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女神は俺を奪還する  作者: UDG
第七章 キノーワの女神
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六十二 魔法使いと発電所

「どうですか弘一! 炎が安定しましたわ」

「なるほど。これで歩くチャッカマン二号の出来上がりか」


 神の恵み計画が始動して一ヶ月。そして、イズミが嵐学園に通い始めても一ヶ月。

 我が家の奥に造られた秘密基地では、今日も隊員たちが謎の特訓を続けていた。


「思うに、そんなに難しいことなのか? 元がスキルなら、命じればそれで実行されるはずだが」

「命じるという感覚が分からないから困っていましたのよ」

「うーむ」


 異世界で女子大生ファッションを広める女イズミは、隊員にふさわしくないワンピースにカーディガン姿。そして俺の知る限りでは美由紀の次ぐらいに見事な谷間も見えまくり。既に学園でも目立ちまくりらしい。

 谷間はわざと見せつけてるんだろうけど。

 美由紀の妹分という安全な位置におさまったせいで、俺をからかうことには何の躊躇もない女だ。

 俺は俺で、谷間は正直言って見飽きているし、やっぱり妹として認識してしまったせいか、悲しいことに興奮しない。興奮しなくても、谷間があれば目で追ってしまうし、だからイズミの悪戯も終わらないわけだが。


 ともあれ、谷間妹は日本の女子大生の姿のまま、手前にのばした右手の指先に蝋燭一本ぐらいの炎を出現させた。

 魔法スキルのファイア、レベル1。次はその火をゆらさないように歌う訓練だ。え? 訓練の意味が違うって? そのツッコミをした奴はきっとオッサンだと思うぜ。


「とりあえず、服が燃えそうで落ち着かないぞ」

「ちゃんとお姉様が護ってくださってるのよ」

「それは知ってるけどなぁ」


 日本の女子大生の姿なのに、この星で二人目のレベル300となったイズミ。

 デカいのはアレだけの細身の身体で、二トントラックも持ち上げる怪力。その上に約十種類のスキル持ちで、まるでゲームのキャラのようだ。いや、実際にゲームのキャラ設定を適用させたわけだし、この星に今のところ二トントラックは走ってないけど。

 問題はレベル300もスキルも、スマホアプリ「願いの楽園」の設定に合わせて、この星の管理者の力が生み出したという点。つまり、特に裏付けのない擬似的なものでしかない。


「炎の色を変えられないか? イズミ」

「色?」

「高温になると色が変わるだろ? 青っぽくなったりとか」

「…それをどうやって命じるんですの? ファイアと命じるだけでも大変ですのに」

「うーん……、炎よ燃え上がれ~とか叫んでみる、なんてのは」

「貴方のお手本を見ないと真似できませんわ」

「最初から真似する気ないよな?」


 残念ながらこの星に、生物にレベル設定のあるようなご都合主義はない。いや、勝手に上限が設定される方が、その時点でご都合主義どころかクソみたいな話だけどな。

 まぁ、管理者はゲーマーでも何でもなかったので、そんなくだらない発想に至らなかった。擬似的にでも再現できる以上、恐らくは「そういう星」に造り替えることも可能だと思う。美由紀と共同管理状態になる前の、完全体であったならば。


 以前の美由紀と俺の実験で、人間の老若男女の平均値をレベル1にして、その三百倍の身体を作ったらしいことは分かった。

 一方でスキルは、管理者の能力を設定に合わせて限定的に与えたものと考えられる。

 一人目の美由紀は、管理者の能力そのものを同時に奪い取っていた。なので、魔法スキルはその能力の下位要素に含まれ、結果としてコントロールもできた。

 しかしイズミが得たのは擬似スキルのみ。だから問題が生じた際に、上位の能力で強引に解決することはできない。

 仕方がないので、普段は美由紀がイズミのスキルに制限をかけ、こうして訓練を積んでいる。キノーワの住人のイズミは、美由紀の管理下にあるのでそれが可能になっている。

 もちろんこの地下空間も、美由紀が創り出した。彼女の管理下で、何をやらかしても外に漏れない。そしてイズミや俺、さらに農地の植物などは防御のための結界で囲われている。何から何まで、美由紀に護られている。


