七十一
青い空の下、ベンチに腰掛けて棒を咥えている私が居た。初めのうちは口の中に幸せが一杯溢れていたが、今現在は唾液の一滴すらも溢れていない。全部コイツに吸われている為だ。咥えた棒の先を辿ってゆくと、リリーカさんの顔があった。
目を潤ませて食べ進む姿は何とも言えない可愛さだ。時折リスの様に膨らむホッペも中々にグッドである。しかし、幾ら半分食べれば良くても流石に一メートルものチュロスを食べきるのはキツイものがある。飲み物を挟みたい所だけど、一気に食べないといけないらしい。ソレ、恵方巻だよね。
一口食べ進めるとリリーカさんの顔も近付く。互いに端から食べ進めているのだから当たり前といえば当たり前だけど、このまま行けばチューをしなければならない。
「これはこれは、お熱いカップルが居る。と思えば、リリーカ=リブラ=ユーリウス様ではありませんか」
横手から掛けられた声にチュロスはポッキリと折れる。ブチュッ。といかなくて人先ずは安心したが、占い的には邪魔が入って上手くいかない。って事になるのかな?
「チッ」
おい、今舌打ちしなかったか!?
「何か御用ですの? フォワール卿」
リリーカさんが好意的ではない視線を向けている所を見ると、この小太りで顎髭が長めの貴族に言い寄られているのであろう事が伺える。
「いえいえ。暇潰しに散策をしておりましたら見知った御方を御見掛け致しましたので、ご挨拶をせねば。と御声を掛けた次第でして。ところで……こちらの御人は何方様ですかな?」
リリーカさんは面倒臭そうに立ち上がる。その際、嫌そうなため息を吐いた。
「カーン様。彼は冠九位であらせるメアン=サヒタリオ=フォワール卿ですわ。そして、こちらはカーン様。私の婚約者ですわ」
「婚約者……?」
「御初に御目に掛かりますフォワール卿。カーン=アシュフォードと申します。どうぞお見知りおきを」
恭しくお辞儀をし、頭を上げると目をまん丸にして驚いている小太り卿が居た。
「アシュフォード。まさか、あの……?」
「いえ、わた……ボクはそのアシュフォードとは関係ありません」
これはリリーカさんから、アシュフォードの名を聞いて目をまん丸くする奴が居るから無関係だと言う様に。と事前に取り決められていた。ちなみに、その人が誰なのか聞いてみたが、上手い事はぐらかされた。
「そ、そうですか。おっと、これ以上居てはお二人のお邪魔になりますな。散歩の続きへと戻る事に致します。それでは、また」
そう言い残し、フォワールさんは急ぎ足で公園を出てゆく。
「フン、何が散歩よ。嘘ばっかり」
見送るリリーカさんが呟いたその言葉を、私は聞き逃さなかった――




