三十七 神と女神の停戦協議
その日の朝、俺は死んだ。
―――――――気がする。
「おはよう、弘一くん」
「……………………、ぇえええっ!!!」
「どうしたの?」
「どどどど…」
「大地を蹴る?」
「蹴るかっ!!」
勢いよくベッドから転がり落ちた。ああ、痛い。俺は生きてる……じゃない!
そんな百面相の俺は、ベッドの上から眺められていた。いた!
「な、なんで一緒に!?」
「夫婦が一緒に眠るのは当たり前でしょ? イズミもそう言ってたわ」
「イズミの話なんて信用するな!」
「あら、イズミは可愛い子よ。そして……」
穏やかな表情が、そこで一変した。
突然、彼女はベッドの上で仁王立ち。ああ、これは悪魔だ。
「あの子と一緒に眠って、自分とは離ればなれ。そんな理不尽な毎日に、貴方はそろそろ我慢の限界を迎えていたの。そう、私は貴方と一緒に眠るべきだと!」
「いや、だからその…」
「そうよね!? 弘一」
……………。
こうして寝室から、ベッドが一つ片づけられてしまった。美由紀が手刀で破壊しようとするのを、客人が使うかも知れないと必死に押し留めたのが、せめてもの救いであったと、後の歴史家は書き記した…わけあるか。
なお、歴史家のために書き記しておくが、美由紀は手刀でベッドを破壊できるからな。屋敷の裏に放置されていた、人の背丈より大きな岩も手刀で粉々にしたからな。これは絶対に書き記してもらいたい。
「今日は当直だ。ワイトさんと一緒だから、絶対来ないでくれよ」
「また誰かの代わりなの?」
「今回はただの順番だ。来なくていいからな」
「なぜ二度も繰り返すのかしら」
魂が飛んでから一時間後。輪廻することもなく戻った俺は、当直日なので昼までのんびりしている。
というか、徹夜が待っているのだから、もう一度寝ておきたいけれど、何となく怖くてそれは実行できない。ならばソファーで眠るか? それも何となく危険な香りがする。
美由紀は、ものすごく上機嫌で書類を整理している。これだけだと有能な事務員のようだが、整理しているのはすべて盗み出したものだ。
「ところで美由紀は、無給でやってるんだよな? 蓄えはあるんだろうが…」
「弘一のヒモなんだから、お金をもらうわけにはいかないでしょ」
「それは目的をはき違えていると思う」
「えー」
五段の冒険職というものに、固定給はない。だから、依頼を受けなければ金も入らない。
もちろん、巨大竜の一件だけで、美由紀が得た報酬はこの屋敷がいくつも買えるほどだったらしい。イズミの時の報酬だって、俺の給与の一年分以上はあった。美由紀は、その半分を俺の取り分としたから、俺もなんだかんだとお金持ちになった。
……喜んでなさそうだって? 当たり前だろ。
美由紀は、半分は俺の取り分だと言って、そして家族の収入を一括で管理すると告げたのだ。だから、半分の報酬を俺は手にしていないし、衛兵の給与すら美由紀に握られている。ただ毎日、少しの金銭が入った財布を支給されているだけ………って、話がずれすぎだろう。
「証拠を揃えて、然るべき筋の目につくようにすれば、いずれ依頼が来るかもね」
「然るべき筋ねぇ」
こんな大がかりな事件で、まさかアラカ所長の出番とはならないだろう。公爵、つまり大臣まで行くのは間違いない。その上で、王族に嫌疑をかけるなら王族も絡む…と。文句なしの面倒事だ。
まぁ表立っての面倒事になれば、逆に巻き込まれる可能性は経る。この国には国軍も衛兵もちゃんといるのだから、暗躍しなければならない状況が続かないことを願おう。
「そういえば、王都でワイトさんの話を聞きましたよ。副隊長からも」
「どうせろくな話じゃないだろ、コーイチ。あそこでは俺なんて相手にならねぇからな」
夜六時。ワイトさんと南門の大扉を閉めながら雑談。この後に軽く食事をして、遅番が帰宅すれば二人の世界が始まる。こう言うと嫌な感じだな。いや、別にワイトさんと一緒が嫌だとかいうわけではないが。
屋台にでも行ってさっさと食べようか…と思った時、見てはいけないものが視線の先にある気がして、空を見上げた。既に暗くなった上空に、星が光っているなぁ…。
「差し入れをお持ちしました、ワイト様」
「こ、こ、これはありがとうございます」
来るなと言っただろう、と口にするわけにもいかず。あくまで夕食の差し入れなのだ。
美由紀は大きなバスケットに、いろいろなおかずをパンで挟んだもの――サンドウィッチというらしい――を大量に詰めていた。どう考えても二人分ではなく、遅番で残っていた者も一緒に食べた。
女神の微笑みをおかずに、おいしい夕食。ワイトさんの感想が新鮮だ。考えてみれば、俺にとってこれが日常になってしまっているんだよな。とんでもない話だ。
「いつも弘一の世話をしていただきありがとうございます。ワイト様」
「とととととんでもない! ヨコダイ様、私ごときに敬称など不要です」
「それなら私にも不要です。呼び捨てで構いませんから」
さて、美由紀サンはワイトさんと雑談している。既に遅番は帰ったので、残っているのは三人だけ。三人? なぜ三人?
