九十三
ボフン。と音を立て、広場にモウモウと煙が立ち込める。テントへと続くお客さん達のどよめきの中、姿を見せたのはシルクハットを被って燕尾服を着込んだ女マジシャン。
シルクハットを華麗に脱ぎ捨てると、レオタードとなんら変わらぬコスチュームからこぼれ落ちそうな胸がブルルンッと震え、男性客がそれに釘付けになる。ちなみにお子様は飛んで行った帽子の方を見ていて、同行している女性陣は鼻の下を伸ばした彼を見つめている。
手を股経由でお尻へと伸ばすと、強調された谷間に男性陣の鼻の下も益々伸び、女性陣の手が相手の頬へと伸びてゆく。姿勢が元に戻ると女マジシャンの手にはラッパの様な形状の銃が握られていた。パフォーマンスにしても何処から取り出してんのよ……
頬肉をガッツリと掴まれて、『いててて』と揃った声がする最中、女マジシャンはお構い無しに宙に漂う帽子に狙いを定めて引き金を引く。
ポンッ。とした、ワインの栓を抜いた様な音の直後にボンッと帽子が爆発して、爆煙の中からハトの様な鳥が飛び出して紙吹雪が舞う。それを観た観客達はマジシャンに拍手喝采を贈っていた。一部の人は頬を抑えながら……
「すごぉーい! マリー感激ぃ!」
小さな掌を一生懸命叩いてる姿がまた可愛い。
「それにしても凄い混み様だね」
「一番人気の出し物ですから」
「この分だと観れるの夕方になりそうだけど……」
一回でどれだけの観客が入れるのかは分からないが、普通に考えて今回の公演には確実に入れない。そう思える程の混雑だ。
「いえ、テント内は拡張の魔術が施されているので、十分に今回の公演には入れます。だけどそうですね……」
リリーカさんはチラリ。とマリーちゃんに視線を移す。
「カーン様。少しここでお待ち下さいませ。話を付けて参りますわ」
「へ……?」
リリーカさんは列を離れ、真っ直ぐにチケット売り場へと向かう。売り子の人と何やら言葉を交わし、その一人に案内されて裏手へと消えて行った。
「お姉ちゃん何処行ったの?」
「さあ……?」
程なくして姿を見せたリリーカさんは、チケット売り場の前でしきりに手招きをしていた。
「どうかしたの?」
「話を通しておきましたわ。私達は裏口から入ります」
それってつまり……
「リリーカ。力を使ったね?」
いざという時に使うもんじゃ無かったのか?
「いいえ、違いますわカーン様。私はただ、『お願い』をしただけですわ」
それを使ったと言うんですよリリーカさん。はぁ……言っちゃったモンは仕方が無い。今回は甘えるとしよう。
係員に案内され、裏口からサーカス一座のテント内に踏み入れた。




