百七十四
オジサマのお店を早仕舞いさせ、動けないおばさまをリリーカさんと二人でなんとか家に運び込む。おばさま、ダイエットしようね。
「おばさま、大丈夫ですか……?」
「ええ、魔力を使い過ぎただけだから、暫くすれば動ける様になるわ」
今の姿から到底想像も付かない『妖艶なる癒し手』と呼ばれていたおばさまの魔力が一回で枯渇する程の呪文なんて、一体どれ程高位の術だったんだろう。
「リリーカさんも平気?」
「はいお姉様。お姉様が術を解いてくれましたので問題ありませんわ。お茶を淹れて参りますので、お姉様もお掛けになってお待ち下さいまし」
言って、リリーカさんは台所へと向かう。私は顔を強張らせてソファーに腰掛けた。秘密を話して本当に受け入れて貰えるのか? 話した途端この人達の私を見る目が変わってしまうのではないか? 不安で不安で胸が押し潰されそうだった。
ふと、おばさまと視線がかち合う。言葉こそ口にしないが、その柔らかな表情からおばさまの言いたい事が理解出来た。
「お待たせしました」
お茶の準備を終えたリリーカさんは、紅茶が注がれたカップを私とおばさまの前に置き、最後に自分の前に置いて腰を下ろした。
そして、静寂が訪れる。あれ程の感銘を受けたと言うのに私の心は定まらず、口は接着剤でも塗布されたかの様に開かない。おばさまの顔は慌てなくて良いよ。と言っている。リリーカさんは私に余計なプレッシャーを与えない様にと、素知らぬフリをしてくれている。私は意を決し、固く閉ざされた口を開いた――
話が進むにつれ、二人の顔が驚愕に変わる。私の心臓は早鐘の様に打ち付けていた。
「不老不死。ですか……」
話が終わり、初めに口を開いたのはリリーカさんだった。
「スケルトンやズンビーみたいなものでしょうか……?」
「あいつらはただの不死属性に過ぎないわ。不老が付いているカナちゃんは、どちらかというと『ドラキュリア』の方が近いでしょうね」
『ドラキュリア』……?
「あの、『ドラキュリア』って?」
「吸血鬼の最上位種よ。日光や十字架、貧血症などの弱点だらけの下位種とは違って、弱点はほぼ無いわ」
吸血鬼の最上位種……? もしかしてドラキュラの事……かな。ってか、吸血鬼って貧血症だったの?!
吸血鬼は貧血症。齎された新事実に驚くと共に、『だから血を欲しがるんだ』と、納得していた。