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九十九

 ガタゴト。と進む馬車を、通りを歩く人々は足を止めてまで見つめていた。テーマパークのパレードで、お姫様が乗っている馬車の様に、王冠型の本体に大きな車輪が付いているのだから目立つ事この上ない。


 しかし、民衆が見ているのはそんな馬車では無く(まあ、馬車が珍しくて見ている人も居るだろうけど)、それに乗っている美男と美女だろう。その美男美女とは勿論私とリリーカさんである。


「うう……胃が痛い」


 一体何を言われるんだろう? そう思うだけで胃がキュウッと収縮する。隣に座るリリーカさんは、何も言わずに真っ直ぐ前を見つめている。こんな事は慣れっこなんだろうな。ドッシリと腰を据えて落ち着いている。


「おねえひゃま。わひゃくひ(私が)おひぇひゃま(お姉様を)おひゃもり(お守り)いひゃひまひゅわ(致しますわ)


 前言撤回。リリーカさんも相当テンパっている様子だ。




 胃の痛みが更に強まった。眼前には、紅色に染まる布に金の刺繍が施された、豪華そうな絨毯が敷かれている。そして、リリーカさんと共に垂れる頭の向こう側には、匠な意匠が施された椅子に座って無言の圧力を掛けている人物が居た。


「リリーカ=リブラ=ユーリウス」

「はい。陛下」


 低い美声に応えてリリーカさんは下げていた頭を上げる。だからといって私まで頭を上げる訳にはいかない。晩餐会などある程度は無礼講の場ならいざ知らず、この様な場では名を呼ばれるまでは王族を直視してはいけないのだという。


「そなたは出会った少女が王女であると知っていた筈であろう? 何故(なにゆえ)祭りで混乱をきたす下層へと連れ出したのだ?」

「それは、マリエッタ様がそう望まれたからで御座います」


 リリーカさんは正直に答えた。王族の前で虚偽の発言をすれば、良くて投獄。悪ければ処刑が待っている……そうだ。


「ふむ……。例え姫がそう言ったとしても、即座に連絡をするのが筋であろう? それに、あれには護衛が付いていた筈、ウォルハイマーに話を通しておくべきではなかったかな?」

「それは、その…………。仰せの通りで御座います」


 リリーカさんの視線がゆっくりと絨毯に向けられる。その顔は強張り青ざめていた。何で……? どうしてリリーカさんばかりが責められているの?


「そうであろう? そなたは報告を怠り、王女を危険極まりない場所へと連れ出したのだ」


 違う。マリーちゃんを連れ出したのは私。悪いのは全部私だ。助けたい。リリーカさんを……。だけど、どうしたらいい? どうすれば許して貰える?


(かん)を戴く者のする事とは思えんな……」


 王様が言葉を止めた直後、壁際に控えていた文官達のざわめきが響いた――

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