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二百十五

 庭の片隅に置かれたベンチに腰掛け、ルリさんとリリーカさんは何やら楽しそうに話し込んでいる。それをチラリチラリ。と横目で見つつ、『私だけ仲間外れにするなっ』。と憂さ晴らしをするかの様に木剣を振るう。


「コラッ! 真面目にやりなさい」

「うっ!」


 ルリさんからの叱責に、ビクッ。と身体が反応する。うう……馴れ初め聞きたいよぉ……


「ちゃんと構えて!」

「は、はいっ!」


 木剣を構えてふと思う。剣の構えってどうやるの? と。時代劇は見ないからよく分からない。中世時代や海賊映画は、剣を抜いたら振り上げたまま走っていくシーンがあるけど、あんな感じで素振りをすれば良いのだろうか?


 映画のワンシーンを思い浮かべ、木剣を高々と上げて振り下ろす。背後で楽しげな声が響く度、その速度が増していった。そして、何回振り下ろしたか数えるのも面倒になった頃、振り上げた木剣がピタリと止まり動かなくなった。


「あ、あれ……?」


 力を込めてもビクともしない。不思議に思い頭上に掲げたままの木剣を見上げると、剣を持つ手より少し上で別な手が木剣を握っているのが見えた。


「何をしているんだ?」

「お、おおオジサマッ?!」


 耳元で囁かれた渋い声と吹き掛けられる熱い吐息に心臓が飛び上がる。


「ち、ちょっと素振りを……」

「素振り……? 今のがか? だが、いい心掛けだな。それよりも、キミにお客さんだ」

「え、お客さん……?」


 オジサマが身を横に避けると、その後ろに小さな女の子が立っていた。


「テヘッ、来ちゃった」


 ペロリ。と舌を出したその幼女は、連絡も無しに突然彼氏の部屋を訪れて、合鍵でドアを開けると浮気現場に出会(でくわ)してしまう様な台詞を吐いた。


「何この子。あ、カナさんの隠し子ね?」


 鉱物以外産み落とした記憶はありませんよっ。


「ちょ、ルリさん。マリエッタ王女殿下に失礼な事を言わないでっ」

「ええっ?!」


 私がそう呼ぶと、ルリさんは驚きの声を上げ、王女の頬がリスの様に膨れ上がる。……かわいぃ。


「マリーって呼んで」

「お久しゅう御座います。王女殿下」


 リリーカさんはカーテシーを行う。そして王女の頬がまた膨れた。


「マリーって呼んで……」

「殿下。言わせて頂きますが、供も連れずにお出掛けになるなど、以ての外で御座いますよ」


 オジサマは王女に物申す。そして三度王女の頬が膨れた。


「マリーって呼ん――」

「ちょっとカナさん! 王女殿下と知り合いだったなんて聞いてないわよっ!」


 敢えて触れる様な事じゃないでしょうが。自慢話にしかならないし。


「オイ、お前ら……」


 ドスの効いた幼い声に、ルリさんの肩越しに王女を覗き見る。ダンッ。とウッドチェアに片足を乗せ、前髪の隙間から覗き見る様に鋭い眼光が私達に向けられる。


「マリーと呼べと言うとるやろがぁぁっ!」


 マリエッタ王女がヤン化した瞬間だった。

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