「イズミが苦戦していることについて、管理者の見解はどうなんだ?」

「わ、私にゲームのことを聞かれても」

「むしろ、他の誰に聞くんだと言いたいぞ」


 秘密基地には、レベル300の身体を作った本人である管理者も呼んでいる。

 本来は実体を持たない管理者は、例によって美由紀が用意した身体を使っている…のだが、どんな姿をしているかについてはノーコメントとさせていただく。


「……無責任であったと反省はしています。弘一にも迷惑をかけました」

「俺のことはもういいが、自分の力について少しは理解に努めようぜ」

「貴方の言う通りです」


 しゃべってみれば、普通にコミュニケーション可能な人格。しかし、意識が生じてからですら何十万年経ったか分からないのに、思慮深い大人ではなく、幼稚園児のように純粋無垢。それがこの星の管理者の、偽らざる姿だ。

 地球のゲームに細工して、俺を含む二十人前後を拉致した犯罪者。当人はこの星のためになると確信していて、そのくせに肝心の記憶を消してしまったから、実質的にはただ地球の人口がわずかに減り、こちらがわずかに増えただけだ。その点では、どうしようもなくバカだし、無責任だった。


「ところで弘一、日本ではこのような姿が普通だと美由紀が……」

「この星の管理者ともあろう者が、まさか真に受けてないだろ?」

「さすがに…、これでは歩くこともできません」

「……そ、そういう問題でしょうか」


 うーむ。触れずに終わろうと思ったのだが。

 管理者はかつてスケキヨと呼ばれていた。いや、かつて、ではない。美由紀は新しい身体を用意して、そして今も呼んでいる。

 ……………。

 悲しいことに、嫌がらせの方向性が分かってしまう。夫婦だとかいう前に、ある意味では日本の常識というレベルで。

 目の前の新スケキヨは、以前はこけしのようなサイズだったが、今は等身大の白い頭で迫力満点。そして、イズミと同じぐらいの背丈の身体は、独創的な衣装をまとう。そう。分かるだろう? 映画のネタバレになってしまうから言葉にしたくないが、秋に咲いたりするあれだ。何というか、ハイブリッド?


「一応分かってると思うけど、歩けないのはわざとだからな」

「……そこは承知しています」


 バージョンアップしても人形のままなのは、二つの理由がある。

 一つは、人間に混じって過ごすには危険だということ。幼稚園はどうにか脱しても、せいぜい小学生並みの頭の創造主が、大人の世界でいったい何をしてしまうのか予想もつかない。意地悪をした奴を懲らしめるとか言って、町一つを消滅させられては困るだろう?

 もう一つは言うまでもない。

 今の管理者は、神なのだ。表に出て来ない超越者として、美由紀を手足のように操っている体裁なのだから、その方向性に反した行動は慎んでもらわなければならないのだ。

 あ。

 美由紀の嫌がらせも入れたら三つあった。まぁいいや。

 なお、これをお読みの皆さんは想像ついているだろうが、ここに美由紀はいない。小学校設立の打ち合わせと、電車試運転の運転士役で終日スケジュールは埋まっている。

 電車の時はだいたい俺も駆り出されるのだが、今回は王都の皆さんの日帰りキノーワ観光ツアーだというので遠慮した。高速鉄道のそういうメリットは、説明しなくとも体験すれば伝わるだろうし。



「それにしても弘一、日本の人間というのはすごいものですね。星を破壊してもお菓子の模様の玉があれば元通りにできるとは」

「え、スケキヨさん、それは本当ですの? 信じられませんわ」

「信じるなイズミ、そもそもあれは日本人じゃないし、金平糖のマークでもない。というか管理者、何を勝手に読んでるんだ。そういう本は子どもの教育に悪いって相場が決まってるんだからな」