「今日は帰るんだよな?」
「朝までには帰るわ、と言えばいい?」
「良くないな」
文字通りの女神の笑顔で、俺を幻惑しようとする美由紀。これは全く帰る気がないぞ。ワイトさんがいる以上、要らない噂は立たないだろうが、毎度これでは困るじゃないか。
というか、そのワイトさんはさっきから、狭い詰所で体操を始めている。
こちらはこちらで、いくら何でも挙動不審過ぎるだろう。
「お疲れのようですね、ワイトさん」
「えっ、ま、まぁ、その………………」
ようやく椅子に腰かけたワイトさん。美由紀に話しかけられて、おかしな返事をしながら――――、居眠りを始めてしまう。
こ、これは…。
「美由紀、なんのつもりだ?」
「眠気を誘っただけ。心配しないで」
「心配とかそういう問題じゃ…」
声が大きくなるのを、美由紀は制止しながら立ち上がった。
そしてワイトさんの上着を直しながら口を開く。
「見張られてるわ」
「えっ?」
……………。
誰に、とはさすがに問わない。心当たりはあるわけで。
なるほど。帰らない理由は一応あったわけか。
「今すぐ貴方に危害は加えないと思うけど」
「たとえば俺の口を封じて、何か意味があるのか? 俺が捜査しているわけでもないのに」
「強いて言えば、事件を知っていて、言うことを聞かない可能性が高いって程度?」
「そんなどうでもいい理由で殺されたくはないな」
それは軽口で場を和らげるつもりだった。が。
「貴方に危害を加える者がいるなら、私も本気になるから覚悟してね」
「今のところ加えないだろう、お前がそう言ったよな? 大丈夫だろ? 念のためにここにいるんだろ?」
「………貴方はやさしい人」
「お前にそんな真似はしてほしくないだけだ。俺の知らない昔の俺も、そう言ってただろ!?」
泣きそうな…というより既に泣いている彼女は、俺の手を握って、それからふわっと女の匂いがして、少しだけ知っている温もりが伝わって、そして――――。
――――――。
――――――――。
すまん。
記憶が飛んだ。だいぶ飛んだ。
仕方ないだろう? 椅子に座っていた俺は、背後から彼女に抱きしめられた。そう、俺の頭は美由紀のアレに埋もれてしまった。しまった!
