百六十九
おばさまの、『据え膳食わぬは男の恥』発言に、何の話だ。と内心全力でツッコミを入れる。リリーカさんが言ったと思しき『強引に迫った』を、誤って解釈したのだろう。
「おばさま、私女ですよ」
なんだその、えっマジ!? みたいな顔はっ!
「冗談よ。だけどね、愛は平等よ。相手の性別は関係無い。勿論、容姿もね」
そう言っておばさまはウィンクをする。それが全然似合わない。そういえば、おばさまって冒険者時代は『妖艶の癒し手』とか言われていたんだっけ。
「それが例え人だろうがエルフだろうがドワーフだろうが――」
ドワーフは流石に無理ないか?
「――ケモミミだろうが少女だろうが少年だろうがっ」
最後明らかにダメなヤツだろっ!?
「だからカナちゃん。リリーカの事、幸せにしてあげてね」
何でそうなるっ!?
でも、そうか。幸せっていうのも、人それぞれ。寝るのを幸せと感じる人も居れば、食べるのを幸せと感じる人も居る。結婚だけが幸せの定義じゃない。
「リリーカさんを幸せに……?」
ふと、リリーカさんの幸せって何だろう。と考え込む。『関係を絶つ事なかれ』という、そのカンの囁きに従ってるのだと、かつて彼女は言った。だけど、笑ったり怒ったり、驚いたりむくれたり、呆れ顔やドヤ顔とかっ。彼女は実に様々な表情を私に見せてくれた。
リリーカさんにとって幸せとは、私の側に居る事なのかもしれない。しかし――
「おばさま……」
「ん? どうかしたの?」
「もし、万人に受け入れ難い絶対に知られてはいけない秘密が、一緒に居たいって人にバレてしまったら……どうしますか?」
目を伏せたまま、おばさまに疑問を投げ掛けた。
「……世の中にはね、忘却と魅了っていう便利な魔法があってね」
……は?
「忘却魔法で全てを忘れさせ、魅了魔法で心を縛るの」
おばさまはズィッと顔を近付ける。おおぃっ! それやっちゃダメなヤツだろっ!? ってまさかおばさま、オジサマに……?!
「まあ、冗談は置いといて」
冗談は昔の二つ名からは想像もつかないその顔だけにしておいてくれないかな。
「カナちゃんはリリーの事、どう思う?」
「え? そうですね……素直で明るくて、しっかりしているけれど、たまに抜ける所があって……」
お姉様と私を慕い、時には姉の様に叱ってくれる。
「信用に足る人物かしら?」
「……はい。そう思います」
だから怖い。彼女の笑顔が私に向けられなくなる事が……
「じゃあ、大丈夫よ。あの子はきっと受け入れてくれると思うわ」
「もしそれが、人知を超えた秘密であってもですか……?」
不老不死とアレの鉱物化。神の御業によって与えられたこの能力は、例えこの世界の人達でも理解は出来ないだろう。
「人知を超えた……? カナちゃんあなたマサカ……」
おばさまの言葉にゴクリ。と唾を飲み込む。まさか、この世界では不老不死の情報は周知されているの……?
「魔王さん、なの?!」
何でそうなるんじゃぁぁっ?!