百五十七
「そんな……そんな筈は無い。この私が……この私が妻以外の裸を見たいなどとは……」
長椅子に座り、床の一点を見つめたままで葛藤を続けているフレッドさん。声に出てますよ。
「フレッドさん」
「フレッド様?」
「そんな筈は無い。いやしかし……え? 何ですか?」
どうやら続けていた葛藤は、妻以外も見たい方向に傾き掛けている様子だな。
「『リブラ』様にアユザワさん。お二人共如何されました?」
「あの、終わりましたよ」
「えっ?! いつの間に!?」
アンタが裸を見たいかどうか葛藤している間にね。
「そ、それで結果は如何でしたか?」
私は首を横に振る。
「国家機密をお借りしたのに全員違いました」
「それは残念でした。では、獣はどうなさるおつもりですか?」
「本当の飼い主が見つかるまで、私が世話をしようと思っています」
食費が増えるなぁ……。本当の飼い主が現れたら、その分も請求してやる。
「そうですか。もし、何かお困りでしたらご相談に乗りますので、遠慮無く私を訪ねて下さいね」
「はい。有難う御座います」
「それではフレッド様、私達はこれで失礼させて頂きますわ」
「はい。『リブラ』様もご壮健で」
リリーカさんのカーテシーにフレッドさんは手を自身の肩に添えてお辞儀をする。こうして私達は、何の実りも得られぬままにオジサマのお店に戻った。
「結局は見つけられなかったのね」
私が頼んだ遅めの昼食をテーブルの上にコトリ。と置き、おばさまが言う。
「はい。装置までお借りしたのに、全く実りはありませんでした」
骨折り損の草臥れ儲けとは正にこの事だな。
「これ以上はフレッド様にご迷惑をお掛けする訳にはいきませんので、飼い主が現れるまで私が預かりますよ」
「もういっその事、カナちゃんが飼っちゃえば?」
「いえ、希少動物で鑑定額もかなりの額になりますから、きっと困っていると思うんですよ」
「そう。カナちゃんは優しいのね。でも、それだけ高価な動物なら、飼い主さんはどうして探してもいないのかしら……」
そうなんだよな。大枚払って買ったかもしくは、現地へ行って連れ帰ってきた。という手間を掛けた割には、あのコを探そうともしていない。仮に、何らかの事情があって飼えなくなった。としても、それが金銭的問題だったら売ってしまえばいい。それ以外の可能性は……
「もしかして、飼い主は既に死んでいる。とか?」
「ああ、確かにそれは有り得るわね。不慮の事故で死んでしまったら探し様が無いものね」
なんかソレが一番可能性が高いな……
「おばさま。最近亡くなられた貴族の方って居ますか?」
「んー……、ちょっと待ってね。今、新聞を持ってくるから」
そう言い残し、おばさまは店の奥へと入って行った。