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百六十八

 個室の戸を開け、良く手入れが成された白磁の器に腰掛け、目を閉じて瞑想する。が、何の兆しもみられない。


「ンッ……」


 眉間にシワを寄せて少し力を入れる。しかし全然音沙汰が無い。腰を上げて器を見るも、ソコには何も出ていなかった。出たのは香りが付与された風魔法だけだ。


「まさか、また便秘……?」


 色々な心労が重なったからかもしれない。そう思い、瞑想は早々に切り上げて薬箱から便秘薬を取り出して、煎じる準備を始める。


 焜炉にやかんを置き、焜炉の側面に飛び出している半球体に手を触れる。ジェットコースター等でスーッと血の気が引く様な感覚が僅かにした後、ボッと焜炉に炎が灯る。この血の気が引く様な感覚が、魔力と呼ばれるシロモノなのだろう。


「ん?」


 何かがぶつかる衝撃を感じて足元に視線を移すと、足首に向かって頭突きをし、その後身体を摺り寄せる『リンクス』だった。


「お腹空いたの?」


 私からの問い掛けに、『リンクス』はにぃ。と鳴いた。


 『リンクス』用に用意したご飯を皿に乗せて床へ置くと、はっくはっく。と言いながら、夢中になって食べ始めた。そのひたむきに食べる姿を見ていたら、今度は私のお腹が鳴る。


「オジサマのお店にでも――」


 言い掛けて口を(つぐ)んだ。あれだけ気不味い別れ方をしたのだ。リリーカさんに合わせる顔が無い。どうしたものか。と悩みつつも、足は自然とオジサマのお店に向いていた。




「うーん……」


 オジサマのお店の前で唸り声を上げる。いつもの癖でここまで来てしまったが、流石にドアを開ける勇気が湧かない。やっぱり別なお店にしよう。と背を向けると、背後でガラランッ。と音がした。


「どうしたのカナちゃん。入ったら?」

「え……いや、でも……」

「いいからいいから」


 おばさまに背中を押され、半ば強引にお店に入る。店内には誰も居らず、リリーカさんどころかオジサマすら居ない。


「あの…………り、リリーカさんは……?」


 恐る恐る彼女の事を聞いてみる。


「リリーなら今朝早くに発ったわよ」

「え……あ」


 そういえば、今日出発するって言ってたんだった。……まさかこんな風に別れるとは思わなかった。早起きして見送りに行き、お互い笑顔で『また会おうね』と言い合う筈だったのに……


「リリーがね、心配していたわよ」

「え……?」

(わたくし)が強引に迫った所為で、お姉様に不快な思いをさせてしまいましたのっ! って」


 恐らくはリリーカさんの真似をしたんだろうが、親とはいえ樽体型で歳相応の見た目を持つおばさまがやっても、鳥肌が立つだけだった。


「カナちゃん。据え膳食わぬは男の恥。よ」


 ポン。と私の肩に手を置いて、おばさまは真っ直ぐに見つめて言った。何の話だっ!?

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