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八十七

 フォワール卿の背後でゆらゆら。と揺れていたキノコが飛び出してビシッと私に指を差す。


「んこっ、こここんの無礼者がっ! ぼぼボクはフォワール家の次期当主になるんだっ。おまっ、貴様如き爵位も持たぬ名ばかりの貴族に、キノコ呼ばわりされる謂われは無いぞっ!」


 出て来て息巻くのは、『キノコ』と『もやし』の混合物だった。身体はガリガリに痩せ、肌は陶器の様に白い。背丈は私とあまり変わらず、百六十って所だろう。そして頭には黒々とした『キノコの傘』が乗っていた。なんつーヘアスタイルなんだ。


「カーン様。あの『キノコ』は、ヨルヴ=サヒタリオ=フォワールといいまして、フォワール家の嫡男ですわ」

「クッ!」


 つい口が滑った『キノコ』発言にどうしたものかと思っていたが、リリーカさんからの援護射撃が地味に有り難い。


「これは大変失礼を致しましたヨルヴ様。(わたくし)、リリーカの『婚約者(フィアンセ)』のカーン=アシュフォードと申す者。どうぞお見知りおきを」


 肩に手を添えて深々とお辞儀をする。顔を上げると、『キノコ』は顔を赤くしながらプルプル。と震えていた。


「いけませんなぁ、カーン殿。ただ『約束』した『だけ』の無冠のお人が、(かん)七位の御方を呼び捨てなさるとは……」


 呆れ顔でやれやれ。と首を振る。


「いいえ、構いませんわ。(わたくし)がそう呼んで下さる様にお願いしたのです。それよりも貴方の『口約束』発言は、夫となるカーン様のみに留まらず、冠七位『リブラ』に対してへの侮辱と捉えさせて頂きますわ」

「う……い、いえ。決してそんな事は――」

「お黙りなさい」


 狼狽えるフォワール卿。私も顔が引き攣っていた。何しろ、若干十六歳の女の子が放つ事など出来ない様な威圧感を、ガッチリとホールドしている私の左腕からひしひしと感じていたからだ。


「く……」

「ぱぱ?!」


 フォワール卿は片膝を付いてリリーカさんに頭を垂れ、その姿に驚く『キノコ』。ってか、今ぱぱって言った?!


「此度の発言、私の不徳の致すところ。どうか平にご容赦下さいませ」

「まあ良いでしょう。此度の件、不問に付すと致しますわ」

「有難き幸せ。では、(わたくし)達はこれで失礼させて頂きます。行くぞ、ヨルヴ」


 立ち上がったフォワール卿はリリーカさんに軽いお辞儀をしてから元来た道を引き返す。


「待ってよ、ぱぱっ」


 その卿の後を、『キノコ』は内股で追い掛けて行った。


「アレ、七位の権力使ってどうにか出来ないの?」

「お姉様。権力というのは無闇矢鱈に振り翳すモノではありませんわ。ここぞ。という時に使うモノでしてよ」


 その考えは立派だけど、今がそのここぞ。という時だと思うんだけどな……

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