ワイトさんはまだ眠っている。こんな状況でよく…という感想はもたない。催眠状態なのだろう。まぁ、俺だって見られたくはないから、その件で美由紀を責める気にもなれず。
催眠状態でなければ、今の詰所で眠るのは不可能と言っていいぐらい、この数分間は大変だった。美由紀がそういう覚悟を口にした時、冗談抜きで、テーブルの上のお茶が凍った。それで思わず早口になってしまい、気を失う羽目になった。
美由紀は窓を開け放って空気を入れ換えると、それからゆっくりワイトさんの背中に触れた。ワイトさんは、何というか幸せそうな顔で目を覚ます。いやまぁ、居眠りの後ってこういうものだよな。
「んあ…。あ、あれ、俺は寝てた?」
「ほんの数分ですよ。お疲れですね、ワイトさん」
「あ、す、すみません。よし、よーし、今から頑張るぞ!」
「じゃあ棚の整理お願いします。…美由紀も、せっかくだから手伝ってくれ」
「はいはい」
気分を切り替えて、そこからはまだ残っていた書類を片づける。
ワイトさんは普段は手伝う機会もないので、備品棚の整理にまわった。まぁ美由紀だって初めて手伝うのだが、こちらは元が優秀だからな。
むしろ問題は、一応は衛兵の機密書類を、外部の者に見せていいのかという点だが、良くも悪くもここはいい加減だ。まぁ美由紀には肩書きがあるし、何となく許されている感じ。
それ以前に、書類の重要性を認識している者があまりいない。
正確に言えば、一部の貴族や商人は認識していて、そういう人たちの書類がここに集まっている。今回の騒動と、王都での体験から、今の自分の立ち位置の危うさを感じつつある。
「このチェックは?」
「生と照合した意味だ。隣の赤いのは通しが終わった印で」
「さすが貴方ね。昔から几帳面だったけど」
「ヨコダイ…さん」
思った通り、少し約束事項を伝えただけで、美由紀は戦力になった。というか、その気になれば俺の比ではないだろうが、これはあくまで衛兵の仕事だから、補助に徹してもらう。
そんな作業の中で、急にワイトさんが話しかけてくる。
「どうかしましたか? ワイトさん」
「いえ…。その、コーイチを昔からご存じなのですね」
「はい、もちろん」
気がつけば、自分の身体は硬直していた。
今の美由紀の発言は、間違いなく失言だ。彼女は、俺自身の知らない昔を語っていたのだから。
衛兵仲間は、俺に女性の影なんて何もなかったことを知っている。門番で見かけた俺に一目惚れと言われた方が、まだ信じられる程度に。
「昔からこんな感じです。頼りがいがありそうで、そうでもなかったり」
「ハハハ、確かにそうですな。コーイチは、こういう仕事では優秀ですが」
「奥手で、そして……、同じような趣味をもってますよねー、ワイトさんと」
「ハハハ、ハ…。す、すいません、つい」
しかし心配する必要はなかったようだ。さすがは口から生まれた女。性癖暴露で窮地に追い込まれたワイトさんが苦笑いで、その場を無事に切り抜けてしまう。
そして――――。
ほっとしている。
二人の関係の不自然さを、少しでも解消できた。あくまでもそれは、言いつくろいとデタラメを重ねていくだけの行為でしかないのだが。
結局、何事もなく迎えた朝。見張りがいつまでいたのか定かでないが、当直が終わる頃には姿を消していたようだ。まぁ、例によって俺自身はいたのかすら確認できなかったぞ。
「交渉に来たわ」
「また貴方ですか。いつも勝手に呼び出されて私も迷惑してい…」
「私がやるか、貴方がやるか。それを聞きに来たのよ」
「なぁ美由紀。せめて最後までしゃべってもらったらどうなんだ?」
「時間の無駄だもの」
そして、朝帰りの二人が向かったのは、またも中央広場の石像だった。
石像のあれは、心底うんざりした声。だんだん俺も同情的になっている。
美由紀が突っ慳貪な対応なのは、間違いなく俺のためなのだろうから、どうにも関わりづらいが。
「先に俺から話すぞ。いいだろ? 美由紀」
「……どうぞ」
とはいえ、冷静になってもらわなければ話が進まない。今回は自分も当事者の端くれだから、ギケイ叛乱問題についても、こちらから話してみる。当事者と言っても、イベント云々なんて分からないけどな。
問題点は、まずギケイの行動はゲームと関わるのか。そして、もしもそうなら、イベントが現実世界に影響を与えることをどう思うのか、阻止するために動くのか、という辺りか。
神は黙って、俺の話を聞いていた…と思う。何せ、面と向かう相手は石像だから、非常に話しにくい。石像以外の何かでお願いできないものか。
「……それは確かにイベントです。叛乱を企てる者を探し、それを阻止するものでしょう。誰も探してはいないでしょうが」
「管理者。アンタの力でどうにかしてほしい」
「私は干渉は…」
「していただろう? 指輪は誰に贈ったんだよ」
「…………なるほど。貴方たちはそこまで知っているのですか」
疲れる。
目の前のただの石像は、それでも―――、そう、美由紀のように強烈な気を放っている。俺を押し潰すような気に、どうにか耐えている。
この世界のために?
