百七十五
「それにしても、まさかカナちゃんが『神助を受けし者』だったとはねぇ……」
しんじょ……?
「神助って……?」
「神様から何らかの加護を与えられた人をそう呼んでいるのですわ」
なるほど。
「さっき話したでしょう? 魔王さんと恋に落ちた人の話。あの人もカナちゃんと同じ『神助を受けし者』なのよ」
「えっ! そうなのですかお母様っ!」
ダンッ。とテーブルに手を付いて、リリーカさんが立ち上がる。何故にリリーカさんが驚く……?
「まさか、御先祖様が『神助を受けし者』だったなんて……」
元の位置に座り直しながら呟いたリリーカさんの言葉に、我が耳を疑う。
「ごっ、御先祖様っ!?」
「ええ、遠い遠い遥か昔の人よ」
だからか。私の話に全くと言って良い程、動じていなかったのは……。でも、私と似た様な能力を持つ人が居てくれたお陰で、不老不死の事を話しても、今こうして向かい合う事が出来てるんだ。私は心の中でその人に感謝を捧げた。
「カナちゃん。あなたの秘密、他の誰にもバレて無いわよね?」
「え……? ええ、大丈夫だと思いますが……何か不味い事でも……?」
「カナちゃんに関わる昔話を、もう一つ聞かせてあげるわ」
私に関わる話……?
おばさまの昔話とは、大昔に実際にあった出来事。大陸南西部に位置するとある王国で、王からの勅令が発布された。その内容とは、『不老不死の法を王に献上せよ』というもの。確かに私の能力に関わる話だ。
「そ、それで、どうなったんですか……?」
「そのたった一枚の御触れで、国中が乱れてしまった。しかもそれだけに留まらず、その狂乱は他国にまで波及してしまったの。考えてもみて、作った薬品や魔法が本当に不老不死の効果があるのか? 手っ取り早く確認するにはどうしたら良いと思う?」
「そりゃあ、殺して……あ」
「そう。それが王の公認で、日常的に行われていたのよ。そして、ただの一つも成功例は無かったの」
その後、狂乱の元凶を突き止めた周辺諸国は挙兵して王を討ち、その王国は滅びを迎えたのだという。
「もし秘密が他に漏れる様な事があれば、他国と戦争をしてでもカナちゃんの取り合いが始まるわ。だからリリー、もし拷問を受ける状況になったのなら、迷わず死を選びなさい」
リリーカさんの顔が強張り、ゴクリ。と唾を飲み込む。
「分かりましたわお母様。リリーはお姉様を守る為、死を選びます」
そう言ったリリーカさんの目には、強い意志の光が見て取れた。な、なんか、大事になっちゃった!?