百八十三
にゅるり。と件のアレが顔を出し、オギャアという声の代わりにゴトッ。とした音を立てた。便秘かもと疑っていたが、薬が効いたのか、はたまた気の所為だったのかは分からない。終わってみれば通常通り、白磁の器に銀に輝く我が子が産み落とされていた。
慣れというものは怖いモノで、初めは手袋を嵌めたりして持ち出していたのだが、最近では素手で持ち出している。……女として何か大事なモノを失っている気がするなぁ……
そういえば昔、とある牧場で小さな女の子が一生懸命何かを作っているのを見掛けて尋ねた所、『羊さんから出て来る土でお団子作ってるの』と可愛い笑顔で応えられ、顔を引きつらせながら『お嬢ちゃん、ソレ土じゃないっ』と内心でツッコミを入れていた事があったが、それに比べればまだマシか。
「さて、どうしたものか……」
普段なら持ち出して一応綺麗に洗うのだが、今は個室の外にリリーカさんが居るので持ち出す訳にはいかない。不老不死の能力は打ち明けたが、コッチはまだ話していないのだ。
『あ、あの……お姉様。私も、その……お借りして宜しいですか?』
「あ、ちょ、ちょっと待って!」
事態は急を要した。盛られた鉱物を拾い上げ、どうしたものかと周囲を見回す。隠せる様な場所は皆無。置物として置いておくのも論外だし、花瓶で通すには苦し過ぎる。掛けてあったタオルに目が止まり、我が子を包み込んでドアを開けた。
ドアの外ではリリーカさんが、軽く握った拳を口に当て、視線を逸らして恥ずかしそうに俯きながらモジモジしていた。その姿に思わず抱き締めたくなった。
「た、タオル汚れてたから変えるね」
クローゼットを開けてアレを包んだタオルを置き、新しいタオルに変える。
「はい。コレ使って」
「あ、有難う御座います……お借りしますね……」
差し出したタオルを受け取り、個室のドアが閉じられると、ドッと疲れが押し寄せた――
リリーカさんが出るのを待つ間、着替えを済ませる為にクローゼットの戸を開ける。着ていたワンピースを脱いでベッドの上に放り投げ、下着姿のままでハンガーに掛かっている服を眺めながら、今日はどれにしようか思案する。この世界では、元の世界でいう所の中世ヨーロッパ風の洋服が主流だが、近年ディアンドルというドイツの民族衣装の様な服も人気が出てきている。素材は綿で、絹素材は高級品なので貴族の人くらいしか着ない。
「今日はこれにしよう」
選んだ服はドイツの民族衣装ディアンドル風の服。シックな物から可愛い物まで多彩なバリエーションがあり、人気急上昇中の服だ。着替えを終えてクルリ。と振り返ると、私を視姦する視線とぶつかった――