「貴方がたが持ち帰った、神の恵みではありませんか」

「そうですわ弘一。神さまの言う通りです」

「ちぇ、なんでマンガで意気投合してるんだよ」


 管理者は手足を動かせない。しかし、スケキヨの身体は俺たちと会話するために用意された便宜的なもので、本来は姿をもたない存在だ。

 そして自分の管理下ならば、星のどこにあろうと知覚できる。だから、めくらずに本を読める。おかげで読書がはかどっている。ダメな方向で。

 日本語については、日本で「願いの楽園」を作らせた際に現地人の記憶を取り込んだらしく、一応は読める。少なくとも、少年誌のマンガを読むには十分な能力のようだ。

 そして、神の恵みは一応は管理者が与える形なので、美由紀と管理者の共同管理となっている。つまり、俺たちが古本屋でゴッソリ買い漁った本の山からマンガを探し出して、勝手に読みふけることも可能だ。

 念のために言っておくが、俺たちはマンガを持ち帰ろうとは思わなかった。放っといても勝手に普及するだろうし。単に時間の都合で、店ごと本を買い取ったら混じっていたに過ぎない。

 そう。古本屋を店ごと買い取ったせいで、マンガどころか透明な袋に入った写真だらけの本まで紛れていた。気づいた俺は破棄するよう主張したが、美由紀がなぜか反対して今も残っている。あれがバレたら神の権威が地に堕ちそうな気がするぞ。


「せめて小説を読んだらどうだ、管理者」

「漢字が多くて疲れます」

「そうよ弘一。漢字って数多すぎですわ」

「だから意気投合しないでくれ」


 勉強嫌いな子どものような台詞を吐かれてしまい、ため息。これではますます神が神から遠ざかってしまう。

 とは言え、全能の管理者という存在であっても、慣れない仕事をさせるとストレスは感じるらしい。せめてこの程度の発散は許すべきだろうと、美由紀とも相談して許可している。


「というか、イズミは一番できる生徒だと思っていたのになぁ」

「貴方ねぇ、あそこにいる人たちがどれだけ優秀かお分かりでしょう?」

「お前だって優秀だろう。俺や美由紀じゃ太刀打ちできない」

「お、お、お、お姉様より優れた御方なんていらっしゃいませんわ」


 イズミはまだマンガを読むまでに至っていない。日本語基礎の授業はとんでもない詰め込みで、仮名文字を覚えながら小学生レベルの漢字も同時に学ばなければならない。始まってたった二週間なのに。

 一応、今のところイズミはクラスの最上位にいる。ただし、我が家で多少の日本語に触れていたアドバンテージは既にない。

 時代も星も違うけど、何ヶ国もの中から集められた本物のエリートは、頭の出来が違う。一年も経ったら俺たちの出番がなくなりそうだ。


「とりあえず管理者は、辞書という楽しい本を読んでくれ。神は日本語のすべてを知ってないと困る」

「美由紀にも同じことを言われましたが、あれは読み物ではありません」

「お前の能力であっという間だろ。神さまが諦めてどうする」


 この星の創造主に、地方都市の衛兵が指示を出すという冗談のような状況。もちろんそれは、俺が美由紀の伴侶で、美由紀はもう一人の創造主で…という事情だが、それにしても虎の威を借る狐過ぎる。

 とはいえ、美由紀は忙しいのだ。

 そして俺にとって今の管理者は、友人というより子どもみたいな関係だ。




「それでね、弘一」

「何だよイズミ。仮にも伯爵令嬢様がかぶりつきながら話すなよ」


 最低レベルの魔法が安定しただけで休憩に入った御令嬢。秘密基地で栽培中の完熟トマトをかじってご満悦の表情だ。

 ちなみに、この星にもトマトらしき野菜はある。味も大差ない。雨が少ない気候なので栽培にも向いているはず。


「いいでしょう? マンガの人もやっていましたわ」

「だからマンガを真に受けるなって」

「話をそらさないで弘一。そんなことより、前から思っていましたの」


 ………どっちが話をそらしたんだよ、と思うが、水掛論なので口には出さない。

 というか、妙に真面目な顔のイズミに、ちょっと反応に困る。黙っていればキノーワで二番目の美貌だからな。


「弘一も訓練しなさいよ。魔法使えるんじゃない?」

「はぁ!?」


 何を言い出すんだお前は。身構えたのがバカバカしくなる提案だ。

 俺は美由紀とは違って、地球から身体ごと転移させられている。地球人だから同じ星の旅人じゃねーんだぞ。

 ―――と一笑に付した。はずだったが。


「私も、貴方がどのような魔法を使えるのか興味があります」

「冗談は顔だけにしてくれ、管理者」

「カンと呼んでください」

「だから親密さを強調するなって」


 なぜか管理者がイズミに同意する。俺を転移させた張本人なんだから、その経緯は知っているだろうに…と思ったら、まさかの事実が明らかになった。

 俺は地球人ではなかった。

 え?


