百七十九
ボーン、ボーン、ボーン……。柱時計が十二時の時を告げ始める。時計に目をやった時より一分程度しか経過していないにも拘わらず、時を告げ始めたのだ。
ガシュリ。と何かが作動した音が背後より聞こえると同時に、拘束された人物の口角が僅かに上がる。背後より迫り来る音に振り返った所で目が覚めた。
「大丈夫ですかお姉様? だいぶ魘されておいででしたが……」
「え、ええ。大丈夫よ」
とは言ったものの、秋も始まって夜風が肌寒くなり始めたこの時期で、隣でふわふわでぽかぽかなリリーカさんが添い寝していたとはいえ、かいた汗の量はハンパない。鼓動も早鐘の様に打ち付けている。
「本当に大丈夫なのですか? お顔色が優れない様ですが……」
「ちょっと変な夢を見ちゃってね」
「変な夢、ですか……?」
内容的には悪夢と言っていい夢だ。牢に囚われていたのは私。鉄製の拘束具で椅子に座らされ、衣服は所々が破けている。それ等を話して聞かせると、リリーカさんはニッコリと微笑んだ。
「気にする事はありませんわ。ただの夢です」
リリーカさんはそう言うが、私はそうは思えない。振り返った時に視界の端で捉えたアレは一体何なのか? 鋭く尖った何かとしか見えなかったが……。と、コツリ。と腕に何かが当たり驚いて視線を移すと、ネコの様な獣が私の事をジッと見つめていた。
「あれ……? にぃちゃん?」
名前を呼ばれて、にぃちゃんは目を細めてにぃ。と鳴いた。
「おばさまの所に居たはずじゃ……?」
「ええ、私が目を覚ました時には、お姉様のお腹の上に居りましたわ」
「部屋の中に……?」
ドアはちゃんと閉めておいた筈。おばさまがそっとドアを開けて入れたのだろうか……?
「それよりも、汗をかいたままでは風邪をひいてしまいます。お湯とタオルを用意しますので、身体をお拭きになられた方が宜しいですわ」
時間も二時を過ぎた深夜帯。入浴の音でおばさま達を煩わせる訳にはいかないと判断し、リリーカさんに甘える事とした。
リリーカさんが用意してくれたお湯で身体を拭き終え、汗で濡れてしまった寝間着の代わりにと渡された服は、かなりセクシーな物だった。
「リリーカさん。これ……」
「ごめんなさいお姉様。ソレしか無かったものですから。でも、とても良くそそり……いえ、お似合いですわ」
おい今何を言い掛けた?! 本当にコレしか無かったの?! いいか着せちゃえ的な軽いノリで着せてない!?
「さ、お姉様。朝までもう一眠り致しましょう」
掛け布団を捲り上げ、ベッドへと誘うリリーカさんに、貞操の危機を感じながら床に就いた。