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六十六

「お姉様にお願いがあるのです」


 神様に祈りを捧げるかの様に胸の前で手を合わせ、潤んだ目をしながら上目遣いでヒトをジッと見つめるリリーカさん。コレを見て断る人は皆無だろうな。


「お願い……?」


 私にもあの技使えないかな? なんて事を思いつつ、聞き返す。


「はい。実は(わたくし)……婚約させられそうなんですっ」

「こっ、こんにゃくっ!?」

「…………お姉様。こんにゃくではありません。婚約。です」


 いや、まあ。つい驚いて……ね。


 リリーカさんの話を要約するに、晩餐会に気合を入れて(めか)し込んで行ったら、一目惚れした貴族の坊っちゃま達から婚約の申し込みが殺到したのだという。


「ですから、お姉様にご協力頂きたいのです」

「ちょ、ちょっと待って!? たかが一般市民の私が、貴族様と事を構えろって言うの?!」

「いえ、そんな物騒な事では無くて、お姉様に彼氏役を演じて頂きたいのです」


 婚約者が既に居ると分かれば、婚約を迫る坊っちゃま達も減るだろう。という、子供らしい考え方だ。


「お姉様には何処ぞの片田舎の貴族に扮して頂き、一緒に街を散策して頂きたいと思いまして……」


 面白そうではあるけれど、このテの話は成功例が無かった様な……


「協力したいのは山々なんだけど……」


 今日は休みを貰えたが、お祭りもまだ三分の一程度が過ぎただけ。明日からまた怒涛の受付ラッシュが始まる。


「ダメですかぁ……?」

「私借金が有って、それを返す為に働かないといけなくて……」

「借金。ですか?」


 リリーカさんは指の腹を顎に当てて何やら考え込み、そしてポン。と手の平を合わせた。


「でしたら、報酬の前払いとして(わたくし)が立て替えますわ」


 なんか、トンでもない事を言ったぞこのお嬢様は。


「いやいやいや! 流石にそれは甘えられないわっ。だって百万だよ?!」

「別にそれくらいなら(わたくし)、持っておりますわ。ご心配は無用でしてよ」


 流石は貴族のお嬢様。一般市民の十年分の生活費を、若干十六歳のご身分でお持ちになっておいでとは……


「では早速、『アルカイック』さんとの交渉に行って参りますわ。お姉様はここでお待ちに……」


 出て行こうとするリリーカさんの袖を掴み、行動を制止する。


「……どうして?」

「え……?」

「どうしてそこまでしてくれるの……? 一般市民クラスCの私なんか、どうでも良い存在でしょう……?」

「……分かりません」


 おいいっ!


「――でも、なんか放っておけないんですよね……」


 私、そんなに放っておけないオーラ出してんの?


「お父様やお母様が懇意にしているからでは無くて……まあ、それも少しありますが」


 あるんかい。


「――感じるのです。お姉様の中には何か特別な力が在る。と」


 リリーカさんの言葉に、驚きでドクン。と心臓が高鳴った――

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