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九十八

「あの時って、食後のデザートを食べていた時?!」

「……はい。お伝えすれば、お姉様の言動は確実に変わりますので、(わたくし)が話をしたとバレてしまいます」


 道理であの後から様子がおかしくなった筈だ。あの一瞬、マリーちゃんの動きが止まったのは気の所為じゃなかった。恐らく口止めする様なジェスチャーをしたのだろう。


「でも、六歳児なら分からないんじゃあ……?」

「いえ、実際には十一歳になります」


 じゅういっさい?! いくらなんでもサバ読み過ぎだろう! 違和感無かったけど……


「見た目が幼い方ですから、ウォルハイマー様も混乱を避ける為に、六歳くらい。と仰っていた様です」


 じゃあ、ウォルハイマーさんが言っていた、とある方。というのは王様って事か。王女が行方不明になったと知れたら、大変な事になるもんな。だとしたら、ヤバくね?


「だだだ、大丈夫かな……? 王女様を美幼女扱いして街中を連れて歩いて……。コレってある意味誘拐と変わらないんじゃあ……」

「まあ、マリエッタ様も喜んでおられた様ですし、問題無いと思いますよ」


 思いますよって……


「王女様は良くても王様はどうなのよ」

「陛下は公明正大な御方だ。だが、愛娘が絡むとどうなるかは分からん」


 コトリ。と、淹れたてのコーヒーを置く。オジサマ、それフォローになってないっ!


「……どうやら、いらした様ですわね」

「へ……? きき来たって、ななな何が?!」


 お祭りの喧騒を掻き分けて、ガタゴト。と何かが近付く音がする。その音は、オジサマのお店の前でピタリ。と止まると、ヒヒヒン。と引き手であろう鳴き声が聞こえた。皆の意識が表へと向いている最中、私はソッと席を立ってゆっくりとだが確実に裏口に向かって進む。


「お姉様、どちらに行かれるのですかっ?!」

「私、今から自分探しの旅に出るからっ!」

「何お一人で逃げようとしているのですかっ?! 行くなら(わたくし)も一緒に――」

「ダメよ、リリー。そんな事をしちゃ。あの御方なら大丈夫だから」


 おばさまはそう言うけれど、不安が拭えない。




 ガラランッ。ドアに取り付けられた来客を知らせる鐘が鳴る。姿を見せたのは、燕尾服を身に纏い、白髪を短く揃えた初老の男の人。


「我が主人(あるじ)、オドリック=アリエス=ティアリム陛下の命により、リリーカ=リブラ=ユーリウス様。そして、カーン=アシュフォード様を御迎えに参りました。御支度をお願い致します」


 嵌めた手袋が白い軌跡を生み、初老の男性のお辞儀と共にお腹の部分に当てられる。


「ホラ。陛下からの召喚よ。行ってらっしゃい」


 逝ってらっしゃいの間違いじゃあ……。ギョグッ。と唾を飲み込んで、私はリリーカさんと共に、馬車に乗り込んだ――

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