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百八十六

「さて、と」


 凪いだ水面を波立たせ、ルリさんは湯船の外に出る。


「あれ、もう出るんですか?」

「いいえ、迷える子猫ちゃんにアドバイスしてあげようと思って」


 子猫って、リリーカさんの事か。一体何をするつもりなんだ?


「どう? リリーカちゃん。調子は」

「んっ……はい、心……なしか大きくな……りました。この……まま、お姉様……の様にエ……ロい身体を目指……します」


 一日二日で大きくなれば誰も苦労はしない。つか、エロいとか言わない。


「じゃあ、そんな頑張り屋さんのリリーカちゃんに、お姉さんからアドバイスしてあげようか?」

「えっ!? 本当ですかルリ姉様」

「うん。聞きたい?」

「も、勿論です。是非ご教授して下さいませ」

「おっけー。じゃあ、肘を胸の高さに上げてね」

「こ、こうですか……?」


 一体何をするのだろう? と、眺めていると、ルリさんの凶悪な十本の触手が、リリーカさんの小振りな胸に背後より吸い付いた。その際、ルリさんの目が獲物を捉えた鷹みたいにギラリ。と光った様に思えた。


「ひゃんっ!」


 突然胸を鷲掴みにされ、小さな身体がビクッ。と反応する。


「な、何をなさるのですかルリ姉様」

「こうしてよく揉むと、大きくなるのよ」


 確かにそうも云われているが、それは諸刃の剣だったりもする。


「あ、あの。ルリ姉様……」

「んー、なあに?」

「なんか……変な気分に……」

「ああ、大丈夫。ちょっと変な気分になるけど、全然悪い事じゃないから。寧ろ身体には良い事だから安心して」


 オッサンかアンタ。


「こうやるのも良いし、こう……するのも良いのよ」


 ええのんか、ここがええのんか状態のルリさんの脳天に、必殺のチョップをブチかます。


「痛った! 何するのよカナちゃん」

「純な女の子に変な事しないで下さい」

「はぁん……お姉様、湯船に入ってもいないのに身体がポカポカしてます。これもばすとあっぷ体操の効果なんですね」


 うん。それ、別なモノだから。




 再び湯船に身を沈め、はふぅ。とため息を吐く。リリーカさんとルリさんに目をやれば、二人はそれぞれ満足げな顔をしていたが、内容は全く別な事だろうと先程の行為から容易に推測出来る。


「そういえば、私達が街を離れている間に随分騒がしくなっているわね」


 ルリさんが言っているのは恐らくフォワール卿の事だろう。しかしその件に関しては、新聞に公開された事以外の情報はオジサマから口止めされている。


「そうみたいですね……」

「……」

「……」

「……カナちゃん関係してるでしょ」


 ルリさんの言葉に思わずぶほっ。とむせ返す。す、ストレートに来たあっ!

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