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女神は俺を奪還する  作者: UDG
第六章以後の閑話
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閑話 一人の美由紀が二人の美由紀

※ここからはオマケみたいなものです。本編の続きは続編として公開予定。

 ある日の朝、目が覚めた俺の前には、同じ顔が二人いた。

 …………。

 お約束で目の辺りをゴシゴシやってみるが、やはり二つ見える。

 うーむ。


 寝よう。


「起きないと、いいことしちゃうぞ」

「起きないと、悪いことしちゃうぞ」

「それ、どっちも同じ意味だよな!」


 飛び起きた。

 ………。

 やはり二人いる。十二人じゃなくて良かったよ、美由紀。



「では問題です。本物はどっち?」

「では問題です。本物はどっち?」

「何だよ、お前は伊賀者にでもなったのか?」


 某有名忍者の影分身は、別に二人になったわけじゃなく、目の錯覚でしかないが、どうやら美由紀の身体は二つある。どちらも触らせてもらったが、ちゃんと質感もあった。何の質感なのかは回答を控えさせていただく。

 で、これも一応は実験らしい。


「ちょっと、みんな来てー」


 美由紀一号――便宜的にそう呼んで見るが、一瞬目をそらすと、もうどれなのか分からない――が声を掛けると、まさかの事態に。

 屋敷のあちこちから、ぞろぞろと現れる美由紀たち。うむ、一匹いれば十匹はいる黒い奴じゃあるまいし、どういう状況だよ。

 そうして美由紀たちは整列して、俺の前で仁王立ちした。ものすごい威圧感。いや、あの、主に肉体のとある二つの盛り上がりが。


「点呼!」

「美由紀275」

「美由紀250」

「美由紀225」

「美由紀200」

「美由紀175」

「ちょ、ちょっと待て! ちゃんと説明しろ、その…、美由紀一号!」

「ざんねーん、美由紀300でした」


 …………何となく分かった。300か。そう言うことかよ。


 美由紀が分身を造ったのは、これが初めてではない。王都でイズミと学校潜入をやらかした時に、既に分身は使っている。ただし、その時は二体が並ぶ機会はなかった。

 で。

 分身製造の方法は、以前と同じ。ただし、その際に身体の性能に制限をかけたわけだ。

 300というのは、ゲーム「願いの楽園」におけるレベル上限。美由紀の身体は、俺がミユキとしてカンストさせているから、当然300ある。

 それ以外の数字は、要するにそこまでレベルを下げた状態ということだろう。それはだいたい理解したが…。


「この世界にレベルはないんだろ?」

「だから実験よ」


 実際、例えば「美由紀275」を造るにあたって、レベルをその数値に調整できたわけではない。ただ「レベル275で」と指定して分身を造ったというだけ。実際にそれが適用された証拠もない。


「戦わせてみれば分かるんじゃないかしら」

「どこで? お前が戦ったら町がなくなるぞ」

「例の広場は?」

「緩衝地帯で済むわけないだろ。四ヶ国が滅亡する。というか、あれを広場と言うな」

「弘一くんは一度にいろいろ言い過ぎ」

「ツッコミ所しかない発言しないでくれ」


 結局、その「広場」に巨大な結界を作り、総勢十三人の美由紀と俺が移動した。

 そう、十三人。1、25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300だ。


「レベル1は必要なのか?」

「美由紀1の相手は貴方よ、弘一」

「はぁ? バロロームするのか?」

「さぁ、私を滅茶苦茶にしてちょうだい!」

「人聞きの悪いこと言うな!」


 そうして、一人の美由紀が俺に襲いかかってくる。

 怖いっす。

 俺はこれでも、世界一お前の恐ろしさを知っているんだぞ。あの巨大なヤツで頭を潰されるなんて、それだけ大きいのが好きでもそれだけは勘弁だぜ―――――――と。


「どう、弘一。これがレベル1の力よ」

「冗談だろ?」

「冗談じゃないわ。そう、俺たちの本気を見せてやるぜ」

「だから俺たちって誰だ」


 プロレスの手四つみたいに組み合う。俺の方が背が低いし、美由紀の本体と組み合ったら、一瞬で潰されてしまうはずだが、古き良き日の試合のように力比べが成立している。それどころか、俺の方が優勢だ。

 俺は美由紀1を押し込んで、コーナーはないが結界の端に追い込む。

 うむむ。

 この場合、次は逆水平だが、さすがにそれは…。


「スーパースターの真似は、絶対にしないでねチョップ!」

「痛っ! お前は少しぐらい躊躇しろよ」

「大丈夫でしょ? レベル1なら、貴方より弱いはずだし」


 そうか?

