「悪者」の誕生 続き
Wordで執筆したものをコピペしているため、何かとここでも普通の書き方とは異なるかもしれません。
ご了承ください。
4
楽しかった。すごく楽しかった。
だからその日の帰りは寂しく感じる。仕方のないことだが。
まあいいさ。今日の夜は楽しみでもあったんだ。
今日の朝と昼は忙しかったため、なかなかこの能力を試す時間はなかったが、夜なら十分にある。
ちなみに今は帰宅中だが、宙に浮いてふわふわと帰っている。
「んー……いつもならこんくらいの時刻に愛理から連絡が来るんだけどな」
『今日は楽しかったねー!』『また行きたいねー!』『今度はどこ行くー?』
今日に限って俺から連絡するというのも変な話だ。いつも通り、普段通りの生活から距離を縮めていくことが重要だって、誰かが言ってたような……ああ楽だ。
そんなことを考えているうちに、家に着いた。玄関の前で能力をオフにした。今日の晩御飯のにおいが、ドア越しからでも漂ってくる。
「ただいまー」
ガチャッとドアを開けて言った。
……シーン。
あれ?聞こえなかったか?
「ただいまー」
「……あ、お帰りなさい」
やっと部屋の奥で親の声がした。
「あれ、聞こえなかった?」
「ごめんねー気が付かなかったわ」
「ああそっか。ちょっと遊んできた」
「そう、よかったわね。ごはんもうすぐできるから、先にシャワー浴びといてね」
「りょ」
夕飯を食べている最中、ふとテレビをつけるとこんなニュースがやっていた。
『超危険人物 現る』
どうやら大量殺人を行った後に逃走した男が、この街に現れたという情報がどこからか流れてきたらしい。
恐ろしいニュースだ。
「世の中も物騒になったなぁ」
まるで他人事のようにそう呟いて、俺は食事を続けた。
「……ふむ。どうしようか」
シャワーを浴びて晩御飯を食べた俺は、二階の自分の部屋で腕を組んでいた。ちなみに愛理から連絡が来たのは晩御飯を食べた後あたりだった。
『今日は楽しかったね!連絡するの遅くてごめんね~(>_<)!』
と来た。彼女曰く、少し頭から抜けていたらしい。
まあそれはいいとして、俺には今やらなければいけないことが二つある。それは、
「課題をやるべきか、能力を試すべきか……」
明日は国語の小テストがあるため、多少なりとも勉強はする必要がある。普段ならもちろんしっかりやるが、今日に限っては別だ。好奇心が上回る。
「まあ、今日ぐらいはいいだろう!さて、透明になりますか!」
脳内のスイッチをオンにする。フワッとした感覚が訪れた。
この感覚になれたもんだ。今日の朝は戸惑いっぱなしだったのに対し、今はもう冷静でいられる。
透明で、身体の感覚は浮遊感等以外にはない。痛みや苦しみ、快感など、五感で感じるものはすべて消えている。
「確か透明になった状態でも、なる前に何か持っていればそれも一緒に透明にできるんだよな」
一度能力をオフにして、身近にあったスマホを手に取ってもう一度オンにした。
すると、自分の身体と同じように透明度が増した。ホームボタンを押してみたが、何も反応はない。さすがにこの状態では機能しないようだ。
重力はどうなっているのか気になったので手を離すと、自分の足の位置と同じ場所まで落ちて止まった。
「なるほど、俺の立っている高さが地面になるのか」
どういう原理なのかはよくわからないが、解明しようとしても無駄だろうからやめておいた。
「……少し外を散歩しようかな」
壁をすり抜け、外に出る。二階から出たので地面が遠く、少し驚いてしまった。
こういうのは慣れるまで結構かかりそうだ。
商店街まで来た。
平日の昼よりも人は少ないが、明らかに危険そうな人たちがたくさんいた。
「うわぁお……アイツ絶対未成年なのにタバコ吸ってやがる……」
明らかにまだ中学生の少年が、不良たちと一緒にタバコを吸い雑談している。そしたら違うグループの不良たちが彼らに絡み、喧嘩になった。
殴って殴られての繰り返し。逃げようとしても背中を向ければ容赦なく蹴りが飛んできて、逃げようとするやつは倒される。中学生くらいの少年は相手にダメージを与えることもできずに一方的に殴られていた。
(助けたほうがいいか?)
