらゆる世界の物事をすべて記録している。それは『何が起こったか』ということが分かるだけで、人間の感情を知ることができない。故に、人間の考えや感情を知りたいのだ」


「するとなんだ、知識欲を満たしたかったのか?」


「簡単に言えばそういうことだ。可能であれば、君が再び生を受け、それを観察させてほしい」



なるほど。各上の存在が自分に足りないものを埋めるために、俺のような都合のいい相手を利用するという、よくありがちなやつだな。


今回の場合この神様っぽい人は知識欲、というか感情を知りたいから、たまたまこの場所に来た俺を利用しようといったところかな。


まあ死んだのに別の世界で生かしてもらえそうだから、特に文句もないしむしろ喜んで手伝おうと思う。


「ならこれで話は終わりだな」


「お礼はそうだな。君は別の世界に行きたがっていた。適当に別の世界で生き返らせてやろう」


よし来た。これを待っていたのだ。


「それならある程度希望を考えたんだ。融通聞かせてくれるんだろ?」


そう言いながら別の世界の光景を頭の中で思い描く。思い描くのは異世界系の物語にありがちな中世ヨーロッパぐらいの文化レベルの世界だ。


現代日本のような世界での生活はもううんざりだし、かといって未開の地の部族のような完全自給自足の生活も俺にはおそらくできない。


それにそのぐらいの時代なら、地球で培った俺の知識は武器になる。


科学技術の発展していない世界で生きるために王族や貴族にコネを作るにしても、文字通り次元の違う知識と技術を駆使すれば何とかなりそうである。


そのためにも魔法が広まり、科学は進んでいない世界を思い浮かべたのだ。


しかしながら魔法というのは十分脅威になるだろう。そのうえ現代より低い文化レベルともなれば、自分の身は自分で守らなければすぐにでも命を落とす危険がある。


何より俺はゲーム内レベルの知識しか持っていないのだ。という訳でもう一つ要求したいと思う。



「どうだ?色んな世界があるのならこんな世界もあるんじゃないか?」


「ふむ、近い様子の世界がある。そこにしよう」


「あるならよかった。けど、もう一つお願いがある」


「なんだ?」


「そこで生きるための、何か特殊な能力が欲しい」



やっぱり異世界に行くなら異能とか魔法って大事だよね。



「ここに来て尚その強欲さを見せた者は今までに一人しか知らないな。面白い、いいだろう。ただし、その世界に大きな影響を与えるものは授けられない」


「たしかにもっともだな。それなら身を守れるものがいい。俺が地球で死んだ時みたいな、あんな死に方をしないように……どんな攻撃も通さない魔法が」


「君の行く世界に似たような魔法が存在するが、唯一の存在だ。君に与えるものは劣化したものだ。そうだな……自身に命の危機が迫った時のみ自動で発動する、外中両方から何も通さない檻の魔法、でいいな」


「ああ、申し分ない。というか、その方が便利だ」



自動で発動するということは、不意打ちや自分の意識外の攻撃にも対応できるということだ。


意識して発動できても認識してから発動が間に合わなかったら意味ないからな。


一応デメリットもある。命に別状はない程度に痛めつけるような攻撃に対しては発動しないので、頑張って耐えるか自分で何とかするしかない。


それともう一つが、内側からの攻撃も通さないということ。攻防一体は不可能だし、相手によっては倒されないが倒せないという膠着状態になる事が目に見えている。こればかりは事前に回避するしかない。



「では君を向こうに送る。私は君と世界がどうなるか楽しみに見ていよう」



直後、真っ白だった空間は真っ黒となり、あの声の主も消えた。それだけではなく、自分の心臓の音すら聞こえなくなり、形容しがたい不安感に苛まれた。


そして、突然俺を襲う、強烈な眠気のような意識を持っていかれる感覚。それに抵抗することも出来ず、次第に意識は闇にのまれていった。

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