百八十八
お風呂から出た私達は、そのまま食堂へと入店する。一般的には、食堂と宿屋はセットとなっているが、ここは純粋に食事を楽しむお店だ。
素朴な作りの店内に、木製の円形テーブルが幾つも並び、お昼には少し早い時間にもかかわらず、席はほぼ埋まっている。その一つに案内され、腰を落ち着けた。
「とりあえずエール」
案内したウェイトレスに、ルリさんは開口一番そのセリフを吐いた。『とりあえずビール』みたいに言わないで。
「カナちゃんも飲む?」
ルリさんの言葉にどうしようか。と考え、少しだけなら良いか。と応えを出す。リリーカさんは未成年なので、水出し紅茶を頼んだ。
「つまみはリユイ豆。それと、疾走する鶏の唐揚げを三人前で」
慣れた感じでどんどん注文をするルリさん。『畏まりました』と一礼をして、ウェイトレスは去って行った。
「お待たせ致しました」
ドカリ。と置かれた木製のジョッキからは、真っ白な雲の様な泡が溢れんばかりに揺らめく。そして、付け合わせで出されたのは、『リユイ豆』なるエダマメの様なモノだった。
「さ、先ずは乾杯しよ」
「何に、です?」
「決まっているじゃない。再会を祝して、よ」
三つの器がゴン。と付き合わされ、雲海の様に漂う泡もろとも、下界にある液体を流し込む。苦味の中に仄かに香る香辛料。ビールとはまた一味違う美味しさだ。お風呂上がりという事もあってか、ルリさんは一気に飲み干した。
「んはぁっ! 風呂上がりにはやっぱコレよね!」
最早、オッサンの域である。
「そういえば、フォワール親子は嫌われ者って言ってましたけども?」
「ん? ああ、アイツは気に入った人か上位者にしか愛想良くないからね」
会社役員に取り入って良い目見ようとする輩と同じか。
「それに、『下民は貴族が管理するべきだ』。なんて公言しているもんだから、民衆からも嫌われているのよ。あ、お姉さんエールお代わりね」
飲み干したエールの二杯目を頼み、エダマメに激似の『リユイ豆』を口に放り込む。私もつられて手を伸ばす。ん、エダマメだわコレ。
「お待たせしました。疾走する鶏の唐揚げ三人前です」
ドカリ。とテーブルに置かれた大皿に、キツネ色に揚がった唐揚げが、『揚げたてですよ』と言わんばかりに音を立てていた。次いで置かれた小皿には、レタスの様な野菜と二枚のピタパンの様なモノ。そして、赤色のタレが入っている。
「二人ともコレの一番美味しい食べ方を教えてあげるわね」
そう言ってルリさんは、ピタパンの様なモノにレタスの様なモノを挟み、唐揚げをいくつか乗せて赤色のタレを上からかける。そして勢い良くかぶり付いた。
ゴクリ。ルリさんの美味しそうな表情に思わず唾を飲み込む。そして、私もリリーカさんもほぼ同時に、ピタパンの様なモノに手を伸ばした。