だが、どうやって助ける。透明を解除すれば俺だって殴られてしまう。それに俺は喧嘩が苦手だ。
どうしようか迷っていた時、俺はありえないものを見た。
少年を殴っていた不良の一人が、誰にも殴られていないのにまるで殴られたかのように吹っ飛んだのだ。
その謎の現象に困惑していると、また一人、また一人と「少年」を殴っていた不良たちが殴られたように吹っ飛んでいく。
立ち上がったらまた吹っ飛んだ。
「な……なんだ!?」
気が付けば少年の周りのやつらはみんな倒れていた。だがほかの場所で喧嘩していた不良たちはいまだにそれが続いており、なぜか少年の周りのやつらだけが謎の現象に見舞われている。
「……もしかして」
そう。もしかすると、彼は能力者かもしれない。
不良たちを吹き飛ばした少年は、何も慌てることなく静かに立っている。どうやら彼は自分の能力のことについてはすでに把握済みのようだ。
その時、ほかの不良たちが少年が一人で立っていることに気が付き、殴りかかってきた。
俺はそいつらも吹っ飛ばすのかと思っていたが、なぜかその少年は彼らのパンチを直で、避けることなくくらった。
「!?」
彼らは無抵抗の少年に少し驚いたようだが、それでもお構いなしに殴るけるを続けている。
それから五秒後に、彼らは吹き飛ばされた。立ち上がっても吹き飛ばされた。最初に倒れたやつらが立ち上がって殴りかかってきたが、今度は殴られることなく彼らを吹き飛ばした。
……あの少年の能力について、なんとなくわかってきた気がする。
もしかしたら、彼は一度殴られたりなどしてダメージを与えられたら、反撃を繰り出せるという能力を持っているのかもしれない。
具体的なものは分からないが、こうしてみる限りそうとしか思えない。
俺はただ少年が殴られたら吹き飛ばすという光景を、茫然と見ていることしかできなかった。
俺以外にも能力を持つ人間がいたことにも驚いていたが、しかしそれはなんとなくわかっていたことだ。だからそこまで困惑はしていなかったが、こうして異常な光景を見ているとやはり驚いてしまう。
すべての不良が倒れ、少年が一人立ち尽くすまで、そう時間はかからなかった。
5
「……え~と、もしもしー」
俺は少しおびえた様子で少年に声をかけた。
すると少年は突然の呼びかけに驚いたようで、慌てて後ろを振り返った。
「わっ……な、なんですか……?」
一人立っている様子がとても勇ましかったので怖くて接しにくい人間かと思っていたため、少年のその反応は意外だった。
「君、もしかして何か能力でも持ってるの?」
そう聞くと少年は明らかに慌てた様子で、
「え、いや、能力って何ですか知らないですそんなの」
と言った。
「いや、実は俺も持っててさ。透明人間っていうの?それになれるんだよね」
「え……透明人間にですか?」
「そうそう。見てみたい?」
「は、はい……」
「おけ、じゃあよく見てて」
そう言うと俺はスイッチをオンにして透明になった。
「わっ消えた!?」
少年は本当に消えたことに相当驚いているようだ。
そこで俺はふと違和感を覚えた。
(あれ?そういや透明になっても誰も気づかないんじゃないっけ?……もしかして俺のことをしっかり認識していれば、消えたことに気づくのか?)
どういうことなのかよくわからないが、とりあえずその少年には俺が消えたことがわかるようだ。
俺はもういいかなと思い、スイッチをオフにする。
フッという音を立てて少年の目の前に現れた。
少年は目を丸くして驚いている。
「これで信じてくれたか?能力は違うが、お前もその異常な力を持ってるから、全体から見たら同じような状況だろ?」
少年はコクコクとうなずく。
「それで、聞きたいことがあるんだけどさ。お前のその能力ってどんなもんなの?」
そう聞くと、少年は自分の手を見つめてうなずいてから、説明を始めた。
「僕は、昨日までは普段通り生活していたんです。こんな不良たちとも絡むことなく、普通の中学生として。それで今日、いつも通り学校に向かっていたら不良たちとぶつかってしまって、殴られたんです。その時に僕の頭の中で感じたことのない感覚が流れてきて、まるでそれが本能のような感じがして……気が付いたら僕を殴っていた不良が僕を殴ったのと同じように吹っ飛んだんです。その時に僕はこの能力に気が付いて、なんだかとても強くなった気がして……今倒れているアイツらとつるんでいたんです」
「……なるほど。ということは、お前も能力に気が付いたのは今日なんだな?」
「はい……ということはあなたもそうなんですか?」
「拓でいいよ。……ああ、そうだ。朝気が付いたら透明になっていて、壁をすり抜けられた」
「そうなんですか……実は僕、もう一人もしかしたら能力を持っているかもしれない人を見かけまして……」
「それは本当か!?」
「はい、僕は今日の昼頃からこの商店街を不良と回っていたんですが、その時急に僕に話しかけてくる男の人がいたんです。なんて言ったのかはよく聞こえなかったけど、そのあと突然消えたのであたりを見回してみたら……」
空上の雲の真ん中が、まるで何かが突き抜けたかのように穴ができていたらしい。
もしかしたら、俺が今日商店街で見た謎の青年と同じ人物かもしれない……と俺は思った。
「そんなことができるのは能力を持つ人間くらいだからな……そいつが能力者である確率が高いってことか。どういう感じだった?」
そう聞くと少年は困ったように腕を組み、う~ん、と唸った。
「背がすごく高くって……たしか……あ~でも、前髪が長くて目が見えなかったです。とても暗いような、そんなイメージでした」
「……そうか、ありがとう。俺も見た気がするなそいつを」
「本当ですか?今度会ったら話しかけてみたらどうです?」
「そうだな、そうするよ」
「それじゃあ僕はここらへんで失礼します。そろそろ家に帰らないといけないので」
「ああ、ありがとう」
そう言って少年は影の中に消えていった。
俺はなんだかとても疲れた感じがしたので、自分の部屋に戻ることにした。
6
浮遊感、そして自分の存在が薄れていくような感じ……この二つを踏まえて、俺はまだ夢の中にいるんだなと思った。
……。いや違うな。どう見てもここは俺の部屋だ。この質素な感じ、そして友達と撮った写真がいくつか机の上に無造作に置いてある。
やはり現実か?だとしたらこの浮遊感は何だ?
