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百九十四

「に、似てる……? だ、誰にでしょうか……?」


 ズィッと近付けたタドガーの顔から、嫌悪を僅かに示して視線を背ける。私がそう答えると、タドガーはニタリ。と笑みを作って離れた。


「カーン=アシュフォード」


 笑みながら漏れ出た言葉に私の心臓が跳ね上がった。


「……と名乗る『リブラ』の婚約者に、ですよ」

「わ、私がその御方に似ている、と?」

「ええ、それはもうソックリです。まるで双子の様に、ね」


 顔は笑みを作ってはいるが、視線は全くの別物。例えて言うなら新しい玩具を手に入れた子供の様な視線。相手が無邪気な子供なら良かったが、こちらはそうじゃない。蛇に睨まれた蛙。今、そう感じていた。


「た、他人の空似。というモノではないでしょうか? 世の中には自分に似た人物が三人は居る。と聞きますし」

「ふむ。一般市民の間では、その様な噂があるのですか……。そうなると、私は四人居る事になり、カナさんもあと二人は居る事になりますなぁ」


 こんなヤツに四人並んで囲まれた日には、みんな卒倒するな。


「それにしてもカナさんは何故、私の問い掛けが人物だと思われたのですか?」

「え……それはどういう事でしょうか……?」

「私は良く似ている。と言っただけですが、貴女はどうして誰。と答えたのでしょうか?」

「そ、それは、その……」


 確かにそうだ。似ていると言っても範囲が広い。その中で私は人物を選択した。私がカーン=アシュフォードだと知ってて言ってるのか、それとも知らずに言っているのか分からない。分からない。この人の考えが……


 視線を僅かに落とし、頭の中で考えを巡らせていると、リリーカさんが私を庇う様に前に出た。


「『ヘミニス』様。もうそれ以上お姉様をお揶揄(からか)いになるのはお止め下さい。顔を覗き込まれ、似ている。と問われれば、誰しも人物を連想するではありませんか」

「そういうモノですかな。まあ、良い表情を頂きましたし、これくらいにしましょう。ご無礼をお許し下さいカナさん」


 礼儀正しく一礼したタドガー。頭を上げると今度はリリーカさんに視線を向ける。


「ところで『リブラ』。カーン殿は今どちらに……?」


 目の前に居るよ。言わないけど。


「カーン様なら、豊穣祭後に故郷にお帰りになられましたわ。何用なのでしょうか?」

「いやぁ、カーン殿にお聞きしたかったんですよ。あの鉱物はどの辺から出土したのかを」

「やけに(こだわ)っておいでですのね」

「それはそうでしょう。見た事もない鉱物なのですから、錬金術学的にも興味深い代物です。もし、それが作り出せるのなら、莫大な富が約束されますでしょう?」


 リリーカさんに向かって笑みを作りながら、チラリ。と私に向けた視線に、背筋が凍り付く思いだった。

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