別に、そんなたいそうな理由じゃないな。
「弘一。大丈夫、あとは私の担当よ」
「そうか。それは助かる」
いつの間にかつないでいた手から、温もりとともに何かが入ってくる感覚。
呼吸が楽になる。
「ミユキ。できれば貴方に解決してもらいたい。いや…、お願いする」
「何の目的の低姿勢?」
「ゲームを破壊したのは貴方だ。しかし私にも、あれを放置して暴走させた責任はある。その上で、やはり私自身は世界に干渉したくはない。指輪は確かに私がかつて与えたものだが、それはそれだけ世界が危機的だったためで、本意ではなかったと知ってほしい」
「ふぅん」
「管理者。ゲームそのものに手出しは出来ないのか?」
「もはや私の手は離れている。そもそも、もう終わっている、はずなのだ」
美由紀が破壊したゲーム。もう終わっているゲーム。どうにも理解が難しい。
今まではともかく、もはやその点を整理しなければ話は進まないだろう。
「そもそも、なぜゲームはこの世界とつながっているんだ? 今後のためにも、ここで教えてほしい」
「……分かった」
「相変わらずお節介な人ね。弘一は」
「それはお前も一緒だろう」
そこで管理者が自供した内容を、簡単にまとめておく。
管理者は、地球というよく似た星に、よく似た人類がいることを知り、それを招くことを考えた。いや、この「招く」というのは、あくまでこいつの言い回しであって、要するに誘拐とか拉致でしかないが、ともかくそのための手段を講じた。
しかし、誰を連れて来ればいいのか分からない管理者は、一つの案を立てた。つまり、こちら側の世界を知ってもらった上で、より好意的な対応をした者を呼ぼうというものだ。
そのため管理者は、地球の人間にこちら側の世界を体験させる何かを求めた。地球で流行していたゲームというものは、その目的に合っていた…らしい。
「一応質問するが、その地球以外に候補はなかったのか? それに、地球は人が大勢いるんだろ? なぜ俺や美由紀や太郎兵衛さんのいる場所を選んだ?」
「運営の誰かがこんな風に言っていましたよ。いいですか、デンジ星の生き残りがなぜ日本にいたか知っていますか? 知らないでしょう? なぜならそれは、ただの偶然、あるいはテレビの都合でしかありません、と」
「ふざけてるのか?」
「彼の発言の意味は、私も多くは知りません。…この世界よりも技術的に進んでいると思われ、そして最近戦争をした痕跡のない国であれば良いと考え、貴方たちの住む国を選びました」
……………。その暗号文のような台詞を、ここで披露する意味はあったのか? 強いて言えば、隣の殺気が強まった程度だ。
じっとりと手汗に濡れた左手は、今もがっちり握られている。俺だって、離しはしない。
二人でつないでいれば、互いに暴走はしない。それも、気休め程度の確信だけど。
話を続けさせる。
管理者は、ちょうど準備中だったらしいゲーム運営を洗脳し、ゲーム内の世界としてこちら側の本物が見えるようにした。もちろん管理者には、どうやってゲームが動くのか理解できないので、そこで自らの一部を分離して、その超常の力で無理矢理実現させた。
同時にさまざまな条件を用意して、その条件をすべて満たした者をこちらへ転移させるようにした。ただし転移は自由にはできないため、転移可能な場所に来るように求めて、実際に来た者しかこちらに呼ぶことはできなかった。
「その条件は言えないのか?」
「ゲームの中身を知らない者には伝えきれない、ということです」
「それと、ずいぶん面倒な方法だな。アンタなら拉致なんてやりたい放題だろ?」
「………そんなことはありません」
管理者のもつ超常の力は、この星において完全に発揮される。地球という別の星では、全く無力ではないが、極めて弱いものになっていたようだ。
洗脳はすぐに解けてしまい、ゲームの運営側との対話は断たれた。
