八十八
「お姉様。今日は上層に近い方を散策致しませんか?」
「上層……? でもそれじゃ、あのフォワール卿に会うんじゃ……?」
あのオッサンが立ち去った後も、暫くの間は公園で雑談をしていた。時間を置いたのは、タケノコの様にでっぷりしたオッサンと、キノコの様なヘアスタイルの息子に出会さない様にする為だ。
「それは心配要らないと思いますわ。アレの屋敷は中層の北東側。私達が向かおうとしているのはその反対側ですわ」
「成る程。それならばったりと会う可能性も低いね」
どうせ後を付けられているのだろうから居場所はバレバレだろうけど。
「で、ソコには何があるの?」
「それは――」
私の腕をガッチリとホールドしていた手を離し、リリーカさんは小走りで先へ進んで振り返る。
「行ってからのお楽しみですわ」
その向日葵の様な笑顔に、胸がキュン。と締め付けられた。
キュアノス上層にほど近いお店では、下層ではお目に掛かる事の無い品々が並んでいる。例えば、趣味悪っ。と思える、黄金色に輝きを放った鎧一式や、細部までこだわって彫り抜いたアンティーク調の家具。大粒の宝石が並ぶアクセサリー店や、シルクよりも着心地の良い服が並ぶブティックなどなど。
金の鎧以外は、目を輝かせて物色する様なお店ばかりで、その輝かせた目が飛び出る様なお店ばかりだ。お昼に立ち寄った今居るお店も、一般市民にとっては月々の生活に大打撃を与える程。だけど……止まらないのぉ。勝手に動いちゃうのよぉ、ナイフとフォークが……
「幸せそうな御顔をしてますわ。カーン様」
「へ? ほ、ほう?」
「はい。そんなに幸せ一杯な御顔をされて、私も嬉しいですわ。でも、その御顔を見られるのもあと僅かですわね……」
テラスにサァッと涼やかな風が吹き抜ける。シルクの様な光沢をした髪を整えるリリーカさんは、何処か寂しそうに見えた。
「そっか。お祭りが終わったらリリーカさんは学校に戻るんだね」
「はい。でもその前にお姉様と――」
「これはこれは、リリーカ=リブラ=ユーリウス様では御座いませんか?」
リリーカさんの言葉を遮り、発せられた言葉は幾度となく聞いたモノ。しかし、発した声は例のオッサンとは違って、若々しい声だった。振り返ればそこには、韓流ドラマの甲冑の様な細やかな細工を施された鎧を身に纏い、これまた韓流俳優の様な顔立ちの若い男の人が立っていた――




