百七十七
――夜。あてがわれた部屋のベッドで大の字になって天井を見つめ、後ろめたい気持ちに苛まれながらも、深い安堵感に浸っていた。
おばさま達に話をしたのは『不老不死』の秘密のみ。絶対に受け入れて貰えないだろうと思っていた『不老不死』だが意外にも、おばさま達がスンナリと受け入れた事に、逆にこちらが驚いた。
だけど、一定期間でアレが鉱物になる。なんて事は、流石におばさま達でも頭を抱え込むだろう。そういえば、明日は予定日だったな。
トントン。とドアが叩かれる音に気付く。それに応えるとドアがゆっくりと開かれる。同時に、淹れたてのコーヒーの香りが鼻を擽った。
香りと共に入って来たのは、髪を黄色いリボンで両サイドに束ね、薄い水色のネグリジェを身に纏うリリーカさん。
「お姉様、コーヒーをお持ちしましたわ」
「有難う」
差し出されたカップを手に取り口に含む。ミルクがタップリ入ったコーヒーは、舌の上を円やかに転がって胃に収まった。
「お姉様、抱えていらした秘密をお話し頂き、有難う御座いました」
ベッドに並んで腰を下ろしたリリーカさんは、両手で持ったカップに注がれたコーヒーを見つめながらそう言った。
「私がバケモノだって知って、驚いたでしょ」
「正直、驚きましたがでもそれ以上に、運命的な出会いを感じました。それに、バケモノと呼ぶのはお姉様でなく私の方だと思いますわ」
遠い過去の事とはいえ、リリーカさんは魔王と呼ばれた人物の血を引いている。おばさまから齎された突然のカミングアウトに、そのショックが抜けきれていない様子なのかな。
「出生がどうあれリリーカさんは普通の女の子だもの、不老不死の私の方がよっぽどよ」
「そんな事ありませんっ」
リリーカさんは立ち上がって私を見下ろす。
「お姉様は『タダ』の不老不死ですが――」
タダのって……
「私は魔王ですよ?! 世界を滅ぼそうとした元凶にして人類の天敵である混沌の王っ。その血が流れているのですよっ?!」
御先祖様をディスるな。罰当たんぞ。だけどこの娘、もしかして私に気を遣っているのかな。このまま反論すれば水掛け論になりそうだし、ここは私が大人になって丸く収めるとしようか。
「じゃあお互い様って事で、これからも仲良くしようね」
「……はい。これからも宜しくお願い致しますお姉様」
仲直りの握手。とばかりに右手を差し出すと、一瞬驚いた表情を見せたリリーカさんはガッチリと手を取って向日葵の様な笑顔を見せた。
「そ、それで……あの」
急にモジモジとし出したリリーカさん。
「きょ、今日は一緒に寝ても良いですか……?」
なんかトンでもない事を言い出したよ。