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八十三

 衛兵に両腕を抱えられ、頭を項垂れたままで引き摺られる様に連行されてゆくローザを見て、漸く終わったのだと実感する。途端、全身の力が抜けた。


「辛かったね。良ければ部屋までお送りしよう」


 ウォルハイマーさんの申し出は非常に有難かった。精神的にも肉体的にも限界に近かったからだ。しかし私は、その申し出を断った。


「いえ、大丈夫です」

「そうか。暫くは無理をせず、養生した方が良い。もし、何か相談事があれば、遠慮なく訪ねて来ると良い」

「はい。有難う御座います」


 今出せる精一杯の笑顔で応え、自室へと帰路に着いた。




「あ、お姉様」


 部屋の前で俯いていた女の子が、私の姿を見付けて向日葵の様な笑顔で駆け寄って来る。


「一体どちらへ行かれていたのですか? 心配して……どうかされたのですか?」

「え……? ううん。何でも無いわ。それよりゴメンね相当待たせ――」

「何でも無くはありませんわ!」


 言葉を遮って突然発せられた声に、身体がビクリ。と反応する。


「お顔色が悪いですわ。それに(やつ)れておいでです。一体何があったのですか……?」


 心配の眼差しで私をジッと見上げる。


「心配してくれて有難う。ちょっと事件に巻き込まれちゃっただけ。でも、解決したからもう大丈夫よ」

「そう、ですか。それは良かったですわ。今日はもう遅いですし、お姉様もお疲れの様ですから、明日またお迎えに上がりますわ。今日はお早目にお休みになって下さいまし」

「うん、有難う。それじゃ、明日」

「はい。…………(わたくし)を信用しては貰えないのですね……」


 ドアを閉める直前に彼女の呟きが聞こえた。私が隠している事を彼女は悟っている様だ。


「ゴメンね、リリーカさん」


 ドアに背を預け、天井を見上げる。


 信用していないんじゃない。地下牢で私を救ってくれたのは、あの向日葵の様な笑顔だった。でももし、真実を知った彼女があの笑顔を私に向けなくなってしまったら、恐らく私はもう立ち直る事は出来なくなる。そう感じたから。


 ミシリ、ギシリ。ドア向こうの人物が部屋から離れてゆく。その音が聞こえなくなった頃合いをみて、ドアから離れてベッドへダイブする。と、下腹から合図が送られて来た。


「そうか……今日は予定日……」


 週に一度のアノ日。今はそんな気分じゃないな。と思っていると、再び催促の合図が送られて来る。やむを得ず重い身体を引き起こし、個室へと向かった。


 白磁の器に腰を下ろす。それを待っていたかの様にニュルリとソレが顔を出し始めた。独特な匂いはしない。日が傾き掛けで少し遅れてしまったが、予定通りのモノが重力に引かれて落ちてゆく。


 ゴトリ。通常の音とは異なる音が聞こえ、腰を上げて振り向く。白磁の器の真ん中には、梅干しが置かれていた――

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