運営側が、ゲーム世界で動く人間を利用する――つまりこの世界の人間を操る――イベントを作ろうとしたことは、辛うじて管理者も知っていた。そこで管理者にできたのは、ゲームに組み込まれた自身の分体を使い、イベントがこちら側の世界に作用しないよう操作することだけ。
やがて、分体との接続も切れ、あとは条件を満たした者が機械的に送致されてくるのを受け取るしかなくなったらしい。
「分体をミユキは奪い、ゲームはその時点で破壊されたはずです」
「…そうよ。記憶をもったまま、管理者に従わずにいられるのは、管理者の力を取り込んだから」
「そういうこと…なのか」
分体が本体の制御を離れ、別人の制御下に入った。なぜそんなことができたのかはさておき、説明としては一応筋が通っているのだろう。全然理解できないけどな。
「コイツに取り返されることもありうるのか?」
「私には分からない。もちろん警戒はしているけど」
「急に不安になってきたぞ」
「…勝手に話を進めているようですが、分体を元に戻す方法はありません。いや、浮遊している状態なら可能だったかも知れませんが、今はミユキになっています。私にしてみれば、あれを取り込んで平然としている貴方が全く理解できません」
「…………平然としていたつもりはないわ」
今はこいつの言い分を信じるしかなさそうだ。
正直、本体と分体という根本が理解できていない。こいつはいったい何なのか? どうにか分かるのは、肉体をもっている者ではなさそう、というぐらいか。まさか、ゲームのために身体をちぎって置いて行ったわけじゃあるまいし。
「これ以上は、弘一の記憶が必要よ。この中でゲームを一番良く知っているのは弘一なのだから」
「ま、まさか」
「確かにそうでしょう」
ここまで聞かされて、何も思い出せない人間に何を言うのだ。それに、今の話で分かったのは、俺はここに飛ばされた有象無象の一でしかないということ。これ以上の深入りをさせるような真似はやめてほしい…が、それは口にできない。
美由紀の目的は、最初からこれだ。俺の記憶を取り戻すことだ。
そのための交渉に入ろうとする彼女の邪魔をすることはできない。
「ギケイの件は私がどうにかするわ。もちろん管理者、貴方は一切手出ししないで」
「約束しましょう。私は一切関わりません」
「そう…」
「それともう一つ。管理者に聞く」
「弘一?」
今はできることを、できる人がやる。
美由紀が動けば巻き込まれる、それは覚悟の上で。
「暴走していて原因が分からないなら、今後も起きる可能性はあるんだな?」
「…可能性はあるでしょう」
「なら今後は協力してくれ。暴走を止めるのはアンタの責任でもある」
「弘一、何を勝手に…」
「………いいでしょう」
美由紀と管理者は、そう簡単には和解できないだろう。さっきの話を聞いて確信した。
しかし、両者ともこの世界を壊したいわけではない。そして俺も同じ。管理者が、少しでも俺に対して後ろめたいものを感じているのなら、それを使わせてもらう。
そうして、長い接触が終わった。
すっかり日も高くなって、噴水広場には散歩の老人が行き交っている。
「悪い。勝手なことをした」
「……怒ってると思う?」
「さぁ」
徹夜明けにはあまりにきつい頭脳労働。
このままベンチで寝てしまいたいほどだ。
「これと思った時には、言うことを聞かないのは昔と一緒ね」
「難儀なヤツだったんだな」
「そうよ」
その瞬間、頬に何かが触れた。
……………え。
えええええええええ?
「今さら気絶するの?」
当たり前じゃないか…という声は、声にならなかったと、キノーワの吟遊詩人は後に歌…ってたまるか。
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主役二人も順調にラブラブということで、勢い余って18禁まで行かないよう頑張ります(そっちに行ってほしい人はいるのでしょうか?)。




