雑用1日目
食後、身支度をして、馬車に乗って港に向かった。
馬車のなかで昨日律が言っていた単語帳が配られて今日の流れを説明されたが、それを適当に聞きながら、
馬車!まさに異世界って感じ!街並みも中世みたいでーー
とか思ってワクワクしながら外を見ていたら案の定酔った。まあ単語帳見てたらもっと酔っただろうけど。
ちなみにこの馬車はあまり揺れないようになっているかなり質のいい馬車らしい。
けれど、他のみんなーー築島さん以外ーーも酔ってた。
彼女は乗馬の経験でもあるのだろうか。
そして、煉さんと共に歩いて入国審査所へ向かった。
2人になってなんとなく気まずいので話しかけてみる。
「マスクつけてますけど、風邪かなんかですか?」
「...いや、いつもつけてる....」
声ちっさ!まあこの距離なら問題なく聞こえるけども。
「...マスクなくなったらどうするんですか?」
「....うーん...箱で持ち歩いてたからとりあえず大丈夫....いざとなればベール...。」
「ベールって。そんな顔見せるの嫌なんですか?」
「...弟と全く同じだから嫌なんだ...誰も見分けてくれないし少しコンプレックス...むしろ弟は普通にさらけ出しててすごい.....
俺は少なくとも弟がいるところでマスク外したくはない....」
「弟さん?じゃあここなら大丈夫じゃないですか?」
「....なんで?」
「弟さんこの世界にはいないじゃないですか。」
「....一緒に召喚された....自己紹介の時に気づかなかった?...律は双子の弟...」
「えっ...」
どうしよう、声小さすぎて名字聞き取れなかったけどめんどかったからほっときましたなんて言えない。名字大切だな。
「...顔見せてもらっていいですか...?」
「.........」
無言でマスクを外して前髪を横に寄せてくれた。
瓜二つだった。
そうこうしているうちに入国審査所についた。
さっき律に見せろと言われた手紙を兵士っぽい人に見せると、上司っぽい人のところへ連れて行ってくれた。上司はおっさんだった。ちょっと期待してたのに。
とりあえず配られた単語帳、文法まとめを読めって感じのジェスチャーをされたので読んでみた。
本当に中学英語レベルでめちゃ簡単だった。単語は少し時間がかかるだろうけど。とりあえず。ありがとうございますとか、入国の目的はなんですかとかここでの必須10文は覚えたぞ。
雑用ってなんだろうと思ってたけど、列の整理とか、最後尾で看板持って立って、ここが最後尾でーす、とか言ったりとか(口に馴染むほど言ったので完璧に覚えた。)本当に雑用だった。これ勇者の仕事ではないだろう...と思った。
列の整備に奔走してほんとに疲れた。
ちなみに煉さんも同じことをしていた。列は1列じゃないからね。
ほんと俺含めてみんな文句言わずによくこんなことできるよね。いや、まあ喋れないからとりあえず喋れるようにっていうのはよく分かるんだけれどもね。
1日目はとりあえずそんなこんなで夕方までここが最後尾でーすを繰り返したりして終わった。ただなんかちょっと喋れるようになってるあたりくやしい。
晩御飯は7人で食卓を囲った。なんとなく同じ席にみんな座り、位置的に楓さんが向かいなので、また楓さんと喋った。
「今日どうでしたー?」
「俺は、”ここが最後尾でーす(共通言語で)“しか言ってないよ。あと列整備かな。でもめちゃくちゃ疲れた。」
「それどういう意味?」
「ここが最後尾でーす」
「へえ...すごいね...私は列待ちの人に飲み物食べ物を売って回ったよ。」
「そういえばそんなことしてたな。俺はその人たちにただで飲み物もらったが。」
雑用係とはいえ職員にはただでくれるらしい。寒くて特に飲もうと思わなかったが。
どうせならあったかーいほうを渡して欲しかった。
「あったかい飲み物がかなり売れたー。
そうそう、上司の女の人から聞いたけど、これでももう冬に入って着てるから少ない方なんだってー。2週間前までは大盛況だったらしいよー。」
上司女性!?チェンジを要求する!
とかそんなことはおくびにも出さず、
「へえ、そうなんだ。あれで少ない方なんだ。」
「びっくりだよね。」
「うん、あれ以上いたら1日じゃじゃ入りきらないんじゃないか?」
「その時期にはさらにいくつかカウンターを設けるんだってー。あと、海からよりも陸から街に入ろうとする審査所もすごいらしいよ。」
「やっぱ陸路もあるんだね。それだけの情報をどうやって手に入れたの?すごく喋れるようになったんだね。」
「ううんー、これ全部ジェスチャー!」
まじか。
そうこうしているうちに食べ終わった。
今日はもう終わりなのか?
まじで今日ほとんど何もしてないぞ...無駄に疲れたけど。
剣とか振らなくていいのか...?