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七十三

 頬に感じる僅かな衝撃。その衝撃を(もたら)したナニカは、頬を滑る様に移動して首筋を横断する。そして、そのナニカが横断しきる前に、再び頬に僅かな衝撃を感じた。


 目を開ければそこは薄暗い部屋の中。ジメジメとした湿気とランタンの獣油の臭いが充満していて、チューチュー。と、アノ小動物の鳴き声が何処からともなく届いてきていた。ここはオジサマのお店でもましてや自室でもない。何処からどう見ても牢屋だ。


「なんで私、こんな所に……?」


 記憶がイマイチはっきりしない。


「ええっと……」


 眉間に人差し指を当て、記憶を辿った。




 日が暮れた頃、中層の門を抜けて下層へと戻った私とリリーカさんは、興奮冷めやらぬ……いや、夜になって更にヒートアップした街中を、はぐれない様にと手を繋いで歩いていた。


「お姉様。お付き合い下さったお礼に、食事でも如何ですか?」

「え……? でも悪いわ。今日は全部リリーカさん持ちだったし……」


 百万あった借金を肩代わりしてくれた上、今日のデート代は全てリリーカさんが払ってくれている。カフェのお茶は二人で二千八百ドロップだったし、チュロルなるチュロスは、一本千七百ドロップもした。つまりは今日一日だけで、一般市民の一ヶ月の食事代が飛んだのである。……まあ、絶品だったけど。


「『食事』と言ってもお父様のお店でですわ。そこならお姉様も気兼ねする事もありませんでしょう?」


 まあ確かに。オジサマの淹れるコーヒーは美味しいし、おばさまが作る料理は健康を気遣ってくれて愛情たっぷりだ。


「うーん……それじゃ、甘えようかな……?」

「ええ、タップリと甘えて下さいましお姉様」




「いらっしゃ……」


 ガチャンッ。という音と共に店内がシンッと静まり返る。その音を発生させた人物。つまりおばさまは、私とリリーカさんを見たまま石像と化していた。あ、しまった。男装のままだった。


「う、ウチのリリーカをどうぞ宜しくお願いしますっ」


 パニクってるなぁ……おばさま。


「違いますよ。おばさま私です」

「え? チガイマ=スヨオバ=サマワタシ……さん?」


 ん。お約束だね。ってかミドルネームのスヨオバって何だっ!?


「何を仰っているのですかお母様。よく見て下さいまし、お姉様ですわよ」

「え……? ああ、なぁんだ。お母さんてっきり……そういえば、カナちゃんって男だったのね。流石におばさんもビックリだわ」

「いや。私、女ですから」


 以前にその制服を着せておいて今更……?


「それ、俺の服……」


 ボソリ。と呟いたオジサマの声を、私は聞き逃さなかった。

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