 確かに、目の前にいる美由紀1は、美由紀史上最弱なのは間違いない。逆水平を食らっても耐えられる。これなら痛みが分かるプロレスもできる。俺がやろうとするとばいんばいんしてしまうので、一方的に食らうしかないのが難点か。

 しかし、痛いのは事実。

 少なくとも、真面目に戦った場合に楽勝とはいかないだろう。まして、プロレスではなく殺し合いの場であれば、頭脳がそのままなら俺が勝てるとは思えない。


「本当にレベル1になってるのか? 正直言って、そこが疑問だ」

「では美由紀25、一つ懲らしめてやりなさい」

「ちょ、ちょっと待て! 俺は悪代官かっ!」


 …………。

 もちろん戦ったわけではない。さっきと同じように、手四つの体勢で組んでみた。

 で。

 美由紀25は、びくともしなかった。どんなに力を込めても、指一本動かない。とてもじゃないが、人間と対戦している気がしない。

 恐らくこれは、人類最強と称されるような人でも相手にならない。もちろん逆水平は、間違いなく一撃必殺になってしまうのでやめてもらった。


「まさか25に勝てないなんてねー。じゃあ出て来い、俺の友だち!」

「友だちじゃねーだろ!」

「美由紀メダルでも作ってみる?」


 その場で十四人目を作ってしまった美由紀。

 レベル10の美由紀だそうだ。

 で、結局はまた俺が相手。手四つの力比べだけだ。


「………全く勝てない」

「それで衛兵がつとまるの? 特訓よ! 夕陽に向かって走れ!」

「なぁ美由紀。そろそろ真面目にやってくれ」

「せっかくのデートなのに、つれない人ね」


 デート!? 思いがけない言葉に、一瞬俺の思考が停止した。

 ……さて、妄言は放っといて。

 これらのレベル数値が確かに反映されていると仮定する。そうすると、恐らくこうだ。

 この世界の人類は、だいたいレベル1から5ぐらい。ワイトさんでも、たぶん美由紀10に勝てない。コーセンさんは…、どうだろう。


 その後は、美由紀たちが力比べをするのを美由紀300…というか本体と眺めていた。

 それぞれの数値の美由紀には、確かに力の差がある。ただし、やはりこれはゲームのレベルとは違う。単に、それぞれの個体に力の差があるというだけだ。


 結局はっきりしたのは、美由紀、そしてイズミのレベル300が、この世界で擬似的に再現されていること。ただし、レベルは数値化されていないから、それっぽい身体になるというだけ。恐らくは、老若男女全体の平均値をレベル1と仮定して、その三百倍程度の身体になったのではないか。

 逆に言えば……。


「美由紀、実験だ。レベル300を作ってくれ」

「えっ?」

「レベルを擬似的に再現しただけなら、その後の何年かでお前は変わったはず。それを確かめよう」

「あー、なるほど。じゃあいくよ、りんぴょうとうしゃ…」

「それは伊賀忍者か、陰陽師なのか?」


 そうして、十五人目が現れた。まぁ何人目だろうと、見た目は同じなのだが、今度は本体と対戦する。

 互いにレベル300を再現した身体だから、同等の力になるはずだ。


「あれ…、思ったより弱い?」

「そうね。弱いわ」

「申し訳ないが、どっちがどっちだか分からない」


 力比べは、意外にも片方の圧勝に終わった。つまり、二人は同等の力ではなかったわけだ。

 で、その勝者は?


「さぁ、勝ったのはどっち?」

「お前だよ」

「全員、お前って呼んでほしいみたいだけど」


 本体が勝った。それは二つの可能性がある。一つは、単にレベル300が正確に再現されていない可能性。あくまで美由紀がそう命じただけの身体なのだから、その可能性は否定できない。

 が。

 やはり、本物はこの数年で強くなった。そういうことなのだろう。





 なお、十五人は程なく一人に戻った。美由紀は、せっかくだから使用人の代わりに働かせようと言ったが、俺はもちろん拒絶。いくら分身だろうが、美由紀にそんな役をさせるわけにはいかない。

 それに、いずれ働き手はやって来るからな。裏庭の畑は、嵐学園の実験農場みたいな扱いになる。そこの管理を学生に任せる予定。要するにアルバイト先だ。

 そんな形で、レベル実験は平穏に終わりを告げ……るはずもなく。



「では、みんなで滅茶苦茶にしてもらいましょうねー」

「ぃえーい、サービスサービス!」

「お、俺は了承してないからなっ!」


 最初は四つ脚、次に二本で、最後は三本脚になる生物は何だ?

 美由紀は、日中は二本脚、真夜中はいっぱいだ。俺に滅茶苦茶にされるとか嘯きながら、俺を滅茶苦茶にする生き物なんだ………。


※しょうもない話ですいません。そして、一応これで完結扱いです。

 閑話はあと二つ書いているので、連載中に戻して追加する可能性はあります。ただ、正直言って表に出すクオリティにないので、このままかも知れません。


 続編で第七章を書くので、これで終わりという感じではありませんが、ともあれ読者の皆様、ご愛読ありがとうございました。

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