「この星に適応できるように、貴方がたの身体は変わったはずです」

「はず?」

「たぶん、そうしたと思います」

「誰が」

「私が………そうしたと思います」


 要するに、偽の記憶を植え付け、現地語の知識を与えただけではなく、この星の人類と同一になるよう手を加えた、と。犯人のくせに他人事な管理者に腹が立つが、そこは今さらなのでどうでもいい。

 今の俺はもう地球人類の身体ではなかった?

 はっきり言うが、記憶を取り戻してしまえば、以前と今の自分に違いは感じない。体つきも、衛兵になって多少引き締まった程度で、そんなものは地球で運動していれば似たようなものだ。

 魔法が使える感覚? あるわけないだろ。


「弘一は命じる感覚を知っているのでしょう? それなら命じてみなさいよ」

「うむむ…」


 さっきのお返しとばかりにイズミに責め立てられて、訓練させられる羽目に。

 と言っても、俺はゲームのキャラではない。

 イズミにああ言ったのは、管理者がイズミに与えたものが、ゲームのプレイヤーキャラとしての身体だったからだ。魔法スキルはその身体がもっているのだし、使用方法が分からないはずはないと思うだろ?

 ちなみに、一応は同じ条件の美由紀の場合は、プレイヤーキャラのミユキの意識を感じていたらしいし、委ねることもできたらしい。


 ただし、イズミは自分に融合したプレイヤーキャラ側の意識を全く感じないという。


 プレイヤーキャラに意識が宿るという現象自体、はっきり言って意味不明な部分はある。

 ゲーム上のデータを、管理者の能力で実体化したわけだが、美由紀が取り込んだキャラのミユキは、俺がスマホの画面上で指を動かして操っていただけの存在。あの「願いの楽園」で、キャラは会話をする機会もほとんどなかったから、そこに意識が宿るなんて想像もつかない。

 会話と言えば、商店や宿屋で、店番がいつも同じ定型句を話しかけることはあった。しかし、プレイヤーキャラはそこで返事もしなかった。

 たぶん、レベルアップの際に「力がみなぎってくる」とか画面に定型句が出た程度のはず。あれはキャラの台詞なのか微妙だな。

 要するに、美由紀がミユキを感じた時点でおかしい。


 イズミが受け取った身体は、元から虚無のような管理者自身が、使いもせずにほったらかしにしていたサンプルだ。

 美由紀とミユキの関係が異常なだけで、イズミがスキルの発動に苦労するのは当然だったのかも知れない。


 で。

 どっかのスプーンおば…ではなく、曲げるおじさんのように念じてみる。スプーンはないし、そもそも曲げるんじゃなくて火を付けるのだが。

 付け付け付け…と念仏のように唱えても、何の変化もない。

 もういいだろ? ちらっと前を確認すると、険しい表情のイズミに見つめられている。ついでにホラー映画から飛び出して来たようなあれも、こちらを見つめているかのようだ。いや、こっちは気のせいだ。


