表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/235

百九十九

 おばさまが不審に思った話とは、タドガーが『にぃちゃん』に一切興味を持っていなかった事。言われてみれば確かにそうだ。滅多にお目に掛かる事の無い、町が買える程の価値がある希少動物に目もくれず、あの鉱物にだけ異常な程の執着心をみせている。


「考えれば考える程、分からなくなりますわね……」

「もしかしたらそれが狙いなのかもね。今頃私達が頭を悩ませている姿を想像して、『嗚呼、イイですねぇっ!』とか言ってのたうち回っているのかも」


 私のタドガーのモノマネしている姿を見て、リリーカさんはクスッ。と笑う。


「確かにそれはありそうですわね。それにしてもお姉様、良く似ておいでですわ」


 褒めても何も出ないぞ。やった後でやらなきゃ良かったと後悔したくらい、寒気が走ったから。


「でもお母様、『にぃちゃん』には興味を示しませんでしたが、お姉様がお持ちになられた鉱物には異様ともいえる関心を持っておいでの様です。錬金術学的に非常に興味がある、と」

「ああ、あのフォワールを負かした鉱石の事ね。……となると、ヤツの狙いはソレなのかもしれないわね」


 あの鉱石『ブラッディルビー』は現在、マリエッタ王女が持っている筈だ。王女自身もタドガーの事を嫌っている様だから彼の手に渡る事は無い。王女から強引に奪取する様な暴挙には至らないだろう。ならば手っ取り早く手に入れるには、持ち込んだ人物に聞くしかない。そしてヤツは、私がカーン=アシュフォードだと知っている。だとしたら――


「まさか……タドガーの狙いは――」


 ――狙いは私。ソコに辿り着いた瞬間戦慄が身体を突き抜けた。小さな小さな箱に押し込めていた恐怖が、溢れ出して止まらない。顔は強張り身体は震え、温かい筈の店内もブリザードが吹き荒れる極寒の地の様に思えた。


「お姉様、どうかなされたのですか?!」

「また……また、なの……?」

「また?」

「いやっ、もう嫌よ。なんで……なんで私だけがこんな目に合わなきゃいけないのっ?!」

「慈悲深き至高神よ。この者の精神を落ち着かせ、平常なる心を取り戻し下さい」


 淡い光が身を包み込む。同時に、溢れていた恐怖が元の箱へと戻っていくのを感じていた。


「大丈夫? カナちゃん」

「は……はい。有難う御座います」

「カナちゃん。一体何をされたの?」


 胸元をグッと強く掴む。


「私は…………一度死んだんです」


 磯臭い。湿気が充満する地下牢で、獣油が灯す明かりを煌めかせ、幾度となく振り下ろされた刃。聞いた二人は驚愕の表情を浮かべていた――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