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短編集

俺たちに明日はない~そりゃそうだ、だって俺たち××だもの!~

作者: たま

うん、楽しく書けました(笑)

遥彼方様の企画に出す予定でしたが別の作品を書いてて間に合わず(;^ω^)

せっかくなので投稿してみました。


 田舎の夏祭りと言えば?そう、盆踊り。

 お盆に帰ってくる先祖を迎え喜んでもらうお祭り。


 俺も久々に実家に帰省して子供の頃に参加していた盆踊りを懐かしもうと来てみたのだけれど。


 おかしくね?っておかしいよね?


 目の前の光景に思わず叫んでしまう。


 「なんじゃこれぇーーー!?」


 今、目の前では阿鼻叫喚が押し寄せてきている。

 まぁ、俺が一人で阿鼻叫喚してるだけなんだけど。


 なんで俺が絶叫してるかって?

 それはね、目の前で楽しげに踊っている人達の中に明らかに透けている人がいるからなのさ。


 しかも、全員が見覚えのあるご近所さん。


 田辺のじいさんってば去年、98才で大往生したのに浴衣姿のJkをやらしい目で追いかけてるし、10年前に亡くなった佐々木のおばちゃんなんてご近所の人と井戸端会議を始めましたよ?


 普通に会話するご近所さんの姿に呆然とする。


 えっ、なに?これが普通なの?


「さて、今年も盛り上がってきました!超絶過疎化のこの村が何時も以上の賑わいに運営スタッフも大変、喜んでおります!」


 いやいや、おかしいだろ運営スタッフ?

 明らかに人成らざる者が混ざってますが?

 いいのか?本当にいいのか?


 俺は戸惑った視線を楽しげにマイクパフォーマンスをする運営スタッフに向けるとなんとも爽やかな笑顔でサムズアップしやがった!!


 おぉ…良いんだ。


 あれだね。

 どんなに意味不明なことでも多数の人が良しとすればそれが正解になるっていう日本人特有の和の心。


 楽しんだもの勝ちってやつだ。


「あっ、隼人も来てたんだぁ~」


 遠くから俺を呼ぶ聞きなれた声に振り替えると浴衣姿にお団子頭をした幼馴染みの楓が笑顔で手を降りながら俺の元へと近づいてくる。


「おぉ、久しぶりだな」


 田舎を出てから久しぶりに会う幼馴染みは記憶の姿よりも大人びていてちょっとドギマギしちまう。


「ほんと久しぶりよねぇ元気してた?っていうのも変かな。まぁ、久しぶりなのは事実だからまっいっか。あはははっ」


 何を言っているのか意味不明な言葉もあるけど笑うとやっぱり昔ながらの楓でなんだかホッとするな。


「おぉ、それよりさぁ。一つ聞きたいんだが…」

「う~ん?どうしたのぉ?」


 コテンっと首をかしげる楓に…ってか、その仕草ってば可愛いな。はっ!違う違う!デレッとしてる場合じゃない。聞きたいことがあるんだった。そう、主にこの祭りの惨状を。


「なぁ、このお祭りおかしくねぇか?」

「何が?いつもと同じだけど?」


 楓は周囲を見渡して不思議そうにしている。


「ま、まじか…いつもと同じなのか」


 俺は改めて周囲を見渡して深いため息をつく。いつから俺の田舎は人外魔境になったんだ。


「あっ、そうだ。隼人にこれあげる」


 何かを思い出したかのように巾着袋をごそごそと漁り妙な物を俺の目の前に差し出してくる。


「なにこれ?」


 目の前にあるのは大きな茄子に足に見立てた割り箸が刺さったお盆の時期に良く見かけるアレ。


 えっと名前なんだったかな。確か胡瓜とワンセットで馬と牛を表していたんだっけかな?


「まぁ、ゆっくりして逝きなって意味?」


 字面がおかしくねぇか?

 逝きなって、まるで俺が死んでるみたいじゃないか…えっ、まさか、そんな、ねぇ~、あはははっ。


 乾いた笑いで頭を掻きながらも嫌な予感を覚えた俺は恐る恐る自分の足元見つめる。


 うん、バッチリと透けてるね…。


「えっ、まさか俺ってば…死んでる?」


 驚く俺の姿に「はぁ…また?」みたいな顔でため息をつく楓。えっ、なんの?俺ってば今ものすごくショックを受けてるんですけど?


「何を今さらショックを受けてるのよ?隼人ってば毎年、おんなじ台詞だと芸がないよ?たまには、そうだなぁ…ほら、例えば田辺のエロ爺みたいにさぁ」


 可笑しげに楓が指差す方向を見てみると…おぃ、田辺のじいさん何やってんだよ?


