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七十二

「散歩がウソ……?」


 フォワールさんを見送りながら呟いたリリーカさんの言葉を繰り返す。


「ええ、こちらに来た時に貴族風の老夫婦が居ましたでしょう? あの二人、フォワール卿の差し金ですわ。ずっと(わたくし)達をつけておりました」

「へ……? そ、そうなんだ」


 全然気付かなかった……


「それにしても……」

「ん?」

「いえ、あんな素人同然の尾行を付けるなんて、何か意味があるのでしょうか……?」


 そんな素人に気付きもしなかった私って……


「ま、まあ。そんな事考えてたらキリが無いわ。取り敢えず私という存在をアピールする事が出来たのだから、それで良しとしましょう」

「……そうですわね」


 納得のいかない表情のリリーカさん。その後のデートも、始めの頃のはしゃいでいた雰囲気は身を潜め、何処か上の空で過ごしていた。




 歩き疲れて立ち寄った洒落たカフェで休憩中も、リリーカさんは考え事をしている様子だった。出されたケーキも口にする事なく突つき続けるものだから、形状が半壊している。


「そんなに気になるモノなの……?」

「えっ?」


 私の声に反応し、顔を上げると同時に放たれたフォークの一撃によって、突つかれ続けていたケーキにトドメを刺した。


「ええ、あのフォワール卿がスゴスゴと引き下がったのが気になって……」

「リリーカさんに婚約を迫っているのはフォワール卿だけ?」

「ええ、初めの頃はもっと居ましたが、いつの間にかフォワール卿だけになりましたの。恐らくはフォワール卿が裏で手を回したのでしょう」


 ビバ、権力! って訳か。


「ずっと前から言い寄られ、丁寧にお断りしているのですが、しつこいのです」

「まあねぇ、あんなオッサンとじゃ萎えるよね」

「ああ、いえ。違いますわ。正確にはフォワール卿の御子息とですわ」

「ああ、そういう事か」


 あのオッサンの息子……容易に想像が出来るな。


「そうまで執拗に結婚を迫る理由ってなんなの?」

「それはですね。(わたくし)と結婚をすれば、労する事なく『リブラ』の地位を手に入れる事が出来ますの」


 ああ、成る程ね。あのオッサン確か九位とかいったっけ。二つもアップさせる事は容易じゃないのだろうな。だから、現七位のリリーカさんに目を付けた訳か……


「そろそろ日も暮れますわね。今日の所はこれで戻りましょう」

「そうね」

「恐らくは明日も接触して来るでしょう。大変だとは思いますが、お祭りの間はお願い致しますお姉様」

「ええ、任せて。それくらいお安い御用よ」


 私達は席を立って、益々騒がしくなり始めた下層の街の中、手を繋いで帰路に着いた。

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