「そ、そうか。チャッカマン、チャッカマン」

「………バカじゃないの?」

「気が散るから黙ってくれ。チャッカマン、チャッカマン…」


 炎を思い浮べたって、火がつくはずはない。そう思い立って、あの便利な器具をカチッと押す瞬間を頭の中で再生する。

 おお、いいぞ。というか、この世界でもあれがあったら売れるだろうな。我が家は美由紀の魔法で全部済んでしまうけど………。

 ……………。

 …………。

 ………。


「あれだけ期待させておいて、結局何もできないなんて呆れた人ですわね」

「期待するな。というか、考えてみれば、この世界の人間と同じだったら使えないのが普通だろうに」

「今ごろ気づいたのですか? これだからお姉様も苦労されているのよ」

「次の授業でお前に当てまくってやるからな」

「そ、そ、そんなこと、許されるはずがありませんわ。横暴です」


 イズミは慌てているが、知らんぷりの管理者、お前の方が罪が重いからな。

 この星の人類に、魔法使いになる可能性を与えた一方で、ほとんど使える可能性がないという状況を作った。管理者の意図が理解できないわけじゃないが、俺の努力が無駄になることもその意図の通りだった。それぐらい気づいてくれ。




 なお後日、美由紀の前でも同じように魔法の訓練をやってみた。

 もちろん、どう頑張っても魔法は使えなかったが、思いのほか食いつきが良かった。


「巻き上がれ、チャッカグレート!」

「今、貴方の身体の中を何か通ったわ。お腹から右手の方に」

「おお、もうすぐ俺の必殺技が炸裂するか?」

「必殺技ならいつもベッドで食らってるわ」

「……良い子の教育に悪いから下ネタはやめてくれ」

「えー? 下ネタだなんて言ったかしら」


 美由紀が俺を管理下に置いていて、その気になればミトコンドリア一個の挙動すら追える状態だから、どうにか気づく程度の微々たる変化。少なくとも、魔法発動に至った何かではないが、その意図に沿った動きだった可能性はある。

 ああ。余計な会話は無視だ。


「俺をモルモットにして、お前の魔流研究が始まるんだな」

「魔流って呼び名はさすがに格好悪すぎない?」

「そのうち慣れるだろ」


 魔力を電力のように扱う。鉄道についてはいったん諦めたが、俺たちにはもっと重要な目的がある。

 地球との安定した往復ができる状況を確立する。その鍵になるのが、地球側での魔力不足の解消になる。

 電池のような魔池――さすがにこの呼び名はどうにかしたい――を用意して、大量の魔力を貯めた上で地球に持って行く。そうして、帰還に足りない魔力を補う。

 巨大竜の爪のように、魔力を貯める物質は存在するので、魔池の実用化は不可能ではないはず。ただし巨大竜の爪はもう残っていないし、現時点で似たような性質の物質は発見されていない。


「巨大竜がどうして生まれたのかを考えるべきなんだろうな」

「この辺の国の記録にはないらしいから、検討課題ね」

「ケーホから時間を戻して見るってのは?」

「爪の一部だけ戻しても、そこから全体は復元できないわ。できたら怖いでしょ?」


 まぁ確かに無理か。

 仮に爪の細胞を万能細胞化して培養しても、クローンが出来るだけで過去を知るわけではない。ただ、その作業で同一個体が出来るなら、クローンでも研究する価値はある。

 問題は、人類にとって最大級の災害であった巨大竜のクローンを、安易に作ることの是非だ。いや、非に決まっているだろう。

 美由紀にとっては巨大竜も敵ではないが、勝てるかどうかは問題じゃない。あれを作れてしまう美由紀が、どう考えても人類の敵じゃないか。


「じゃあ次の実験ね。こうやって」

「あ、やめろバカ」

「バカって言ったよねー?」


 勝ち誇った顔の美由紀が、右の手のひらを開く。

 …………。

 手のひらに小さなゲートを作る。その先がどこにつながっているかは口にしたくない。

 そして、これだけは皆に伝えておこう。毎日のようにやられている、と。誰にそんな真似を教わったんだと呆れるが、そろそろ限界だ。


「ちゅっぱちゅっぱしたら、どうなるかなー?」

「そ、それは魔法と関係ない…だろ…」

「そう? あちこち貴方の中で動いてるのが見えるわ。すぐに大きくなって可愛いし」

「じゃあ見…えたものは魔………法じゃなかった……んだろ…」

「魔法だと思うけどなー。だって、私にはできないもん」


 ……………。

 ノーコメントで。後はな…流れでお願い…するんだぜ。


※ノクターンに行きそうとか思った時点で負けですよ。ええ。私は健全な内容しか書いていないので、その旨よろしく。というか発電って……。

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