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百五十六

 飼い主探しの最後のお相手は、思わず抱き締めたくなる程に可愛らしいヘーゼルナッツ……もとい、ナツ=ヘーゼルちゃん。


 貴族が着る服には程遠いが、明らかに余所行きであろう服を着込んで、椅子にちょこん。と座って足をプラプラと動かしている。


「それじゃナッちゃん。お姉さんに教えてね? この動物はナッちゃんが飼っているの?」


 私が出した似顔絵に、ナッちゃんは何かを思い出した様で、スカートのポケットに手を突っ込んで、折り畳まれた一枚の紙を取り出した。


 その紙を持って椅子の上に立ち上がったナッちゃんは、クシャクシャになってしまっている紙を広げ、両腕を真っ直ぐ前に突き出した。その姿は、小学校低学年生の作文を読む時の様な格好に良く似ている。


「このこは、ナツのともだちに、まちがい、ありません。だから、ナツに、かえしてください」


 棒読み……ってか。


「ちょ、ちょっと待って」


 震える手で、ナッちゃんが持っている紙切れをビシッと指差す。


「な、ナッちゃん。そ、それは何かな……?」

「ママがね。これを読みなさいって」


 いたいけな幼女に何させとんじゃ母親っ!


「ご、ごめんねナッちゃん。それじゃダメだから」

「えーっ。ナツ、このことお友達になりたいのぉ。いいでしょぉお姉ちゃん」


 目を潤わせながらの上目遣いの懇願に、私の胸がキュンキュン言い出す。


「ま、まさかそれもママが……?」

「うんっ。ダメって言われたらこうしなさいって」


 純真無垢な幼女に、要らぬ知恵を吹き込むんじゃないっ!


 渋るナッちゃんをなんとか説得し、お家に帰した。ホッとしたのも束の間だったなぁ……。最後の子が一番疲れた……




「どうでした?」


 結果を聞いてきたリリーカさんに首を横に振る。


「ダメでしたか……」

「もういっそ、あげちゃおうか迷ってた人も居たけどね」


 その人物とは言わずと知れた幼女である。母親が余計な知恵を吹き込まなければ、つい渡していたかもしれない。


「これからどうなさるおつもりですか?」

「飼うしかなさそうだね……。最後の頼みは冒険者ギルドの掲示板だけど、今まで捜索依頼を出してなかった事を思えば、望みは薄いだろうな……」


 成長すれば虎ほどにもなる『リンクス』を、何時までも置いておける筈も無く、ゆくゆくは住む場所も変えねばならなくなると思うと頭が痛い。


「ところで、フレッドさんは……?」


 機器を使用中には立ち会う約束だったが、(つい)ぞ姿を見なかった。


「先程からアソコにいらっしゃいます」


 リリーカさんが指差すその先に、長椅子に腰掛けて一点を見つめ、ブツブツ。と何かを呟くフレッドさんの姿があった。どうやら私からの質問で呼び出しベルが鳴った事に、葛藤をしている様子だった。

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