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女神は俺を奪還する  作者: UDG
第六章 お前と俺は奪還する
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閑話 異世界人と魔法使い

「なんでしょう、この高原に白く輝く花のように馥郁とした余韻は。ああ、この身を包み込むような至福の味わい…」

「まだ続くのか」

「弘一は昔からせっかちなのよ、困った人ねぇ」

「俺が悪いのか、悪いんだな、悪いですよ」


 ある夜の話。

 いつも通り、イズミを交えて三人でお茶会だ。

 今日のお茶は美由紀が用意したもので、これまたゲームで手に入れたらしい。それを飲んで冒頭の長台詞を吐いたのは、もちろん伯爵家の御令嬢様であらせられる。はっきり言って、何一つ頭に入って来ないが、貴族の娘はこれぐらい言えて当たり前なんだってさ。


「この葉っぱは、イデワでは手に入らないのか?」

「茶葉と言いなさい。これだから衛兵はがさつで困りますわ」

「まぁ許してあげてイズミ。私もがさつな方だし」

「お姉様は神のお舌をお持ちなのですから」


 誰だよ、ベロにおをつけるよう教えたやつは。というか、イズミの茶々のせいで話が進まない。お茶だけに。

 …………うむ。反省した。

 この茶葉は、イデワで育てられている木と同じ種類で、製造方法もさほど違わないという。ただし高級と書いてあったから高級なのだ、と。相変わらずわけの分からない話。


「思うに、異世界のお茶がなぜこの世界と同じなんだ? 別の星なんだろ?」

「別の星どころか、別の宇宙ね」

「じゃあ尚更おかしいだろ」

「それはまぁ、デンジ星があーだこーだと」

「あれ、お前は知らなかったんだろ?」

「まぁね。話が古すぎるのよ」


 ちなみに、異世界人のままやって来た美由紀と、この星の人間にほぼ違いはないという。いや、それを言うなら俺はどっちになるのか。イズミに至っては、祖父が異世界人だったわけで。

 一つだけはっきり違っていただろう点があるとすれば、魔法だ。向こうの世界に魔法はない。


「そこがおかしいよな? 異世界人のお前は魔法使いで、俺もイズミも違う」

「私も気になります、お姉様」

「その認識は根本が間違っているのよ」


 美由紀が言うには、そもそもこの世界の人間は、潜在的には誰でも魔法使いになり得るのだと。管理者も同じ見解だという。

 ただし、潜在的にはそうでも、実際にはほとんどの人間は使えないままだ。それがなぜなのかは、管理者に聞いても要領を得ない回答しかない、と。


「あれの悪意で使えなくなっている。私はそう思ってる」

「悪意?」

「あれは自分では善意のつもりだろうし、制限せざるを得ない事情も分からなくはないけれど」

「……それは、世の中が滅茶苦茶になるという意味でしょうか?」

「そうね」


 管理者の「悪意」。当人に何かをした自覚はなく、ぼんやりした意志がそう作用してしまった。それだけで、魔法使いは数万人に一人の存在になった。とんでもなさ過ぎだろう、管理者。

 もちろん、それは悪意とは呼べない。

 美由紀ほどの能力でなくとも、魔法があふれれば犯罪が増える、そんな未来は容易に想像できる。ギリギリ相互監視可能な数だけ漏れるようになっている現在が、魔法使いを殺さずに済む限界だ。

 そうだよ。

 本当なら美由紀だって殺されていたはず。あまりに能力が高すぎて、殺すこともできないから五段なんだ。


「イズミにはいずれ実験体になってもらうわ」

「ええ?」

「…………」

「え? もう知ってるのか、イズミ」

「そんな大事な話をいきなりするお姉様ではありませんわ」


 ……むしろ、いきなりする女だと思うのだが。話がややこしくなるので、それ以上のツッコミはやめておく。

 そして聞いて驚け。誰が、とかメタな発言するなとか言うなよ。俺はいつだってメタメタだ。

 美由紀はイズミを魔法使いとして育てる計画を立てているらしい。

 正確にいえば、実験体はまだ決まっていない。キノーワ嵐学園で人体の能力覚醒実験を行う。美由紀は、学園の研究者や先生とともにそれに参加するわけだ。

 求められているのは、素性がはっきりしていて信用できる実験体。まぁイズミは確かに条件には合っているだろうが。


「まぁしかし、力を得たら豹変しないとも限らないぞ。今だって毒舌が服を着たような女だし」

「イズミ、弘一には何してもいいわよ」

「それはいいことを伺いましたわ」

「だから他の人にすべきだって言ってるんだ」


 とりあえず、今すぐイズミが凶悪な魔法使いになるわけではないようだ。

 というか、人工的に魔法使いを増やすという事業を、一学園がやっていいのかという疑問もある。その辺は解決するだろうと美由紀は言っているが、どう考えてもイデワ王国単独ですらできないはず。いや、美由紀が関わった時点でそうなるからな。


「つまりお前は、王都でその辺の根回しもしたってことか」

「ケーホも大活躍してるわよ」


 まぁ何かあった時は管理者に任せる気なんだろう。美由紀にも同じことはできるはずだが、自分でやるはずはないし。


「だいいち、イズミは本当に魔法使いになりたいのか? 御令嬢の仕事には不要だと思うが」

「なりたいわ。今のこの国では、それだけでできることが段違いですもの」

「まぁ…それは」

「それと、お馬鹿な衛兵のために教えてあげますわ。御令嬢なんて仕事はない、と」

「……………」


 社交界でどうのとかいうのは仕事にならないのか、と思うけど、まぁ当人にその感覚はないわけか。

 要するに、伯爵家の娘にあてがわれる未来は嫌だと。今のイズミを見れば、そりゃそうなるだろう。学園編入も既定路線で、その上で魔法使いになって、誰かに監視されて…。


「伯爵家の人間でも、監視されるんだよな?」

「当然ですわ。南門の門番には頼みませんけど」

「イヤミの数でも監視させる気か」


 ちなみに、キノーワに在住の魔法使いは三人だけ。うち二人は騎兵隊所属で、もう一人は隣にいるわけだ。

 ただし、騎兵隊の二人は渇水の時にも呼ばれなかったし、大したことはできないらしい。この町は隣国に接しているわけでもない地方都市だから、余所から積極的に魔法使いを呼ぶわけでもない。まぁ今は、美由紀一人で過剰戦力なわけだが。


「イズミは将来のキノーワを背負って立つ存在。そして将来の衛兵を背負って立つカワモさん。やがて二人は…」

「結ばれないからな。というか、結ばせるか!」

「私もできれば余所をあたりたいです…」


※息抜きを兼ねて。次ももう一つ閑話が挟まります。

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