そしてふと気になって、俺は時間を確認した。
って、もう十時じゃないか!なんでこんな時間になるまで寝てたんだ俺は!?というか、こんなに寝ていたらさすがに親が起こしてくるんじゃないか?
俺は慌ててベッドから起き上がった。
フワッ。
軽かった。身体が異常なほどに軽かった。まずベッドに横になってすらいなかった。浮いていた。そして、今更自分の手が薄れているのに気が付いた。
「……しまった!」
昨夜、疲れていたので部屋に戻るなり透明状態を戻すことなく寝てしまったのだ。
急いでスイッチをオフにしようとしたが、ふと昨日のことを思い出し、やめる。
「このままだと普通に遅刻だ……ならいっそのことこの状態のままのほうがいいか?」
だが学校に行かないのもまずい。小中学校ならともかく、高校は一日でも休めば単位が足りなくなるかもしれない。
俺は少しだけ透明から戻り支度をして、また透明になり家を出た。
親は俺に全く気付いていなかった。
「やばいやばい……くそ、もう少しスピードは出せないのか?」
透明になっていると浮いた状態で移動ができるのだが、早く移動しようとしてもなぜかそこまで加速しない。自転車で少し速く走ったくらいのスピードしか出ない。疲労はないのでもっと早く走りたいのだが、どうもうまくいかない。
学校に着いたのは十時半。昨日と同じように自分の席に着いてから能力を切り、まるで最初からそこにいたかのようにしていた。
「……あれ?」
みんな少しずつ俺がいることに気が付くと思っていたのだが、しかし一向に気づく気配はない。
(おかしいな……そろそろ気づいてもいいと思うんだが)
そして誰も俺に気が付かないまま、授業は終わってしまった。
(なんだ?何かがおかしいぞ?)
意図的に全員からシカトされているとかそういうのではなく、誰も俺の存在に気が付いていないかのように感じる。
とりあえず、楽に話しかけてみた。
窓付近で玲と二人で話している。
「おーい楽ー」
……反応はない。ずっと玲と話している。
「楽?なんでシカトするんだよ」
そう言いながら近づいてみたが、それでもまだ俺に気が付く様子はない。
(おかしいな……なんで誰も俺に気が付かないんだ?……そうだ、愛理なら!)
ちょうどその時、愛理が廊下から教室に戻ってきた。
俺はできるだけさりげなく、片手をあげながら愛理に近づいた。
「よお、愛理」
「……」
スッ……と、俺が近づいてきたことにも話しかけられたことにも反応を示さず、表情一つ変えずに通って行った。
「なっ!?」
俺は驚いて後ろを振り返ったが、愛理は何もなかったかのように楽と玲のほうへと向かっていく。
「おい愛理!待てって!」
急いで肩をつかんだ。すると愛理は、
「うわっ!」
と叫び、まるで心霊現象にでもあったかのように困惑していた。
本当に俺に気が付いていないらしい。
「何なんだ……これは」
何か原因があるとすれば……この能力しかない。
何もしていないのに突然無視されることなんてないし、もしそうだとしてもあそこまで無反応になることなんてない。
この異常な現象は能力以外には考えられない。だが、いったい何が原因でこんなことが起きているのだろうか。
(そういえば、俺が透明になったり戻ったりした直後は、なんだか周りの人間の反応や態度がおかしかったな……)
昨日の朝、俺が無意識のうちに透明になっていた時親は俺に気づかず、学校で突然現れた時もみんなが気づくまでにズレが生じていた。
さらに玲が「存在薄いっていうか、無だったよ」と言っていたことからも、俺が透明になっている間またその後のしばらくの間は、俺の存在は薄くなっているらしい。
しかし昨日は誰もがすぐに気が付いていて、今日みたいに今になっても気が付かないことなんてなかった。……とすると、もしかしたら透明でいる時間が長ければ長いほどに、自分の存在はどんどん薄まっていくということか!?
だとしたら、今日みんなが俺に気が付かないのにも説明が付く。俺は昨日の夜、透明になったまま寝てしまったのだ。何時間も透明でいたのだから、相当存在が薄まってしまったのだろう。
昨日の朝も起きたら透明になっていたが、それでも俺が能力を切ったら親がすぐに俺に気が付いたということは、おそらくそこまで長い間能力は使っていなかったのだろう。
「……このまま能力を使っていたら、俺の存在が完全に消えるかもしれないってことか……?」
恐ろしい。自分はここにいるのに、誰にも観測されないほど恐ろしいことはない。
俺は今後この能力は使わないようにしようと思った。
次回は一章の7から。