 会場を全力で逃げるJKを両手をわしゃわしゃしながら変態じいさんが追いかけている姿。


「そこのお嬢さぁ~ん、ワシと一夜のアバンチュールをせんかぁ?大丈夫じゃ!ワシはこう見えて絶倫じゃあ。なにせ死んどるからなぁ。ひゃっははは」


 じいさんの言葉に睨み付けるJKが罵声を浴びせる。


「毎年、毎年、いい加減にしろ!エロ爺ぃ~!」


 逃げ戸惑うJKを追い回す98才のじいさん…はっちゃけ過ぎだろ?まぁ、幽霊だから触られる事もないし…あっ、JKが巾着袋から粗塩取り出してじいさんにぶっかけてる。


「ぎゃあ~!?や、やめて!塩対応はやめて~♪」


 上手ぇな、その切り返し…やるな、じいさん。


「なにそれぇ~!?ウケるぅ~♪♪」


 じいさんの反応に腹を抱えて笑うJK。


「じゃあ、ワシと一夜を「それはやだ!」しょぼぼ~ん、年寄りは労るもんじゃぞ?」


 どんよりと落ち込むじいさんの姿はまさに幽霊。

 その姿に焦ったJKが近寄って行く。


「いやいや、孫だから!私は孫だからね?」


 へっ、孫?田辺のじいさん、それは不味いだろ?


「じゃ、禁断の…やめて粗塩はやめてぇ~」


 プルプルと震える手で粗塩を掴む孫娘…ってか、何だかんだでじいさん結構、余裕あるし孫娘のJKもケラケラ笑ってるし楽しそうだな。


 なんだか、ほのぼするなぁ。


 うん?なんか大事なこと忘れてるような…。

 まっ、いっか…じゃあ、ねぇわぁ~!?


「えっ、マジで死んでるの?俺ってばいつから?」


 テンパる俺にめんどくさそうに冷たいジト目を向けてくる楓。えっ、なにそれ?その視線ドキドキするんだけど?


「ったく…毎年、毎年、飽きもせずいちいち私に説明させるなんてあんたはどんだけドSなのよ?いい?あんたはね五年前に私に刺されて死んだのよ」


 はっ?今なんと?


「えっと、俺の聞き違いか?お前に刺されたって?」

「だって浮気したじゃない?」

「はいっ?誰が?」

「あなたが」

「だれと?」

「私以外の誰かの女と」

 いや、意味が分からない。えっと、あれか。見ず知らずの女の人と浮気をしたと思い込んだ楓が俺を刺し殺したと…理不尽じゃねぇ?


 ってかさぁ…。


「じゃあ、何で楓はここにいるのよ?」


 俺を刺したなら犯罪者、つまりはお外に居るわけがないのだから。つまりは、えっと、逃亡中?


 よし、通報しよう!ってか俺は死んでるから電話を使えない。なら、叫ぶまでだ!


「みなさぁーん!ここに犯罪者がいますよぉー!!早く誰か警察を呼んでくださいーー!」


 俺の叫び声に井戸端会議をしていた皆さんがちらりとこっちを見て微笑ましい物でも見るかのように瞳を細めて手を振っている。


 おい、通報しろよ?


 なんで「あぁ毎年、恒例ねぇ~」なんて笑ってるですかね?ちょっとおかしくないですか、皆さん?


 俺の戸惑いに楓は口角を最大限にまであげて不気味な笑みでじわじわと近づいてくる。


 後ずさりする俺に楓はおもむろに立ち止まると勢い良く浴衣の裾を持ち上げた。


「おっ!?」


 皆さん、男とは悲しい生き物ですね。

 恐怖より好奇心(エロ)が勝りました。

 うん、ごめんね田辺のじいさん。

 俺、あんたの事バカにできないわ…。


 楓自身の手によって持ち上げられた浴衣を脳内に焼き付けようと血走った瞳で見つめる俺はその瞳に映る光景に何度も瞬きを繰り返し呆然とする。


「大丈夫、私も死んでるから♪♪」


 屈託ない笑顔を見せる楓の姿に俺の記憶が見事にフラッシュバック…あぁ、そうだった。


 甦る記憶に頭を抱え座り込む。

 そう、俺たちは付き合っていた。

 そして俺は浮気を疑われ刺された。


 しかも、浮気ってのはテレビに写ったアイドルが可愛くて思わず「可愛いな」と呟いただけなのに、たまたま料理をしていた彼女が包丁を持ち出して。


「浮気者…」


 サクッと胸元を一撃で刺してきたんだった。

 うん、アレは見事でしたよ?気配を完全に絶って寸分違わずサクッでしたからねぇ。

 どこの暗殺者(アサシン)ですか?ってぐらいね。


 ただね…俺が倒れた拍子に君は豆腐の角で頭をぶつけて死んだんだよね。うん、そんな死に方は初めて見たよ…凍った島豆腐は凶器になるんだね。


「そっか、俺たちは死んでるんだな」

「だから、何も考えずにこのお祭りを楽しみましょ」


 すっと俺の傍に寄ってきて腕に抱きついてくる。どうやら、幽霊同士なら触れ合うことが出来るらしい。


 まぁ、死んじまってるなら仕方ない。

 明日でお盆も終わり。

 俺たちに明日はない。

 そりゃそうだ、だって俺たち幽霊なんだから。


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